「共有制度」や「相隣関係」のルール変更が行われ、新しい「財産管理制度」も創設されます

令和5年4月1日より民法その他の法律が改正され、土地や建物などを規律するルールが一部変更されます。変更点としては、「土地建物に特化した財産管理制度の創設」、「共有制度」・「相隣関係」の見直しがあります。


ルール変更の背景には、「所有者不明土地」問題や「所有者の所在不明」問題があります。連絡を取りたくても相手が分らないことによって、不動産の利用や改良、処分等に大きな制約が発生しています。この問題に対する法的な解決方法が新たに出来上がったということです。

制度の変更内容について順に見て行きたいと思います。

(「土地・建物に特化した財産管理制度の創設」)

現在「所有者不明土地・建物問題」が大きな社会問題になっています。東日本大震災の復興事業では、高台移転事業などで大きな障害となりました。通常の公共事業や民間取引の妨げになっている場合もあります。また、いわゆる「ゴミ屋敷」等の管理不全の住宅が、近隣住民に対して大きな悪影響を発生させ問題となっています。


これまでは、所有者の不動産に対する権利が法的に強く守られていたため、所有者が不明であれば、所有者を探し出してその了解を得なければ問題の解決が難しい状況でした。また、所有者の不動産に対する管理に問題があり、近隣住民に対して悪影響が発生していても、所有者に管理を強制する方法は、行政代執行など一部の特別な制度以外には対処方法がありませんでした。

今回、このような所有者不明の不動産や管理不全の不動産に対する新しい財産管理制度が創設されました。所有者が不明であったり、所有者による管理が適切にされていない土地・建物を対象に、個々の土地・建物の管理に特化した新しい財産管理制度が創設されました。今回新たに創設された制度は、「所有者不明土地・建物管理制度」と「管理不全状態にある土地・建物の管理制度」です。

◆ 「所有者不明土地・建物の管理制度」について

調査を尽くしても所有者やその所在を知ることのできない土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。管理人は、必要な場合、裁判所の許可を得て、所有者不明土地の売却等を行うことができます。


◆「管理不全状態にある土地・建物の管理制度」について

所有者による管理が不適当であることによって、他人の権利や法的利益が侵害され又はその恐れがある土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることによって、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになりました。

近隣住民に悪影響を与えている「ひび割れや破損が生じている擁壁の補修工事」、「ごみの撤去」、「ねずみ等の害虫の駆除」などを管理人にお願いすることができるようになりました。


◆ 管理人の選任方法

管理人には、事案に応じて、この種の問題に経験豊富な 弁護士・司法書士・土地家屋調査士等が裁判所によって選任されます。


◆ 制度利用上の予想される課題

財産管理人による財産管理制度が創設されたことは、企業や公共団体がこの制度を活用するメリットは大きいと思います。しかし、個人が活用するには費用負担の面で課題があると思います。

利害関係人として裁判所に申し立てるには、申立費用がかかります。管理人の報酬についても予納金として一定額を納める必要があると思います。

不動産に対する管理費用の負担は、最終的には所有者が負担すべきものとなります。しかし、所有者が不明であったり、任意に支払わない場合は問題となります。対応策として、管理人による管理財産の処分行為や所有者に対する支払請求行為(訴訟など)が必要になります。

しかし、十分な資金回収の目途が立たない場合は、申立人の負担になる可能性が高くなります。企業や公共団体など必要経費や予算で対処できる場合は良いのですが、個人として活用する場合は、費用負担がネックになる恐れがあります。今後の具体的な運用方法を見て行く必要がありますが、個人が積極的に活用できるように何らかの公的な支援が必要になるかもしれません。


次に、今回の改正の2つ目「共有制度の見直し」について見て行きます。

(「共有制度の見直し」の背景について )

共有状態にある不動産について、共有者の中に所在不明者がいると、その利用に関する共有者間の意思決定をすることができなくなります。例えば、親の相続で実家を兄弟で相続したが、弟が行方不明になっているような場合です。実家を売却して新たな活用を図りたいと思っていても売却することができず「塩漬け状態」になっている場合があります。このようなケースを少なくしたいという思いがあると思います。

また、共有に関する現行の制度が、所有者不明土地問題をきっかけとして、時代に合っていないことも明らかになりました。そこで、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくする観点からも、共有制度全般について見直しが必要になったということです。

◆「共有物を利用しやすくするための見直し」について

共有物の「軽微な変更」について、従来は全員の同意が必要でしたが、持分の過半数の決定で可能となるよう変更されました。軽微な変更まで全員の同意は不要と判断されました。

また、所在不明の共有者がいる場合、他の共有者は地方裁判所に申し立てて、その決定を得て、以下の行為をすることができるようになりました。

① 残りの共有者の持分の過半数で「管理行為」をすること。

例えば、共有者の中の1人がその不動産を使用したり、保全のために不動産の補修を行うこと等ができます。

② 残りの共有者全員の同意で「変更行為」をすること。

例えば、農地を宅地に造成したりすることができます。

つまり、所在不明者を除外して、事を進めることが一定範囲でできるようになりました。

 


◆「共有関係を解消しやすくするための新たな仕組みの導入」について

所在不明な共有者がいる場合、他の共有者は、地方裁判所に申立てて、その決定を得て、所在不明な共有者の持分を取得したり、その持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡することができるようになりました。

こちらも所在不明者を除外して、事を進めることができるようになりました。

但し、所在不明者の持分は、財産権として保証する必要があるので、第三者に売却したときなど所在不明者の持分相当額は供託所に金銭として供託する必要があります。

最後に、「相隣関係の見直し」について見て行きます。

(「相隣関係の見直し」)

相隣関係とは、ご近所で隣どおしの生活環境における一定のルールということがてきます。

特に土地や建物に関するお互いに守るべきルールということができます。隣人が現に住んでいれば話し合いができるのですが、隣が長期間「空き家」状態の場合、相手がいないため困ることになります。

隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合、隣地の所有者から隣地の利用や枝の切り取り等に必要な同意を得ることができません。そのため、土地の円滑な活用が妨げられる場合があります。


◆ 「隣地使用ルールの見直し」について

境界調査や越境してきている竹木の枝の切り取りなどのため隣地を一時的に使用することができるようになりました。また、隣地の所有者やその所在を調査しても分からない場合にも隣地を使用することができる仕組みが設けられました。

◆「ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備」について

水道管やガス管などのライフラインを自己の土地に引き込むために、導管などの設備を他人の土地に設置する権利や、他人の所有する設備を使用する権利が明らかにされました。

このなかで、設置や使用にあたっての「事前の通知」や「費用負担」等に関するルールも整備されました。


◆「越境した竹木の枝の切り落としのルールの見直し」について

催促しても越境した枝が切除されない場合や竹木の所有者やその所在が調査をしても分からない場合は、越境された土地の所有者が自らその枝を切り取ることができる仕組みが整備されました。

これにより、訴訟などによらずに枝の切除ができるようになりました。


(まとめ)

「空き家」問題の広がりの中で、不動産の所有者が不明なことや、所有者の所在が不明なことが日常的によく見られるようになっています。その結果、不動産の有効活用が阻害されて大きな社会問題となっています。

一つの原因として、相続による名義変更(相続登記)が放置されたまま長期間が経過していることがあります。今回の改正は、このような実態に即して、何とか不動産が有効活用できるように法制度を変更したものといえます。

根本的な対策として、相続登記の義務化が来年度より開始しますので、あわせて相続による名義変更の促進も必要になります。今回の改正によって、不動産の有効活用ができることを願っています。

 

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