「タワマン節税」訴訟に対して下される最高裁の判断が注目されています

相続税の節税対策として昔から使われている手法に「金融資産を不動産にして相続する」があります。これは、現金や預貯金は相続発生時に額面通り相続財産として評価されるのに対し、現預金を土地に形を変えておけば実勢価格の80%で相続財産として評価されるからです。


土地の相続発生時の評価額は、「路線価」をもとに計算されます。路線価は実勢価格の80%程度に設定されているため20%の節税になるのです。もちろん、土地の形状など色々な条件によって路線価に対して増減が発生する場合がありますので、単純に路線価だけで相続税額は計算できません。しかし、基準となる土地の評価額を低くできるので節税になります。

相続が発生した時、土地の評価額をどのように計算するかは本来的には難しい問題です。不動産鑑定士に評価してもらうのが確実だと思います。しかし、毎年何十万件と発生する相続に対して簡便に評価額を算定できなければ相続の実務が回りません。そこで、国税当局が「路線価」を基準にして相続税の申告をするように通達を出しているのです。

今回の「タワマン節税訴訟」は、この国税当局の通達に従って、タワーマンションを相続した相続人が路線価をベースにして相続税申告をしたところ、国税当局から否認されたというものです。


国税当局の言い分は、原則的には路線価で申告すべきものだが、路線価で算定した結果が実態とかけ離れた結果になる場合は、路線価によらずに適正に評価した額で課税することができるとするものです。根拠法令として、『国税庁長官の指示に基づき、納税者が評価した財産価格を国税が「著しく不適当」とした場合、路線価によらず相続税額を算定できる』(「財産評価基本通達6項(総則6項)」)をあげています。この「総則6項」は「伝家の宝刀」とも呼ばれる規定です。

路線価と実勢価格の隔たりに注目した節税は広く行われていますが、節税対策としてタワマンを活用した富裕層の高額節税行為に対して、業を煮やした国税当局が伝家の宝刀を抜いた形になっています。

2019年1審の東京地裁は国側の主張を認め「総則6項」を適用しました。2020年6月の2審の東京高裁も国側の主張を認めました。この結果、タワマンの相続税評価額は、路線価をベースとすることなく、不動産鑑定によった評価額よって評価されることになりました。


これを不服とする原告は、最高裁判所に上告したのです。原告側は、「節税の意図があったとしても、路線価によらない評価手法によるべき特別の事情に当たらない」「特定の相続案件について、狙い撃ち的に相続財産の評価手法を、不動産鑑定によって評価することは平等な取扱いに反する」「意図的な課税強化は許されない」と主張して全面的に争っています。

これに対して、国税当局は「路線価と実勢価格との間に著しい開きがある」「申告されたマンションの評価額が客観的な価値を示していることには疑いがある」「路線価による評価手法を画一的に適用し、形式的な平等を貫くと、実質的な税負担の公平を害する」として「総則6項」の適用は適法であると主張しています。

通常、この種の訴訟は、国側が勝訴する可能性が高いと言えます。租税に関する訴訟については、特にその傾向が高いと思います。「総則6項」の適用については、過去の裁判では国側がいずれも勝訴しています。世間では、今回の原告の主張も最高裁で退けられるのではないかと考えていました。


ところが、最高裁は、令和4年3月15日、上告審弁論を開きました。単純に上告棄却するのであれば、通常、弁論は開かれません。何らかの判断が最高裁から出される可能性が高くなっています。「総則6項」に対して逆転判決が出る可能性もあります。逆転となれは、高裁に差し戻されることになります。注目の判決は4月19日に予定されています。

逆転判決が出るかどうかは微妙ですが、少なくとも最高裁として「総則6項」が税務当局によって恣意的に運用されることを防止するための運用基準を明確化することが予想されます。具体的にどのような条件が揃えば、路線価ではなく不動産鑑定評価を税務当局が行うことができるのかについて明示する可能性があると思います。

その基準に照らして、今回の事例のケースがどうなるかを示すと思います。今回のケースは原告側が建築資金の銀行借り入れをするなど節税対策を駆使して高額の資産を相続税0円で申告しています。原告側が実質的に敗訴する可能性も否定できないと思います。


いづれにしても、今回の判決結果によっては、不動産を活用した相続税の節税対策に大きな影響が出ることが予想されます。路線価を活用したタワマンなどの高額物件の節税対策にも影響が出ることが予想されます。判決結果には注目していきたいと思います。

 

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