家族信託は、設定後の毎年の税務申告にもお気を付け下さい

家族信託についてテレビや週刊誌など色々な媒体でその効能が報道されているため、活用を検討されている方も多いと思います。家族信託は、認知症対策や遺産の承継対策、共有不動産の有効活用や親なき後問題への対策など色々な用途への活用が広がっています。

家族信託の設定はご自身で勉強されて設定する場合もあると思いますが、通常は、家族信託に詳しい弁護士や司法書士、税理士に相談して設定する場合が多いと思います。各専門家は、依頼者やその家族の置かれた状況を詳しく確認して、依頼者ごとに最適な家族信託契約をオーダーメイド的に設計し、依頼者とその家族に提案すると思います。

そして、何度も話し合いを行って契約内容の見直しや修正を繰り返して、やっと1つの完成した家族信託契約書が完成します。口座開設や担保の関係で必要な場合は、金融機関に対しても事前に契約内容の確認を行います。このようにして完成した契約書を公証役場に持ち込んで、公証人によって公正証書にしてもらいます。

信託財産に不動産が含まれていれば必要な登記を行います。ここまで終わってやっと家族信託契約の設定作業は完了となります。これらに要する時間は、通常2~3か月は必要になると思います。事案によっては、半年程度かかる場合もあるかと思います。

このように苦労して家族信託契約が設定できると、そのことに安堵して気が抜けてしまうことがあります。しかし、家族信託は設定後が重要であり、これからが本番ということを理解する必要があります。家族信託契約では、受託者と定められた方が委託者より信託された財産を委託者に代わって管理運用していかなければなりません。このために苦労して信託契約を設定したのですから。

もちろん、信託財産の管理運用といっても日々作業が発生するようなものは少ないと思います。自宅の管理であれば、修繕作業が発生しないのであれば、固定資産税などの経常経費の支払程度の作業かもしれません。しかし、賃貸アパートなどの収益物件の管理であれば、毎月の定例の管理作業が必要になります。管理会社に管理を委託するのであれば、定期的な連絡調整が必要となります。

信託財産の管理運用作業は、信託された財産の種類に応じて色々な作業があると思いますが、どの場合にも共通する作業項目として、税務関係の報告や申告作業があります。賃貸アパートの経営をされている方など、事業活動を行っている方にとっては当然のことと思われますが、事業活動をされていない一般の個人の方にとっては、税務関係の手続きは分からないことや負担に感じることが多いと思います。

特に高齢の親のために認知症対策としてサラリーマンのご子息が家族信託契約を設定したような場合は、税務関係の手続きについて不慣れな場合が多く、信託開始後、苦戦する場合があります。

信託契約の受託者や受益者が、毎年および必要な事象が発生した都度、税務関係の報告や申告が必要になることを家族信託契約を設定する段階で十分理解して頂く必要があります。この点の注意喚起が意外と大切であると思います。

税務関係の報告や申告内容は、次の通りとなります。

まず、信託を設定して効力が発生した場合は、受託者は「信託に関する受益者別調書」「信託に関する受益者別調書合計表」を受益者別に、受託者の所在地の所轄税務署長に、各事由が生じた日の属する翌月末日までに提出しなければなりません。

なお、信託の途中で受益者が変更になった時、信託が終了した時、信託の権利内容が変更になった時も、翌月末までの提出が必要になります。

但し、次の場合は、提出が不要となっています。経済的な利益が少ない場合や利益が実質的に移転していない場合については、報告を求めていないということです。

① 信託財産の相続税評価額が50万円以下である場合
② 信託設定時に委託者と受益者が同一である場合
③ 信託の終了の直前の受益者が、受益者等として有していた権利に相当する当該信託の残余財産の給付を受け、または帰属する者となる場合
④ 終了時に残余財産がない場合    など

次に、毎年の定例報告として、受託者は「信託の計算書」「信託の計算書合計表」を受託者の所在地の所轄税務署長に対して、毎年、翌年の1月31日までに提出しなければなりません。

こちらについても、次の場合は、提出が不要となります

① 信託の収益の額の合計が3万円以下の場合
 (計算期間が1年に満たない場合は、1万5千円)

賃貸アパートなどを管理する場合は、通常、必要となりますが、自宅の管理の場合は収益が発生しませんので不要となります。

さらに、受託者は受益者に対して、信託事務に関する計算と信託財産に属する財産および信託財産責任負担債務の状況を明らかにする必要があります。また、信託財産に関する帳簿類を作成し、毎年1回、信託契約に定める時期に、「貸借対照表」「損益計算書」を作成しその内容について、受益者に報告しなければなりません。

受益者は、受託者から報告を受けた貸借対照表と損益計算書を基に受益者の信託収益に関する「所得税の確定申告」を行わなければなりません。提出期限は毎年3月15日までとなっています。信託財産に関する収益は、全て受益者の収益として確定申告する必要があるからです。

受託者による受益者への報告内容と受益者による確定申告の計算対象期間が一致するように、信託契約の中に「計算の期間」という条項を設けて、この計算期間を「毎年1月1日より12月31日」とします。これにより、報告内容と申告内容の計算期間が一致するため確定申告が円滑に行えます。

このように、家族信託はスタートしてからの管理・運用面で、想定外のところで負荷がかかることがあります。他の事業の関係などで顧問の税理士がいる場合は別として、事前に、これらの点についても十分に理解されて必要な準備をされることが大切だと思います。

家族信託の効能は大きいので、多少の苦労は乗り越えなければならないと思います。税務申告の流れも一度理解してしまえば、後は毎年、基本的には同じになりますので慣れれば問題なくできると思います。勿論、心配な方は家族信託に詳しい税理士に相談されれば良いと思います。

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