配偶者居住権を遺言書で定めるにはどうすればよいですか
長年連れ添った配偶者に自宅での居住を保障したいが、自宅以外にめぼしい財産がなく、他の相続人に相続させる財産がない場合の対応方法について悩まれる方も多いかと思います。特に他の相続人が先妻との子供である場合、状況によっては深刻な問題となります。
高齢の夫婦と長男、長女等の家族では、通常、父親が亡くなった後の母親の住居について、母親が希望すれば、引続き自宅に母親が住み続けることができるように配慮されると思います。この場合は、配偶者居住権を考えなくとも何ら問題は生じないと思います。
問題は、他の相続人が交流のない先妻の子である場合や実子である長男、長女の妻や夫が長男、長女に代わって権利主張される場合です。相続できる財産が自宅以外にない場合、最悪の場合、自宅を売却して売却金を分配する事になります。
このような問題に対処できるように平成30年に民法が改正され「配偶者居住権」が創設されました。配偶者居住権は、「遺産分割」、「遺贈 (遺言のこと)」、「死因贈与契約(夫が亡くなったら配偶者居住権を贈与するという生前契約)」で取得することができます。
「遺贈」によって取得する場合は、遺言書に次のような条項(例)を記載します。
第××条 遺言者は、自宅である別紙目録記載の不動産の配偶者居住権を、妻山田花子(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に遺贈する。
第△△条 遺言者は、自宅である別紙目録記載の不動産を長男山田太郎(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる。
これにより、自宅の所有権は、長男山田太郎が取得し、自宅の利用権である居住権は母親である山田花子が取得します。山田花子は終生に渡って自宅に住み続けることができます。
注意すべき点は、配偶者居住権は「遺贈」によって取得するという点です。これを「…… 妻山田花子(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる。」としてはいけません。これは妻が配偶者居住権の取得を何らかの事情によって希望しない場合、相続放棄をするほかないことになり、妻の利益を害する恐れがあるからです。相続放棄をすると全ての遺産について相続することができなくなるからです。
なお、配偶者居住権は、内縁の妻(配偶者)の場合は適用ができません。法律上の正式の妻(配偶者)に限定されています。内縁の妻に自宅の居住権を確保するためには、改正前の民法下で行われていた、次のような対応方法を取ることが考えられます。
平成30年改正前の民法の下では、相続財産が自宅しかない時に夫が妻に自宅を遺贈した場合、夫が亡くなった時、長男等の他の相続人は、妻(母親)に対して遺留分減殺請求権をすることができました。遺留分減殺請求がされると、自宅は自動的に妻(母親)と長男等の他の相続人と共有状態になりました。
遺産相続の方法について、妻(母親)と他の相続人との話し合いがつかなければ、長男等は共有状態にある自宅の共有物分割請求を行うことができました。これにより、自宅は売却され売却金を相続人で分配することになりました。
このような状況を避けるために、実務では、夫は次のような遺言書を作成していました。
① 自宅を妻と他の相続人との共有とする。
② 他の相続人は、妻(母親)の生存中、妻(母親)を自宅に住まわせることとする。
③ 一定の期間(通常は5年間)共有物である自宅の共有分割を禁止する。
具体的な遺言書の条項(例)は次のようになります。
第××条 遺言者は自宅である別紙目録記載の不動産を、妻山田花子(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)及び長男山田太郎(昭和〇〇年〇〇月〇〇日生)に持分2分の1ずつの割合で相続させる。
ただし、長男山田太郎は、前記不動産を相続することの負担として、妻山田花子が死亡するまで妻山田花子に前記不動産を無償で使用させなけれはならない。
第△△条 遺言者は、自宅である別紙目録記載の不動産について、その分割を相続開始から5年間禁止する。
この取り扱い方法を内縁の妻(配偶者)の場合に活用(応用)するのです。但し、この取り扱いは、残された妻の年齢などによっては、長男に不当な負担を負わせることになり、権利の乱用にあたる場合も想定されます。通常のケースであれば、問題なく認められると思いますが、状況によっては、注意が必要になる場合があります。
法律婚の妻の場合は、このような点を心配することなく、残された妻の居住権の確保ができる新法の「配偶者居住権」は有難い制度だと思います。是非、有効活用して頂きたいと思います。