遺言書で財産を相続する予定の相続人が先に亡くなった場合、その者の子が相続できるのですか

例えば、父親が遺言書を作成して「自宅は長男、預金は長女、株式は次男に相続させる」旨の遺言書を作成したとします。父親が亡くなれば遺言書に従って遺産を相続すれば良いことになります。ところが、長男が父親が亡くなる前に不慮の事故や病気で亡くなることがあります。長男に2人の子供がいた場合、遺言書によって長男が相続する予定の自宅について2人の子供が相続することができるのでしょうか。


特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言書のことを「特定財産承継遺言」といいます。今回は、この特定財産承継遺言についての話になります。

(「特定財産承継遺言」とは )

相続に関して、各相続人がどのように相続するかについて民法は「法定相続分」という考え方を採用しています。夫婦と子供2人の家庭で父親が亡くなれば「 母が1/2、長男1/4、長女1/4 」の割合で相続するというものです。ところが、相続財産に対する分数的な割合では実際問題として相続手続をすることができません。相続財産には、不動産や預貯金、株式、書画骨董、貴金属など色々なものがあります。具体的に誰がどの財産を相続するかを決めなければ話は進みません。

そこで、遺言書がなければ、各相続人の法定相続分も参考にしながら相続人全員で誰がどの財産を相続するかを決めることになります。これを「遺産分割協議」と言います。

今回の話題である「特定財産承継遺言」は、この各相続人が遺産分割協議で行う遺産分割の方法を父親が生前に遺言書で行っておくというものです。父親は自分の財産に対する処分権者ですので遺言書に定めれば自由に遺産の分割方法を指定することができます。

このように特定財産承継遺言は、「遺贈」と解される特段の事情のない限り、誰にどの財産を相続させるかを決める「遺産分割方法の指定」と考えられています。遺贈を除外しているのは、遺贈は相続人以外の第三者に対しても行うことができることから法定相続分と言う考え方がないからです。

そして、遺言で指定された相続財産の価格が相続人の法定相続分を超えるときは「相続分の指定」の趣旨も含まれるとされています。この点は今回の事例の場合、非常に重要なポイントになります。(後から詳しく述べます。)


(「特定財産承継遺言」と「代襲相続」について )

今回の事例のように、相続権を失った長男に子がおり、その子が亡くなった父親の直系卑属にあたる場合は、その子が相続権を失った長男に代わって、その相続分を同一順位の相続人として承継します。これを「代襲相続」といいます。

今回の事例の亡くなった長男の2人の子は、遺言者である亡くなった父親の代襲相続人ということになります。

ところで、今回の遺言書が特定財産承継遺言ではなく遺贈であれば、民法の定めにより「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効を生じない」とされています。つまり、遺言書で財産をもらう人と指定された方 ( 受遺者と言います ) が先に亡くなった場合は、その方への財産の承継は無効になるとされています。

今回の事例に則していえば、父親が亡くなる以前に長男が亡くなっているので、父親の書いた遺言書のうち長男への部分は無効になるということです。当然、2人の子供への相続も認められないということになります。

ところが、特定財産承継遺言は、先ほど述べた通り「遺贈」ではなく「遺産分割方法の指定」とされていますので遺贈に関するこの定めを直接適用することができません。

それでは、特定財産承継遺言についてはどのように考えれば良いかが問題になります。つまり。特定財産承継遺言の場合は代襲相続が認められるか否ということです。この点について争われた裁判では「遺言者が代襲相続人に相続させる旨の意思を持っていたと見るべき特段の事情がない限り代襲相続は認められない」と判断されました。

これにより、現在では、相続人が遺言者より先に亡くなった場合は、その者を対象にした特定財産承継遺言は、原則として、効力を有しないとされています。今回の事例では、遺言書に長男が亡くなった場合を想定して2人の孫に相続させる旨の定め (これを「補充的な遺言」といいます ) の有無を確認し、このような記載がなければ、代襲相続は基本的には難しいということになります。


( 遺言書で無効になった部分の相続はどうするのか )

遺言書で長男に相続するはずであった親の自宅の相続はどのように処理するのでしょうか。この場合は、相続人全員で「遺産分割協議」をして相続人を決めることになります。但し、今回の相続人は、長女と次男の2人だけではなく、亡くなった長男の2人の子も相続人となります。

2人の子は長男の代襲相続人として相続人となります。長女と次男と2人の長男の子が相続人となりますので、この4人で遺産分割協議をして相続先を決めることになります。( 但し、2人の子が未成年の場合は特別代理人を選任する等の行為は必要になります。)


( 遺産分割協議での公平性はどのように担保されるのか )

4人の相続人間での遺産分割協議について、長女と次男は既に預金と株式を相続していますので、2人の子供との間で相続における公平性が問題になります。

これまで述べてきたとおり、特定財産承継遺言は、特段の事情のない限り、遺贈ではなく、遺産分割方法の指定とされています。また、対象とされた相続財産の価格が法定相続分を超えるときは「相続分の指定」の意味も含むと考えられています。

つまり、特定財産承継遺言によって財産を相続した相続人の取得財産が、その者の法定相続分を超える時は、その者に対する「相続分の指定」となり、残りの遺産に対する相続分はないことになります。既に自分の相続分の枠を使い果たしているので、さらに相続することができないのです。

反対にその者の取得する財産の価格が法定相続分に届かない場合は、残りの遺産に対しても相続分を有することになります。その場合は、それらの者を入れた全員で遺産分割協議をすることになります。


( 今回の事例の結論 )

今回の事例では、長女と次男は既に相応の財産を相続していると考えられます。亡くなった父親の自宅の相続については、相続人4人で遺産分割協議をして決定しますが、相続先は長男の2人の子のいずれか ( 又は共有 ) になるものと思われます。

(まとめ)


遺言書で財産を相続させる場合は、相続人の1人が不慮の事故に遭うなど万一のことも想定する必要があるかもしれません。但し、あまり神経質になって色々なことを考えると遺言書の内容が複雑になります。

年齢が比較的高い場合や持病などがある方の場合など万が一のことが想定できる場合は、予備的な記載も必要になるかもしれません。遺言書の作成を依頼する司法書士などに相談下さい。

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