遺言書で「妻に財産を譲る」と書いたあと「離婚」した場合はどうなるのですか

夫婦仲が良かったときに相続手続でもめることのないように夫が妻に財産を譲る旨の遺言書を作成する場合があります。その後、夫婦仲が段々と悪くなって、遂に離婚してしまうことがあります。このような場合、夫婦仲が良かった時に作成した遺言の効力はどのようになるのでしょうか。

作成した遺言の効力に何ら影響を与えないのか、それとも遺言書が全て無効になってしまうのか。あるいは、妻に財産を譲るとした部分だけが無効になるのか。結果次第で夫が亡くなった後の相続手続に大きな影響を与えるので気になるところです。


今回は遺言書を作成した後に離婚した場合について見て行きたいと思います。

 

(  遺言書は有効か無効か )

遺言書を作成した後に離婚をしたとしても遺言書は原則として有効であると考えられています。離婚したからと言って遺言書が直ちに無効になることはないのです。これが基本となる考え方です。

夫婦仲が良かった頃、夫は心から妻に財産を譲るつもりで遺言書を作成しています。作成された遺言は、その当時の夫の真正な意思の表れです。遺言書は作成された当時の遺言書の意思に従って執行されるものなのです。


しかし、「その後夫婦仲が悪くなって離婚しているから、そんな気持ちは既になくなっていることが多いはずだ。」「だから遺言書は無効ではないか」と考えたくなります。その考え方も理解できますが、法律的な理屈が必要になります。

遺言書は、遺言書を書いた当時の遺言書の意思の実現をするための法制度です。その意思を最もよく表した書面が遺言書です。従って、仮に離婚したとしても妻に財産を譲るとした気持ちは変わっていないかもしれません。もちろん、多くの場合は変わっているでしょうが、それを明確に判断 (証明) することは難しい場合が多いのです。

遺言書は遺言書を書いた後、気が変わったら、いつでも何の制約もなく、これを自由に修正変更したり撤回することができます。つまり、離婚の前後に遺言書を撤回していないという事実は、遺言者が遺言書の内容を維持するつもりであったと考えることもできるのです。

このようなことから、離婚の事実だけで遺言書が無効になることはないということになります。


( 事情によっては「無効」になる場合もある )

遺言書を作成した後、遺言者がこれと抵触する内容の「処分」をした場合は、その抵触した処分に関する部分については、遺言書を撤回したものとされています。前述したように、遺言書は遺言書を作成した後、いつでも自由にこれを修正したり撤回ができます。

具体的には、遺言書の内容を訂正したり、新しい遺言書を作成したりできます。遺言書が複数存在する場合は、作成日の新しい遺言書が有効なものとなります。また、このような遺言書の書換によることなく、直接的に遺言によって譲るとされた財産を処分することによって遺言の意思を撤回することができます。

例えば、遺言書で「妻に自宅を相続させる」と書いた後、自宅を第三者に売却すれば、遺言書の該当部分は自宅の処分行為によって撤回されたものとされます。

このように、遺言書を作成した後に、これと抵触する処分をすると抵触する部分については遺言書を撤回したものとされます。問題はこの処分行為に「離婚」が含まれるかです。離婚は身分上の行為であり財産上の処分行為ではありませんが、財産上の処分行為に匹敵するような行為になるかということです。


もちろん、離婚があれば当然に処分行為があったことにはなりません。処分行為に匹敵するかどうかは、離婚の態様次第ということになります。前述したとおり、離婚をしたかどうかにかかわりなく、相手方に財産を渡したいというのが遺言書の意思ということもあるからです。

つまり、遺言書が無効になるかどうかは別れ方の態様次第ということになります。不倫などを原因として憎悪が高まって別れる場合は、「離婚」と言う行為が、遺言書の内容に抵触する「処分」行為と同等の行為と考えることができる場合があるということです。

このような場合は、事情によっては遺言書が無効になる場合があるということです。


( 遺言書がある状態で離婚するときの対応方法 )

過去に遺言書を作成しているケースで離婚する場合は、一旦、遺言書の内容を撤回する旨の遺言書を作成すると良いかもしれません。過去の思いは白紙にした上で、離婚時の財産の移動は離婚に伴う「財産分与協議」で決めるのです。

このようにすれば、過去に作成した遺言書によって相続発生時にもめることもなくなります。離婚時にもめて、相続時にまたもめるのは回避すべきです。


(まとめ)

遺言書を作成する方は年々増えています。相続手続を円滑に進めたいという思いや自分が亡くなった後の相続手続で争いのないようにしたいと考える方が増えているからです。

一方で夫婦の3組に1組が離婚する時代です。最近は婚姻期間が長い「熟年離婚」が増加しています。

つまり、遺言書を書くのは熟年世代であり、離婚する方が多いのも熟年世代であるということです。今回の話題で取り上げた問題は意外と身近な問題になり得るということです。

夫婦はできる限り終生睦まじく円満でいてもらいたいと思います。しかし、今回のような問題が発生する恐れがある場合は、事前に弁護士や司法書士に相談頂いた方が良いかもしれません。

 

Follow me!