遺言で自宅や賃貸不動産について書きたいのですが、将来不動産を処分した場合に備えた内容にできますか

遺言者に妻と長男がいる場合について、自宅は妻に相続させ、賃貸不動産は長男に相続させたいと考えています。しかし、現在住んでいる自宅マンションにはエレベータがないため今後足腰が弱くなると上り下りが難しくなります。そこで、エレベータなどの施設の充実したマンションに将来引っ越しを検討するかもしれません。また、現在、賃貸不動産を経営していますが、建ててから相当な年月が経過しているため、今後立て替えをする必要があります。

このような場合において妻や長男に不動産を相続させる内容の遺言書を書きたいのですが、どのように書けばよいか悩むことになります。今回はこの問題について考えて見ます。


( 停止条件付の遺言について )

遺言書を作成した時と遺言者が亡くなって相続が開始した時において、相続財産の内容に変動が生じる場合があります。遺言書に書いた不動産の内容は、通常は変動しないことが多いと思いますが、設例のような場合は変動していることがあります。

遺言書に書かれている相続財産が変動して、相続開始時、遺言者の財産として実在していなければ、遺言書のその財産に関する部分は無効になります。つまり、その財産に関する遺言はなかったことになります。

そこで、そのような不都合を回避する手段として、遺言書に予備的に条件を付けて書いておくことがあります。これを「停止条件付の遺言」といいます。停止条件とは、指定された条件が満たされれば効力が発生する条件というものです。

今回の事例で言えば、「遺言者が相続開始までに別の自宅を取得した」ことが条件になります。賃貸不動産について言えば、「遺言者が相続開始までに賃貸不動産を建替えた」ことが条件になります。

そして、条件が満たされた場合、新しい自宅や建て替え後の賃貸不動産を相続する旨を予備的に遺言書に記載しておきます。こうすれば、将来の変更に対しても変更後の不動産を相続させることができます。


( 遺言書の記載例 )

今回の事例について「停止条件付遺言」の記載例を提示します。

……

第×条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を妻の○○○○ (昭和〇年〇月〇日生) に相続させる。

記 (不動産の記載省略)

2 遺言者が、相続開始までに、前項記載の不動産以外の住居の用に供する建物及びその敷地を取得していたときは、その建物及び敷地を妻の○○○○に相続させる。なお、「居住の用に供する建物及びその敷地」とは、相続開始までに、遺言者がその住民票上の住所とした場所に所在する建物及びその敷地をいうものとする。
‥‥

第×条 遺言者は、遺言者の有する下記不動産を長男の○○○○ (平成〇年〇月〇日生) に相続させる。

記 (不動産の記載省略)

2  遺言者が、相続開始までに、前項記載の土地の上に新たに建物を取得していたときは、同建物を長男○○○○に相続させる。

‥‥

 


( 賃貸不動産についての考慮点 )

今回の事例では、長男は賃貸不動産を相続します。賃貸不動産を遺言者が生前に「建替え」ると遺言者に新たな銀行借り入れが発生します。この借入債務をどのように相続するかという問題が付随的に発生します。また、遺言者が賃借人から預かっている敷金に対する返還債務の相続問題も発生します。これらについても疑義が生じないように遺言書に明記しておいた方が良いことになります。

まず、建替えに伴う新たな銀行借り入れなどの債務の相続について考えます。相続債務については、遺言書で承継者を指定することができますが、その効力は相続人間での効力にしかなりません。

長男に賃貸不動産を相続させると同時に銀行等からの借入債務も長男に負担させる旨の遺言書は有効ですが、その効力は相続人である長男と母親との間でのみ効力を持ちます。遺言者に融資をした銀行等が遺言書の定めに拘束されることはありません。

そのため、実際には相続発生後、長男が融資した銀行と交渉をして債務の引受交渉をする必要があります。銀行等からの債務は、遺言書でどのように書かれていても、法定相続分に応じて各相続人に承継されます。そのため、母親にも法定相続分である1/2の債務が相続されます。この母親が相続した債務を長男が引き受けて母親の債務を免責にしてもらうのです。これを「免責的債務引受」と言います。

銀行等は長男からの免責的債務引受の申出に対して長男の信用力に問題がなければ同意してくれると思います。


次に、遺言者が賃貸マンションなどの賃借人から受け取っている「敷金」についてです。敷金は賃借人が住居から退去するとき未払い債務等と相殺して清算し残金を返還する必要があります。

この敷金返還債務は、賃借人との関係では、賃貸不動産を相続した相続人が賃貸人の立場も当然に承継すると考えられているため、遺言書に書かなくても長男が承継することになります。つまり、遺言書に特に記載がなくても賃借人は賃貸不動産を相続した大家である長男に対して返還請求ができることになります。

但し、遺言書に「建物に賃借人がいる場合は、敷金返還債務は長男の○○○○が負担する」と明示的に書いておくことも多いと思います。


( まとめ )

変動の恐れのある相続財産について、遺言書でどのように書いたら良いか検討しました。預貯金などの相続財産は銀行口座情報のみを遺言書に書いておけば、残高が増減しても銀行口座情報の変更がなければ、遺言書としては問題がありません。

しかし、今回の事例のように不動産については、変更が発生すれば遺言書で不動産を特定した内容が全く変わってしまうため問題となります。今回ご紹介した「停止条件」を上手く活用して想定通りの財産承継ができるように工夫をして下さい。

 

 

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