遺言で法定相続人の一部を除いて「相続分の指定」がある時、どうすれば良いですか

父が亡くなり相続人として、長男、長女、次男の3人がいる場合において、父親が遺言書で「相続財産の3分の2を長男に、3分の1を長女に相続させる」と書かれていたケースが実例となります。生前に父親と次男の折り合いが悪く、事実上の勘当状態であったため、父親は遺言書で次男の相続分を「ゼロ」としたような場合です。このような遺言書がされていた場合、どのように相続手続を行なえば良いのでしょうか。


通常、遺言書の書き方として「自宅は長女に相続させる」「預金は長男に相続させる」とする書き方をします。これを講学上は「特定財産承継遺言」といいます。つまり、特定の財産を明示して「その財産は誰それに相続させる」とするものです。

この場合は、相続人の間で特に何もしなくても、遺言書の効力によって、父親が亡くなった瞬間に遺言書で明示された特定の財産は指定された相続人に相続されます。自宅は長女のものとなり、預金は長男のものになります。もちろん、これは権利関係を観念的に見た場合の話のため、実際には遺言書に基づいて自宅の名義変更の登記や預金の解約・払出し等の相続手続を実際に行なう必要があります。( なお、これを早めに行わないと他の相続人によって権利を侵害される恐れがあるので注意が必要です。)

ところで、今回問題になっている遺言書の書き方は、特定財産承継遺言ではなく「相続分の指定」をしています。全相続財産の分数的な割合を相続させるとなっています。そうすると、実際の相続手続を行なおうとすると相続財産のうち「何が3分の2であるか」「何が3分の1」であるかを決める必要があります。

今回は、このような「相続分の指定」がされている遺言書があった場合の対応方法について見て行きます。


( 相続分の指定がある遺言書はどのように手続を行なうのか )

相続分の指定がされている遺言書の場合、相続人によって遺言書の分割割合に応じて、相続財産のうち誰が何を相続するかを決める必要があります。このことを相続人による「遺産分割協議」といいます。

遺言書がある場合は遺産分割協議は不要と考えている方もいるかと思いますが、相続分の指定がされた遺言書の場合は遺産分割協議が必要になります。

この遺産分割協議の中で遺言者の指定した分割割合を基準にして相続人が話し合って「自宅は長男が相続する」「預貯金は長女が相続する」などということを決定します。

なお、遺言書の指定した割合に完全に従うこともできますが、通常は難しいことが多いと思います。全財産が預貯金などの金融資産であれば指定割合で分割することはできますが、不動産や書画骨董などの現物資産が含まれていれば、指定された割合で完全に分割することは困難な場合があります。

差額は相続財産の中の金融資産で調整することもできますが、相続人全員が同意すれば指定された割合に拘束されることなく分割することもできると考えられています。遺言書の指定と多少は異なるが、相続人全員が同意しているのであれば柔軟に分割しても良いということです。


( 今回の事例では問題は生じないのか )

今回の事例では、次男の相続割合が「ゼロ」となっています。そうすると、相続人による遺産分割の協議は誰と行うのでしょうか。長男、長女以外に持分ゼロの次男も協議に参加できるのでしょうか。

取り分のない相続人を遺産分割協議に参加させる意味はないので不要であると考えたくなります。しかし、法律的には、次男の参加は必須となります。この点が注意点となります。

次男を協議に参加させなければならない理由は、次男には「遺留分」があるからです。亡き父親と次男の仲が悪く事実上の勘当状態であったとしても、実際に勘当 ( 現在の法律では「廃除」と言います ) していなければ、相続人の1人ということなります。

そのため、遺言書で相続分を「ゼロ」としていても、相続人として最低限確保されている相続分である「遺留分」を次男から奪うことはできません。

次男は遺留分権利者として遺産の分割協議に参加することができますし、参加しなければ遺産分割協議は有効なものになりません。つまり、次男の参加は必須となります。遺産分割協議書に次男の署名捺印などがなければ遺産分割協議としては無効になります。

このような場合、現実問題として、次男は協議に参加するでしょうか。多くの場合、自分に何のメリットもない協議に参加しないと思います。そうすると、遺言書が存在しても相続手続ができないことになります。


( それではどのようにすれば良いか )

まず、事前の方策として、父親として遺言書を作成する場合はできるだけ特定財産承継遺言の形式で作成することです。親が相続先を決めるのではなく実際の相続先は相続人間の話し合いで決めてほしい場合もあります。その場合は特定の相続人の相続分をゼロとするようなことは避ける必要があります。遺留分相当の相続割合は与えるようにした方が無難であると思います。

また、現実的にこのような遺言書しかない場合は、次男を協議に参加する条件として次男に一定の相続分を与えることも必要になります。相続人全員で合意すれば、遺言書の指定割合には必ずしも拘泥する必要はないからです。

次男がどうしても参加しなければ、裁判手続きによって解決することになります。裁判手続きにおいては、裁判所が次男の遺留分にも配慮した分割方法が提示されることになります。

もちろん、次男が「相続放棄」の手続きを裁判所にしていれば、次男の遺産分割協議への参加はいらないことになります。しかし、これは通常考えられないことが多いと思います。


(まとめ)

相続分の指定方式の遺言書は意外と世の中に存在します。特に、高齢の方の遺言書では、具体的に相続財産を書く代わりに指定割合を明示する場合があります。全財産を与える場合は協議の余地がないので良いのですが、分数割合が書かれれば遺産分割協議が必要になります。

遺言をする場合は、実際に遺言者が亡くなった後の相続手続 (これを「遺言執行」といいます) まで考えて遺言書を作成してもらいたいと思います。遺言者の思いは大切ですが、相続人が相続手続で苦労することになる場合があるので、色々なことに配慮して作成してもらいたいと思います。

 

Follow me!