「配偶者居住権」を遺言書で定める場合、どのように書くのですか

平成30年の相続法の改正によって「配偶者居住権」が創設されました。令和2年4月1日の法施行日から実際に活用することが可能となっています。配偶者居住権とは、ごく簡単に言えば、夫婦で住んでいた夫(又は妻)名義の自宅について、夫(又は妻)が亡くなった後も残された配偶者が引続き居住することができる権利のことです。


配偶者居住権は、残された配偶者により多くの遺産が承継できるように考案された制度ですが、本来の使い方以外に相続税の節税対策での活用も広がっています。配偶者居住権を定めるには、遺言書に書いておくか遺産分割協議書などで定める必要があります。

本人が亡くなってから「遺産分割協議書」で定める場合は、相続人全員の同意が必要となることから、本人の生前に「遺言書」に書いて定めておく方が無難で確実です。そのため、確実に配偶者の居住権を保障したい場合は遺言書に定めることになります。遺産分割協議書で定める場合は、相続税の節税対策として行われている場合が多いと思います。

それでは、具体的に遺言書にはどのように定めれば良いのでしょうか。つぎに例を示します。


<前提条件>

・遺言者   亡き山田一郎
・遺言者の妻   山田花子
・遺言者の長男  山田太郎
・遺言者所有の自宅に遺言者と妻花子は住んでいた。
・遺産分割方法は、長男が自宅を相続し、妻は預貯金を相続する。
・妻は配偶者居住権を使って夫の残した自宅に居住する。


(配偶者居住権の遺言例)

第1条 遺言者は、遺言者の有する次の建物 (以下「本件建物」という。)について、無償で使用及び収益する権利 (配偶者居住権)を、同建物に居住している遺言者の妻山田花子(昭和31年9月11日生)に遺贈する。配偶者居住権の存続期間は、妻山田花子の死亡の時までとする。

(建物の表示)

所    在  名古屋市南区〇〇町2丁目21番地2721番3
種    類  居宅
構    造  木造瓦葺2階建
 1階 196.45平方メートル
 2階  44.71平方メートル

第2条 遺言者は、本件建物 (前条の配偶者居住権付きのもの) を遺言者の長男山田太郎(平成5年10月3日生)に相続させる

第3条  第1条の遺言執行者として、前記山田花子を指定する。遺言執行者は、配偶者居住権の設定の登記手続ほか第1条の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。


<記載に当たっての注意ポイント>

(1) 配偶者居住権の設定は、法律上の夫婦間でしかできないこと。

内縁の夫婦や事実婚、同性パートナーでは認められていません。相手方パートナーの居住権を保障するためには、別の手段を考える必要があります。

(2) 配偶者居住権は「遺贈」すると定めること。

配偶者居住権を「相続させる」と書いてはダメです。長男の自宅の相続については「相続させる」と書きますが、配偶者居住権は「遺贈する」と書きます。

(3) 配偶者居住権の存続期間は明示的に定めた方が良い。

配偶者居住権の存続期間は、何も定めなければ配偶者の終身間(亡くなるまで)となります。また、存続期間を「亡くなってから10年間 」とか「令和35年12月31日まで」など任意に定めることもできます。終身間についても明示的に記載した方が良いと思います。

(4) 遺言執行者を指定した方が良い。

配偶者居住権は、自宅に登記をすることによって自宅の相続人以外の第三者に対しても主張することができます。そのため、通常は配偶者居住権の登記を自宅に設定します。登記は、遺言執行者を定めておかないと、他の相続人全員と共同で申請する必要があります。そのため、遺言執行者を定めておきます。

(5) 令和2年4月1日以前に作成された遺言書では、配偶者居住権の設定はできないこと。

新しい法律の施行日である令和2年4月1日以前に作成された遺言書では配偶者居住権の設定はできません。設定が必要な場合は、新しい遺言書を作成する必要があります。


<配偶者居住権を設定することのリスクについて>

配偶者居住権は、利用価値の高い制度ですが、制度自体にも内在するリスクがあるので注意が必要です。

例えば、上記設定例で、妻山田花子が将来において認知症になり、介護施設に入所する必要が生じることがあります。このとき長男山田太郎が介護施設への入所費用を捻出しようとして相続した自分名義の自宅の売却を考えた場合、問題が生じます。


自宅には配偶者居住権の「設定登記」が入っていますので、そのままの状態では売却できません。建物が配偶者居住権という負担の付いた状態となっていますので誰も買ってくれません。売却するには、配偶者居住権の設定登記を抹消する必要があります。抹消手続には長男と設定者である妻(母)が共同で行う必要があります。しかし、妻(母)が認知症を発症している場合は手続きを実施することができません。

この点が大きなリスクとなり得ます。配偶者居住権の設定を考える場合は、将来の自宅不動産の処分に一定の足かせが掛かることを認識する必要があります。


(まとめ)

配偶者居住権は残された配偶者の居住権を確保できる優れた制度です。遺言書で定めて活用してもらいたいと思います。遺言書の作成に当たっては注意点もありますので参考にして下さい。今後、この制度は世の中の認知度が高まるに従い活用される方も増えてくると思います。

 

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