「遺贈寄付」に関心のある高齢者が増えていますが、どんな内容ですか
「ふるさと納税」の広がりの中で「寄付」行為に対する人々の認知度が高くなっています。高齢者の場合、自分が亡くなった後の相続財産について、その全部または一部を「人生最後の社会貢献」として寄付したいと考える方も増えています。少子高齢化の影響で身寄りのない「おひとりさま」の高齢者が増えていることも寄付への関心が高まっている要因だと思われます。
お亡くなりになる方が、遺言によって財産の全部または一部を法定相続人または法定相続人以外の人(個人または法人)に無償で譲渡(贈与)することを「遺贈」といいます。特に、譲渡する相手が法定相続人以外の第三者の場合、「遺贈寄付」と言われることが多いと思います。
遺贈寄付される先としては、NPO法人、公益法人、学校法人などの民間非営利団体や、国、地方公共団体などがあります。自分の関心のあるテーマに沿って贈り先を選択することになります。テーマとしては、「子どもの健全育成」「学術研究」「保健・医療・福祉・介護」「国際協力」「自然保護」「地球環境保護」「災害支援」「文化・芸術・スポーツ振興」など色々あると思います。
(遺贈寄付の流れ)
具体的に遺贈寄付を行う場合の段取りは、通常、次のような段取りとなります。
① 大まかな遺贈寄付のイメージを考えてみる
「自分の持っている財産の中から何を遺贈するのか」「希望する遺贈寄付先はどのような先を希望するのか」など遺贈の具体的なイメージを固めます。
② 遺贈先を選定する
遺贈先が具体的に決まっている場合は良いのですが、意外と決まっていないことが多いと思います。何らかの社会貢献に役立たせたいと漠然と考えていても具体的な寄付先が分らないことが多いと思います
そのような場合は、遺贈寄付を支援してくれる非営利団体があるので相談して見ると良いかもしれません。また、直接、遺贈寄付したい団体に電話などで確認してみても良いと思います。寄付の相談ですので、必要な部署につないで話を聞いてくれると思います。遺贈寄付を業務として行っている信託銀行などのホームページにも遺贈寄付を受けてくれる提携先団体が掲載されていることがあるので参考になると思います。
選定したら事前に先方に連絡を取って遺贈寄付の意思を伝えることが必要です。相手先によっては、遺贈寄付の条件(例えば、現金のみ受け付ける等)がある場合がありますので確認が必要です。
③ 遺贈する財産を特定する
遺贈寄付をする財産を特定する必要があります。不動産、預貯金、株式、会員権、保険等色々な財産がありますが、何を遺贈寄付するか明確にする必要があります。
④ 自分の法定相続人の了解を得る
自分が亡くなったときの法定相続人に確認する必要があります。身寄りのない「おひとりさま」であれば問題ありませんが、妻や子供などの相続人がいる場合は遺贈寄付について事前に話をして了解を取っておく必要があります。
相続人にとって遺贈寄付されることは自分たちの相続財産がその分だけ減ることです。そのため、事前に話をして不満の出ないようにすることが必要になります。
⑤ 遺言による財産の配分方法を決める
自分の相続財産のうち、どの財産を遺贈寄付し、どの財産を相続人に配分するかを決めます。遺贈寄付する財産については遺贈寄付する方法も決めます。例えば、自宅であれば現物をそのまま遺贈するのか、換価して現金で遺贈するのか等を決めます。遺贈寄付先の希望を①の段階でヒアリングしておく必要があります。
⑥ 遺言書の作成方法を決める
遺贈寄付は、通常、遺言によって行います。遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言が利用されます。自筆証書遺言でも問題ないのですが、遺贈寄付の場合は公正証書遺言が利用されることが多いと思います。作成費用はかかりますが、形式不備や紛失リスクのない公正証書遺言で作成した方が良いと思います。
⑦ 遺言執行者を決める
遺言執行者とは、遺言に記載された通り相続手続等を行い、遺言の内容を執行(実現)する人です。通常は、遺言書に書いて指定しておきます。遺言執行者が指定されていなければ、裁判所に選任を申立てるか、相続人全員で遺言の執行を行います。
遺言執行者は、本人の了解があれば、親族でも友人でも誰でも良いのですが、一定の法的な処理が必要なことから、心配な方は弁護士や司法書士に依頼することが多いと思います。信託銀行では遺言信託という業務を行っていますので、この場合は信託銀行が報酬を得て遺言執行者となります。
⑧ 遺言書を作成する
上記①から⑦の手順の後、実際に遺言書を作成します。書かれた遺言書は、遺言執行者や家族が保管管理します。遺贈寄付先が希望する場合は、先方にも写しを送付しておきます。
(遺贈寄付の注意点)
遺贈寄付をするにあたって注意点があります。主なポイントを整理しましたので参考にして下さい。
① 包括遺贈
遺贈には法的な区別として「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。包括遺贈は、遺言者の個々の財産を特定しないで行う遺贈です。例えば、「相続財産の3分の1を遺贈する」ような遺言です。「特定遺贈」は、反対に具体的に遺贈する財産を特定して行う遺贈です。例えば、「○○銀行○○支店の定期預金を遺贈する」ような遺言です。
通常、遺贈寄付は「特定遺贈」の形式で行います。理由は、包括遺贈の場合は、プラスの財産と同時にマイナスの負債も遺贈された割合に応じて遺贈先に承継されるからです。特定遺贈は特定された財産(プラスの財産)のみ承継されますので、遺贈寄付先としては「特定遺贈」を希望します。
相続人がいない等の事情で「包括遺贈」を選択せざるを得ない場合は、遺贈寄付先に事前に了解を取っておくことが必要になります。
② 遺留分
遺言者に法定相続人がいる場合は、法定相続人には「遺留分」が存在します。遺留分は遺言によっても奪うことのできない法定相続人の相続財産に対する権利です。そのため、事前の了解なく、法定相続人の遺留分を侵害する遺贈寄付をすれば、本人が亡くなってから相続人から「遺留分侵害」を主張される場合があります。
遺留分侵害の主張は、相続人から遺贈寄付先に対して「遺留分侵害額請求」という形で提起されます。このような請求(訴え)が出されては遺贈寄付先としても困りますので、法定相続人がいる場合は、遺留分侵害となっていないか遺贈寄付先でも確認すると思います。
③ 現物給付
例えば、遺贈寄付する財産が自宅不動産の場合、遺言者としては亡くなるまで自宅に居住して、亡くなったら自宅不動産を遺贈寄付したいと考えます。そうすると遺贈財産は自宅不動産の現物の給付ということになります。
しかし、遺贈寄付先の多くは現物での給付を受けてくれません。不動産の活用方法が具体的にあれば別ですが、不動産を遺贈されても困ることになります。遺贈寄付先としては、「現金」での給付を希望します。もらった不動産を換金するには手間と費用がかかるからです。
不動産などの現物を遺贈寄付する場合は、先方の事前の了解が必要になります。自宅などの不動産を遺贈寄付したい場合は、遺言の執行として、自宅不動産の売却(換価)を予め遺言に定めておき、遺言執行者によって自宅不動産の現金化を行ってもらう必要があります。遺言執行者の報酬や手続費用の負担方法等を予め定めておく必要があります。
④ 「みなし譲渡課税」
遺贈寄付すると遺贈先に相続税や法人税がかかる場合があります。この点は遺贈寄付先も理解していることが多いと思います。トラブルになりやすい点として「みなし譲渡課税」の問題があります。
不動産を遺贈した場合、その不動産に「含み益」がある場合、その含み益に対して譲渡所得税がかかります。含み益は、ごく簡単に言えば、その不動産の現在の時価と取得(買った)ときの価格との差額です。
この含み益に対する譲渡所得税を誰が負担する(具体的には準確定申告をする)かと言えば、包括遺贈の場合は不動産を取得した遺贈寄付先ですが、特定遺贈の場合は残された相続人となります。
特定遺贈の場合は、残された相続人が譲渡所得税を負担することになるため不満が出ることになります。不動産を譲り受けるのは遺贈寄付先なのに税金の負担だけ相続人が負担しなければならないのは納得がいかないからです。
不動産に含み益がある場合は、譲渡所得税の負担方法について、遺言書の中に明記しておく等の対策が必要になります。遺贈寄付先に相談して負担してもらうことも考えられます。
⑤ 「不当減少」
法人へ遺贈寄付する場合、遺贈寄付した財産は、遺贈者側の相続人の相続税の課税対象にはなりません。その点を悪用して自らが役員となっている法人などに遺贈寄付して相続税の課税を免れようとすることがあります。
このような場合の対策として相続税法には、「その遺贈によりその遺贈者の親族その他これらのものと特別の関係がある者の相続税の負担が不当に減少する場合には、遺贈を受けた法人を個人とみなして相続税が課税される」とする規定があります。
これを「不当減少」と呼んでいます。遺贈寄付先の法人が適正なものであれば課税されませんが、相続人の一部が役員になっている法人に遺贈寄付する場合は税理士とも相談する必要があります。
(まとめ)
遺贈寄付について、40歳以上の男女の21%に相続財産の一部を寄付することに関心があるという調査結果があるそうです。但し、実際に遺贈寄付した人は3.9%にとどまっているとのことです。
しかし、「寄付」や「社会貢献」に興味を持つ方が年々増えていますので、今後は遺贈寄付も増えてくることが予想されています。
遺贈寄付をお考えの方は、遺贈寄付を支援する非営利団体や弁護士や司法書士、税理士などに相談されて希望をかなえてもらいたいと思います。