「公正証書遺言」の作成費用はどれくらいかかりますか
亡くなった後の相続手続が円滑にできるように遺言書の作成を検討される方が増えています。遺言には自筆証書遺言もありますが、遺言書の作成に不安のある方やより確かな遺言書を考えている方が「公正証書遺言」の作成を検討されています。
ただ、自筆証書遺言と比べて公正証書遺言は費用が掛かることから、悩まれている方も多いと思います。そこで、公正証書遺言の作成に必要な費用について考えてみます。
(公正証書作成のための主な費用項目)
必要な費用として、まず、公正証書遺言は公証役場で公証人が作成しますので、公証人に支払う報酬(手数料)が必要になります。また、出来上がった公正証書遺言の正本・謄本を持ち帰りますのでその費用が必要になります。
遺言者が病気などで自宅や病院、介護施設から出られない場合は、公証人に出張してもらう必要があります。この場合は交通費や日当が別途必要になります。遺言者の認知能力に不安のある場合は、より慎重に本人意思を確認する必要がありますので公証人の報酬が1.5倍になる場合があります。
また、公正証書遺言を作成するには、「立会証人」が2名必要になります。立会証人は遺言者の推定相続人(妻や子供など)はなることができません。立会証人は遺言書の作成に立ち会うため遺言者の財産関係や人間関係の機微な情報に接することになります。そのため、通常は、司法書士や弁護士などの法律の専門家が立会証人として参加することになります。必要費用として立会証人の報酬が発生します。
遺言書の作成を本人が公証役場に出向いて行う場合は、以上の費用が掛かります。具体的な金額の計算方法は後で説明します。
(公正証書遺言作成のための主な段取り)
遺言書を作成するには、遺言者の財産関係の調査を行う必要があります。不動産については「登記事項証明書」を取得して権利関係を確認する必要があります。預貯金などの金融資産は「銀行名、科目、口座番号、現在残高」等の情報を収集しておく必要があります。これらの情報は公証人に提供する必要があります。
対象財産には、投資信託、株式、公社債、自動車、書画骨董、貴金属など他にも色々あります。これらについては、その財産を特定できる情報の収集が必要になります。例えば、車では車検証から該当の車を特定できる情報を収集します。 最近はビットコイン等の「デジタル資産」も増えていますので情報の収集はより複雑なものになっています。遺言書に記載する財産を特定する情報も公証人に提供します。
対象財産が特定できたら、遺産の分割方法 (「どの財産を誰に与えるか」) などの遺言書の内容を作成することになります。公証人は、遺言者の遺産分割方法の希望を聞き取りますが、それぞれの家族状況に応じた最適な遺言内容まではアドバイスしてくれません。あくまで、本人の希望に従った内容で作成していきます。
家族状況に応じた最適な遺言内容は、ご自身で判断して決める必要があります。検討に当たっては、各相続人の「法定相続分」や「遺留分」などに配慮しながら考えることになります。特定の相続人に過去に行った「特別受益」なども考慮事項になります。最近は、残された配偶者のことを考えて「配偶者居住権」を設定する場合もあります。
これらの遺言書の内容(文案)について不安のある方は、司法書士や弁護士などの専門家に遺言書作成の支援を依頼することになります。依頼をする場合は、別途、専門家への報酬が発生します。
通常、専門家に依頼すると、相続財産情報の収集・確認、遺言文案の作成、公証人との事前交渉や公証役場への出頭日の調整などを行ってくれます。また、証人の手配も行ってくれます。
(公正証書遺言の作成に必要な費用の計算方法)
- 公証役場 (公証人) の費用
公証人の報酬は、遺言書に書かれた財産の額に応じて決められています。具体的には、次のように財産の額が多くなるに従って報酬(手数料)も増えていきます。但し、遺言書に残高まで記載するかどうかは任意です。
財産の額 報酬 (手数料)
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1,000万円まで 17,000円
3,000万円まで 23,000円
5,000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円
なお、計算方法は、財産を譲り受ける人ごとに計算しますので少し複雑になります。また、財産の総額が1億円未満の場合は、11,000円が加算されます。
例えば、財産の総額が5,000万円で、財産を譲り受ける人が、妻(2,500万円)、長男(1,250円)、長女(1,250万円) としたときは、次の計算式となります。
妻分23,000円+長男分23,000円+長女分23,000円+加算分11,000円=80,000円
また、遺言文言に「祭祀承継」について記載すると11,000円加算されます。仏壇やお墓などの管理や運営をする者を遺言書で定めた場合などに加算されます。
公証証書の正本や謄本の取得費用は、遺言書の枚数によりますが、通常は4,000円程度になります。
自宅や病院、介護施設などに公証人を呼べは、公証人への日当(1~2万円程度)と交通費(公証役場からの往復のタクシー代)が余分にかかります。また、認知症などのため本人意思の確認が難しい場合は、公証人報酬は1.5倍となる場合があります。担当する公証人の判断になりますので事前に確認する必要があります。
この他、立会証人2名分の報酬が必要になります。親戚の叔父さんなど頼める方がいれば良いですが、いない場合は司法書士や弁護士に依頼します。1人1万円から2万円程度の報酬が必要になります。
最後に公証役場に提出する必要のある遺言者や遺産を受ける者の「戸籍謄本」や「住民票」、「不動産登記事項証明書」等の取得費用が数千円程度かかります。
- 司法書士や弁護士に依頼した場合
上記で説明した公証役場で必要となる費用に専門職の報酬が加算されます。専門職に依頼すれば、受任者が1人目の立会証人になりますので、立会証人は1名分のみ必要となります。
専門職の報酬額は5万円~10万円(税別)程度になると思います。報酬額に立会証人費用を含んでいる場合もありますが、含んでいない場合もありますので確認が必要です。自宅や病院、介護施設などへの出張する場合は、別途、交通費や日当なとが必要となる場合もあります。
司法書士や弁護士などのホームページなどで報酬額を比較検討して下さい。
(まとめ)
公正証書で遺言書を作成する場合は、一定の費用がかかりますので、しっかりと準備をして間違いのないものを作成する必要があります。遺言書は、本人が希望すれば何度でも作成することができます。最後に作成したものが有効な遺言書となります。
しかし、安易に作り直しをしていては費用が嵩(かさ)んでしまいます。遺言書の内容については、ある程度の将来予測と仮に一定の状況変化が生じてもそれに耐えうるような内容にしておく必要があります。
自筆証書遺言に比べて費用は掛かりますが、安心料と考えれば高くはないかもしれません。