「お一人様」の相続で遺産を現金に換えて親戚に相続させたり、公共団体などに寄付したいとき、遺言書はどのように書けば良いですか

遺言者が独身で子供がいない場合、自宅や金融資産などの財産の相続先についてどのようにすればよいか悩むことがあります。例えば、遺言者には親族として亡き兄の長男(甥)がいて、この甥が相続人(代襲相続人)となることがあります。また、遺言者は出身大学に世話になったので寄付をしたいと考えることもあります。

このようなとき、遺言者が遺言書を書いて甥や出身大学に相続や寄付をしたいと考えた場合、自宅などの現物資産では受け取る側も迷惑することが考えられます。そこで、資産を処分して現金に換えて相続させたり寄付をしたいと考えることがあります。

このような場合、遺言書にはどのように書けば良いのでしょうか。今回は、この事例のような「処分清算型の遺言書」について見ていきます。

(「処分清算型の遺言」について )

遺言者の財産を換価し、その換価金をもって相続債務や各種費用を弁済し、残金を相続人に相続させたり、公共団体や慈善団体などに寄付 (「遺贈寄付」) する遺言のことを「処分清算型の遺言」と言います。

相続財産として、通常、自宅の土地建物、金融資産として預貯金や株式など、他に自動車や貴金属類などが想定されます。

相続債務や各種費用として、遺言者が亡くなった時点の未払いの水道光熱費や固定資産税などの税金、未払いの医療費や入院費などが考えられます。また、葬儀費用や埋葬費用、など遺言者のための出費は他にも色々なものが考えられます。

処分清算型の遺言では、相続財産を換価処分して現金化し、相続債務や各種費用をその中から支払って、その残金を遺言書の指定に従って相続人や寄付先に支払うことになります。

尚、このような作業のことを「遺言の執行」と言います。遺言の執行は、遺言者は亡くなっていますので、これを行う人が必要になります。この点について遺言書に何も明記されていない場合は、これらの作業は相続人が行うことになります。相続人が複数いれば相続人全員で協力して行う必要があります。

しかし、相続人全員が協力的でない場合もあります。また、相続人が高齢で対応できない場合もあります。

そのため、処分清算型の遺言書を作成する場合は、通常、遺言書に「遺言執行者」を指定しておきます。遺言執行者は誰でも良いのですが、信頼のおける人を指定することになります。今回の事例で言えば、亡き兄の子(甥)を遺言執行者に指定することも考えられます。また、適任者がいない場合は、弁護士や司法書士等の法律の専門家を指定する場合もあります。

処分清算型の遺言の執行は、自宅を売却したり預貯金を解約したりと法的な処理が必要となるため専門家に任せた方が安心な面はあります。もちろん、遺言執行者を相続人の1人に指定しておき、その相続人が遺産の換価処分作業を専門家に個別に依頼することもできます。

(「遺言執行者」の権限について )

遺言執行者の法的な権限について、従来、色々な解釈がありましたが、平成30年7月の民法の改正によって法的な権限が明確化されました。

これによれば、遺言執行者に遺言の内容を実現するために必要な広汎な権限を持たせ、遺言執行者が遺言執行者であると明示して行った行為は相続人に対して直接効力が発生するとされました。これにより、遺言執行者は、従来に比して、極めて強い権限が認められるようになりました。同時に遺言執行者の義務についても明確にされています。

この改正により、遺言執行者による不動産の相続による名義変更 (「相続登記」) や預貯金の解約や払い出しができることが明確化されました。また、遺言執行者の「復任権」についてもこれを可能とすることが明確になりました。復任権とは、遺言執行者が遺言執行を第三者に任せる権限のことです。遺言執行者として指名された者が自分で遺言執行を行うことが難しい場合、法律の専門家などの第三者に作業を依頼することです。遺言執行者は自己責任で第三者を選任できることとなりました。

このように民法の改正によって、遺言書に遺言執行者の権限について特に記載がない場合でも民法の定めにより、当然に、遺言執行者には広範な強い権限が与えられることとなりました。しかし、世の中には民法の定めの詳細や法律の改正に精通している人は多くありません。銀行などの金融機関でも詳しくないところもあります。そのため、遺言書には、民法で認められている権限などについても明示的に遺言執行者の権限として明記しておいた方が安心ということになります。

従来より、公正証書遺言の作成実務では、遺言執行者の権限を網羅的に明示して記載しています。相続手続実務を円滑に回す知恵ということになります。

(「処分清算型の遺言書」の記載例 )

処分清算型の遺言書の記載例を次に掲載します。一例ですので、それぞの状況に合わせて適宜修正する必要があります。

第1条 遺言者は、遺言執行者において、遺言者の有する財産の全部を換価させ、その換価金から遺言者の一切の債務、相続財産に関する費用、遺言者の葬儀、埋葬費用及び遺言の執行に関する費用を弁済又は控除した残金を、次の通り、甥の〇〇〇〇に相続させ、学校法人ABCに遺贈する。

甥 山田太郎(住所 〇〇県〇〇市〇〇町1丁目23番地 平成〇〇年〇月〇日生) に2分の1
学校法人ABC (住所 〇〇県〇〇市〇〇町2丁目34番地) に2分の1

第2条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として司法書士田中次郎を指定する。

2 遺言執行者は、換価のための不動産の売却による換価処分及び、登記手続、並びに、遺言者名義の預貯金等金融資産の名義変更、払戻し、解約、一切の債務及び費用の弁済、遺言者が金融機関と貸金庫契約を締結している場合は、貸金庫の開扉、貸金庫の内容物の取り出し、貸金庫契約の解約等その他この遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。

例文では、「全部の財産」「一切の費用」等と記載していますが、財産などで明確になっているものは個別具体的に記載しておく方が遺言執行が楽になると思います。例えば、下記のような記載となります。

「 ……下記財産を含めた、遺言者の有する財産の全部を換価させ… 」   

   記

(不動産)  

 所 在  〇〇市〇〇町〇番地
 地 番  〇番〇
 地 目  宅地
 地 籍  123.45㎡

(預金)

 〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号123456
 〇〇信託銀行 〇〇支店 定期預金 口座番号789123
 ……

(まとめ)

処分清算型の遺言は、実際に遺言執行する方の負担も考えて作成することが必要になります。予め財産目録などを作成しておけば相続手続きは比較的円滑に実施できます。

また、寄付 (遺贈寄付) する場合は、受贈者側の意思確認も事前に必要になります。さらに、相続人が他にいる場合は、その方への配慮も必要になります。何ら配慮をしないと、その相続人と受贈者の間で遺留分を巡って争いになる恐れがあるからです。受贈者としても寄付を受け取って相続人との争いに巻き込まれたくないのです。そのため寄付を受けることに慎重になることもあるのてす。

処分清算型の遺言を検討される場合は、弁護士や司法書士などの専門家や遺贈寄付の受取りを広告している団体 (日本赤十字社など) に相談した方が良いと思います。日本赤十字などでは親切丁寧に相談に応じてくれると思います。

 

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