高齢者をターゲットにした「身元保証」や「死後事務委任」には注意が必要です

高齢者の入院時の身元保証や死亡後の手続を担う民間サービスが増加しています。身寄りのない高齢者をサポートする民間の「高齢者サポート事業者」が増加傾向にあります。いろいろな分野の事業者が新規に参入している状況です。高額な料金設定を行っている業者が多いため事業として魅力があるのかもしれません。

身寄りのない高齢者の場合、料金の相場観が分からないため、不安を煽(あお)られて高額な料金設定でも契約してしまうことが多くなります。また、契約後の死後事務の取り扱いについても、本人が亡くなった後の取り扱いですので適正に実施されるかどうか事業者によっては不安がある場合があります。



政府もこのような状況に危機感を感じており、厚生労働省は身寄りのない高齢者への支援体制を拡充する方針を固めたとのことです。
新たな支援策は、一人暮らしの高齢者へのサポートを公的サービスとして各地の社会福祉協議会などが運営することを前提に制度設計をするものと思われます。来年(令和8年)の通常国会で関連法の改正を目指すとのことです。

なお、高齢者の身元保証を請け負う事業者は、社会的信用や公共的なイメージを出すために「特定非営利活動法人(NPO法人)」「一般社団法人」という法人形態を使用することが多くなっています。この点も利用者に誤解を与える点となっています。


( 特定非営利活動法人(NPO法人)とは )

高齢者サポート事業者は、集客用の宣伝文句として「公共性の高い特定非営利活動法人」であるとか「特定非営利活動法人とは〇〇市が認可した非営利法人」であると宣伝しています。「公共性」「非営利」を前面に強調しています。

これによって高齢者に事業者が公共性があり非営利団体であるとの印象を与えて安心感を与えているのです。確かに、NPO法人を設立するには、役所の認可が必要であり、非営利性は必要です。但し、その意味は一般人がイメージする内容とは異なっています。

NPO法人は「営利を目的としない」こととされています。 「営利を目的としない」とは、「構成員に利益を分配しない」ということです。株式会社であれば利益が出れば株主に配当を出します。しかし、非営利法人では構成員への配当は禁止されているのです。


しかし、有料(有償)の事業を行ってはならないという意味ではありません。 サービスの対価として適正な報酬を受け取ることは可能で、その結果、当該事業において剰余金(利益)が発生しても構わないのです。

むしろ、利益を出すために事業活動を行っているのです。そして、その利益は、法人の従業員に給与(経費)として支払います。また、法人の役員に対して給与又は役員報酬として支払うのです。つまり、事業活動を行ってもうけた利益は、事業活動をした組織のメンバーがもらうことになるのです。配当は禁止されていますが、もうけは経費等として自分たちで分配できるのです。

つまり、個人事業主の営業活動とあまり変わらないということです。法人の名称が「株式会社」であれば営利を目的として活動していて、「特定非営利活動法人(NPO)」であれば公共のために利益を度外視して活動しているわけではないのです。この辺りを一般の高齢者は知らないために誤解を与えているのです。

また、法人の名称として「一般社団法人」を使用する場合もありますが、こちらも株式会社のような営利企業と実態は変わらないということです。

もちろん、これらの団体においても適正妥当な料金体系と事業活動を行っている法人も多いと思います。問題はその区別が一般の高齢者には見分けがつきにくいということです。


( 法人のサービス内容について )

身元保証支援として行っているサービス内容としては、大きく分けて3つに分類されます。

1つは「身元保証支援」です。これは、施設入所時や病院入院時に必要となる身元保証人に法人が代わりになるサービスです。家族に代わって身元保証人になるものです。

2つめは「生活支援・緊急支援」です。これは、緊急時に病院に駆けつけ、家族の代わりとなって日常生活を支援するというものです。日々の買い物を代行するサービスなどもあります。

3つめは「死後事務の支援」です。これは本人が亡くなった後の、喪主の代行、死後事務の代行を行うというものです。役所や年金事務所での手続きや相続手続きを行うというものです。

事業者の広告宣伝では、多くの場合、これらの相談は全て無料でアドバイスすることを強調しています。確かに相談は無料でアドバイスも無料ですが、実際に作業を請け負う場合は事業者が定めた利用料金が必要になるということです。

総務省の2023年8月の調査によると。民間で約400の事業者が「高齢者サポート事業」を展開しているとのことです。サービス開始時に「預託金」として100万円以上の費用が必要となるケースが多いとしています。

国民生活センターなどには「契約内容を十分理解しないまま高額の契約をしてしまった」「解約しても預託金が返還されない」といった消費者トラブルの苦情が相次いでいるとのことです。


( 厚生労働省の支援策の内容 )

厚生労働省では、一人暮らしの高齢者が、悪質な事業者の被害にあって、各地の消費者相談窓口に相談が増えていることを憂慮しています。一人暮らしの増加や親族とのつながりの薄れなどを背景に身寄りのない高齢者が今後増加することが見込まれることから、対策が早急に必要と考えています。

厚生労働省は有識者会議で議論を進め、令和7年の夏頃までに支援体制の詳細を決定したいとしています。具体的には、社会福祉法を改正して、①金銭の管理や福祉サービスの手続代行など、②病院や施設に入る際の身元保証、③葬儀や納骨、遺品の整理などの死後事務手続き、を社会福祉事業と位置付ける方向で検討するとしています。

そして、所得や資力に応じた利用料金の設定を原則とした上で低額や無料で利用できるようにするとのことです。

これが実現すれば、文字通り「公共性」や「非営利性」を伴ったサービスということができます。


( まとめ )

一人暮らしの高齢者が増えています。司法書士事務所にも「遺言」の相談や「死後事務委任契約」の相談があります。遺産を公益団体に「遺贈寄付」したいとの相談もあります。

身元保証や死後事務委任は、法律の専門職である弁護士や司法書士がお受けする場合もあります。また、悪質な民間事業者との契約トラブルについての相談もあります。

高齢者で「高齢者サポート業者」との契約が必要な場合は、十分に事業内容や料金設定を見極める必要があります。少し待てるのであれば、厚生労働省による支援策を待ってみることも選択肢になります。

また、現在活動している民間事業者の運営状況についても監視、監督する仕組みの導入が必要であると思います。既に契約している高齢者が安心できるように運営事業者以外の第三者機関による監視、監督もできるようにしてほしいと思います。

 

 

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