相続人のいない「お一人様」の遺産が毎年増加して、その大部分が国庫に納められています

相続が発生しても相続人のいないケースが増えています。亡くなった方に相続人がいない場合を「相続人不存在」といいます。相続人不存在となると亡くなった方の財産は国庫に入ります。裁判所の司法統計によれば、国庫に帰属した財産額は、2023年度は1,015億円となっています。記録の残る2013年度が300億円でしたので10年で3倍以上となっています。特に最近の増え方か顕著となっています。2022年度から2023年度の増加率は32%となっており、1年で30%以上も増加しています。

増加要因としては、少子高齢化の影響で身寄りのいない「お一人様」の増加が考えられます。


( 相続人は誰になるのか )

法律では、亡くなった方を「被相続人」といいます。その方の残した財産(遺産)を引き継ぐ人を「相続人」といいます。被相続人の遺産は、遺言書があればその指定に従って承継されますが、遺言書がなければ法律で定められた「法定相続人」が相続します。

法定相続人は、順位が定められており、第一順位から第三順位まであります。亡くなった方が結婚していた場合、配偶者は常に相続人となります。第一順位者がいれば第一順位者とともに相続人になります。第二順位者がいれば第二順位者とともに相続人となります。

第一順位者は亡くなった方の「子ども」です。第二順位者は亡くなった方の「父母」です。第三順位者は亡くなった方の「兄弟姉妹」です。法定相続人は、第一順位者がいれば第一順位者と配偶者、第一順位者がいなければ第二順位者と配偶者、第二順位者がいなければ第三順位者と配偶者となります。第三順位者と配偶者がいなければ「相続人不存在」となります。

第一順位者の子どもが既に亡くなっている場合は、亡くなった子に子がある場合は、その子(孫)が相続人になります。これを「代襲相続人」といいます。代襲相続人も亡くなっていてその者に子(ひ孫)がある場合は、その子が相続人となります。

第二順位者の父母がすでに亡くなっている場合は、祖父母が存命な場合は、祖父母が相続人になります。

第三順位の兄弟姉妹が既に亡くなっている場合は、その者に子(甥、姪)がある場合は、その子が相続人になります。


( 相続人がいないと遺産はどうなるのか )

法定相続人が存在せず遺言書もない場合は、国や自治体、利害関係者が家庭裁判所に対して、「相続財産清算人」の選任の申し立てを行います。家庭裁判所は亡くなった方の遺産を清算するために弁護士や司法書士などを相続財産清算人に選任して清算処理を命じます。

亡くなった方に「債務」が残る場合があります。金融業者から借金をしていたり、病院や介護施設に未払いの入院費や介護費があったり、自宅などの固定資産税を納めていなかった場合など色々考えられます。

これらの債権者としては、亡くなった方に財産(遺産)があるのであれば、その財産から支払ってもらいたいと考えます。しかし、亡くなった方の相続人がいない場合、誰に請求して良いか困ることになります。このような場合は、これらの債権者が利害関係者として相続財産清算人の選任を申立てることができます。

選任された相続財産清算人は、亡くなった方の財産を調査して洗い出します。そして、相続人が本当にいないのか官報に公告を行って調査をします。また、あわせて債権者に対して債権の届け出を催促します。届け出のあった債権者には相続財産の中から公平に弁済します。相続財産を換価する必要があれば、これを換価します。


このような清算作業の結果、相続人が不存在で、相続財産の残余がある場合は、相続財産清算人は、残った遺産を国庫に納めることになります。

但し、亡くなった方の相続人ではないが、特別に縁故のあった方が遺産の承継を申し出る場合があります。この場合は、裁判所は「特別縁故者」に遺産を承継させて良いかどうか裁判を行うことになります。特別縁故者への遺産の承継が認められれば、相続財産清算人は特別縁故者に遺産を引き渡すことになります。

特別縁故者とは、身寄りのない「お一人様」の生活を長年支えてきた遠い親戚や友人などです。

相続財産清算人の家庭裁判所への申し立て件数も増加しています。2024年度は、前年比304件増の7,252件となり過去最高となっています。


( 遺産を国庫に納めずに自分の思いを実現する )

人によっては、遺産が何千万円も残ってしまうことがあります。これをそのまま国庫に納めてしまうのはもったいないと思います。自分の思いを実現するために有意義に遺産を使ってもらうことを考えることも必要だと思います。

そのためには、「遺言」を作成して、相続人以外の親しい方に遺産を「遺贈」することも選択肢の1つになります。遺言書があれば、その指定に従って遺産が承継されることになります。法定相続人ではないが親しい親族や世話になった友人などが候補になります。

最近は、「遺贈寄付」も増えています。医療や科学技術の発展、難民救済や災害援助、教育や福祉活動の向上など様々な目的に応した「遺贈寄付」があります。福祉目的のNPO法人や大学、自治体や菩提寺など寄付を受けてもらえるところも増えています。これらの組織に生前に遺贈寄付を申し出ても良いと思います。

なお、遺贈するための遺言書の記載方法は、意外と難しい面があります。色々な考慮点があるため司法書士などの専門家に相談した方が良いと思います。知らない第三者 (又は第三者機関 ) に勝手に遺贈しても受け取ってもらえない場合があるからです。また、受取りは現金しか受け取らない場合も多いのです。その場合は、不動産などは換価して遺贈する必要があります。そのあたりの段取りも遺言書に詳しく記載する必要があるのです。


( まとめ )

国に納められた遺産は、財務省で国の歳出にあてられます。その意味で国の何らかの施策の役に立っているということはできます。しかし、財務省主計局の判断で使われるのは、なんともやるせない気がします。

自分が一生かけて蓄えた遺産は、自分の意思で使い道を決めたいと考えたくなります。今回の話も参考にして、身寄りのない一人暮らしの高齢者は遺言書の作成を検討ください。日本赤十字社などの大手の慈善団体へ遺贈寄付を検討される場合は、その団体が遺言書の作成など色々と丁寧にサポートしてくれます。

遠い親戚や親しい友人などへ遺贈する場合は、司法書士に相談ください。その方にあった遺言書の作成をサポートしてくれると思います。

 

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