遺産分割協議に基づいて銀行で「相続預金の払い出し」をした後「遺言書」が発見されたとき、払い出しの効力はどうなるのですか。

亡くなった親が保有していた銀行預金について、相続人全員で遺産分割協議を行って、その内容に従って銀行で預金の払い出し手続き ( 相続手続き ) を行ったとします。その後、遺言書が発見され、その内容が遺産分割協議による相続方法と異なる場合、銀行の預金の払い出しの効力はどうなるのでしょうか。

遺産分割協議では預金の相続分がなかった相続人が、遺言書で預金を相続すると書かれていた場合、その相続人は銀行に対して先の預金の払い出しは誤っていた ( 無効であった )  ので、預金の払い出し手続きを取り消してほしいと請求することができるのでしょうか。

今回はこの問題について見ていきます。

 


( 銀行預金の相続手続きについて )

預金者が亡くなった後の預金の払い出しについて、遺言書があれば、その内容に従って、預金の解約・払い出し手続きを行い、遺言書がなければ、相続人全員による遺産分割協議に従って解約・払い出しを行います。遺産分割協議前であっても相続人全員の同意があれば、解約・払い出しが行われます。

これが銀行預金の相続手続きの基本的な考え方です。

 


( 遺言書の存否確認について )

銀行預金の相続手続きでは遺言書の存否は非常に重要な相続手続きの前提事項となります。遺言書があるかないかで取り扱い方法が全く異なってしまうからです。

しかし、銀行にとって亡くなった方が遺言をしていたかどうかは関知しない事柄です。信託銀行などの中には遺言書の作成を終活業務としてビジネス化している場合があります。そのような場合を除いて、銀行が亡くなった方の遺言書の作成有無を知るすべはありません。

遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言があります。そして、遺言書の保管管理方法についてそれぞれに特徴があります。

自筆証書遺言については、基本的に遺言者本人の保管管理となります。但し、令和2年7月10日からは自筆証書遺言の法務局による保管制度が開始されています。法務局に自筆証書遺言の保管を依頼すれば、法務局が保管管理してくれるサービスです。保管を依頼した法務局に相続人が請求すれば、保管事実証明書を発行してくれます。

また、公正証書遺言については、遺言書の原本は公証役場に150年間保管管理されます。相続人からの申請により公証役場の遺言検索システムを使用すれば、全国の公証役場のどこかで遺言書を作成していれば、その存在を検索することが可能です。

銀行としては、相続人からの預金の払い出し請求時に、遺言書の有無確認をする必要があるのですが、相続人に対して何らかの証拠資料を付けさせることには無理があります。法務局の保管制度からの証明書や公証役場での証明書を添付させたとしても、遺言者が保管している自筆証書遺言の有無までは把握できないからです。


( 銀行の預金の払い出しにおける免責について )

銀行は、遺言書がない場合は、遺産分割協議前であれば、相続人全員の同意を得た上で、払い出しを行い、遺産分割協議成立後であれば、遺産分割協議の内容に従って、預金の払い出しを行うことになります。

遺産分割協議前であっても、各銀行所定の「相続手続書」等に相続全員の署名と実印による捺印 (印鑑証明書付き) があれば、預金の払い出しに応じます。

この手続きの前提として、銀行は相続人に対して「遺言書は存在しない」旨の確認をとります。通常は、相続人からの払戻請求の際に遺言書が存在しないことについて相続人の確認条項付きの文書 ( 「遺言なし」と表示ある文書 ) を徴求しています。

この文書が徴求されていれば、銀行が預金の払い出し手続きをした後に、仮に遺言書が発見されても銀行の払い出し行為は正当なものとされ、銀行は相続人対して免責されるとされています。

法律的な根拠としては、民法478条 ( 受領権者としての外観を有する者に対する弁済 ) によって、預金の正当な受領権者以外の者に対する払い出し ( 弁済 ) でも、取引上の社会通念に照らして、受領権者としての外観を有する者に対する支払い ( 弁済 ) として有効であり、銀行は免責される。とするものです。

遺言書が存在しないとする確認文書を徴求していれば、銀行としては、相続人を受領権者としての外観を有する者として、払い出しを有効にすることができるのです。


なお、遺言書による払い出しが請求された場合には、その遺言書の内容に従って払い出しを行いますが、この場合も確認文書を徴求します。

それは、遺言書が複数作成されている場合、日付の新しい遺言書の内容に従う必要があるからです。遺言者は遺言を作成してから気が変わることがあります。その場合、前の遺言書の内容を変更して新しい遺言書を作成することができます。

そのため、遺言書によって預金の払い出し請求をしている遺言書が最新のものかどうか銀行側からは分かりません。慎重な手続きを定めている銀行は相続人に対して「この遺言書によって支払いを求めます。この遺言に優先する他の遺言はありません」旨の確認文書を徴求しています。

これによって、銀行はどのような支払い請求においても自らに責任が及ばないようにしているのです。

その結果、相続手続きによる預金の払い出し後に遺言書が見つかったといって、先の払い出し手続きを取り消してもらうことはできないのです。


( まとめ )

遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合、銀行に対して取り消しなどを請求することはできません。相続人間で遺言書の内容に従って、払い出された預金を再分配する必要があります。

再分配に応じない場合は、発見された遺言書を証拠書類として、裁判手続き等で解決する必要があります。

このように遺産相続において遺言書の存在は極めて重要なものです。そのため、遺産分割協議の前には、遺言書の有無確認をしっかり行う必要があります。また、遺言書の有無は生前に本人に確認しておくことが無用なトラブルを防止する方法となります。

 

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