相続開始から遺産分割までに発生した「賃貸不動産の賃料収入」は誰のものですか

親が亡くなって相続手続を共同相続人の間で行っているとき、話し合いが上手く進まず長引くことがあります。その間に親が所有していた賃貸アパートや駐車場などの収益不動産から賃料収入が発生することがあります。この場合、この賃料収入は相続手続の中でどのように処理したらよいか悩むことになります。


賃貸アパートや駐車場の収入の場合で相続手続きが2~3か月程度かかったとしても、あまり問題にならないかもしれません。共同相続人の話し合いで適宜処理すれば済む場合が多いからです。

しかし、相続の話し合いが簡単には決着がつかず裁判手続きに及ぶようなことがあると決着までに半年から数年かかる場合もあります。亡くなった父親が所有していた物件が賃貸マンションなどの場合、賃料収入も大変な金額になります。


こうなると簡単には処理できなくなります。相続開始から遺産分割完了までに相続不動産から生じた賃料収入は誰のものであるか法的にはっきりさせる必要があることになります。

この問題を考えるにあたって難しい点は、相続財産とは「親が亡くなった時点で親が所有していた財産」のことです。賃貸不動産から生じる収入は親が亡くなった後に生じるものです。そのため厳密に言えば賃料収入は相続財産ではないことになります。相続財産ではない財産の相続方法について考えることになるため問題が難しいのです。


( この問題の処理方法に関する色々な考え方 )

相続開始から遺産分割までに収益不動産から生じた賃料収入の帰属について色々な考え方があります。裁判所の判断も分かれていました。代表的な考え方は次の3つです。

(1) 遺産分割の結果、賃貸不動産を相続した相続人に帰属するとする説

遺産分割の結果は、民法上、相続開始時に遡(さかのぼ)るとされています。これを根拠に賃貸不動産の所有者となった相続人の「総取り」とする考え方です。遺産分割の結果、賃貸不動産を相続した相続人は、親が亡くなった瞬間から賃貸不動産の所有者であったと考えられるため賃料収入は全てその相続人のものであるとする考え方です。


(2) 遺産分割協議で賃貸不動産の収益についても分割方法を決める必要があるとする説

亡くなった親が所有・管理していた賃貸不動産について相続が発生したのだから、その賃貸借契約上の地位(大家の立場)も共同相続人が相続(承継)していたことになる。そうであれば、共同相続人が大家としての地位で発生した賃料収益は共同相続人に帰属するはずであるとする考え方です。

親が亡くなってからの賃料収入は、厳密に言えば、相続開始時に親が所有していた財産(遺産)ではありませんが、遺産に準じるものと考えて良いとするものです。遺産に準じるものであれば、遺産と同様、遺産分割協議の対象になると考えます。

この結果、発生した賃料収入についても遺産に含めて「遺産分割協議」を行うことになります。遺産分割協議の中で共同相続人の話し合いで分割方法を決めることになります。


(3) 賃料収益は法定相続人の法定相続分で当然に分割されるとする説

遺産である賃貸不動産から生じる賃料収入は、遺産とは別個の財産であるから、これに対して遺産分割手続きを行うことはできないとする考え方です。

相続財産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間は、共同相続人の「共有」に属するものであるから、この間に遺産から生じた賃料収益は、各共同相続人の共有に属すると考えるものです。

従って、賃料収入は各法定相続人にその法定相続分に応じて確定的に帰属すると考えることになります。例えば、賃料収益が900万円あり、法定相続人が3人でその法定相続分が各3分の1であれば、それぞれの相続人が各300万円づつ自動的に相続することになるとする考え方です。


( 最高裁判所の判断 )

平成17年9月に最高裁判所でこの問題について判断が示され、考え方に決着が図られました。最高裁判所は、上記(3)の賃料収益は「共有」とする考え方を採用しました。1審2審は(1)の不動産相続人の「総取り」の考え方を採用しましたが、それを覆して、賃料収益は法定相続人の共有に属すると判断しました。

賃料は金銭であるため「可分債権」とされています。可分債権とは簡単に分割できる債権のことです。可分債権であるため、各共同相続人の法定相続分に応じて当然に分割されて帰属することになります。遺産分割協議は不要ということです。


( 税務当局の考え方 )

相続税などを徴収する税務当局はこの問題について「相続開始時から遺産分割時までの相続不動産の賃料については、共同相続人にその相続分に応じた収入が発生したものと考えて、それぞれ納税するする必要がある」との考え方を取っています。

つまり、最高裁判所の判断と同じ考え方で税務当局は運用を行っているということです。


( 実際問題はもう少し複雑になります )

今回のケースの前提は、賃料収入が不動産管理会社の普通預金口座などに入金されるような場合を考えています。賃料入金先の口座が亡くなった親名義の口座に振り込まれている場合、問題は複雑になります。

亡くなった親の普通預金に入っている場合は、遺産の一部と考えて遺産分割協議が必要であるとする説があるからです。預金口座の相続手続については、遺産分割協議が必要であるとする最近の判例の考え方に基づいています。

具体的なケースによっては簡単ではない場合もありますので、弁護士や司法書士に相談下さい。


(まとめ)

相続財産の中に収益不動産がある場合は、その賃料収入などの取り扱いに注意を払う必要があります。今回のお話は、賃料収入がある程度大きな場合の話だと思います。裁判手続などで相続人間で白黒をつける必要がある場合の判断基準ということになります。

相続人間で円満に話し合いがつくのであれば、それによれば良いと思います。但し、相続税の申告が必要な場合は、税理士ともよく相談して対応して頂く必要があります。

 

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