相続した「踏切の騒音」に悩まされる土地は「相続税の評価」で考慮してもらえるのですか
親が亡くなり実家を相続したところ、実家は踏切の近くにあり昼夜を問わず複数の鉄道会社の電車が通過しています。「遮断機の警報音」や「列車が通過する際の騒音や振動」がひどく宅地や店舗として利用するには不向きなものとなっています。このような利用価値が著しく低い土地について、相続した以上、相続税は通常の評価額に従って支払わなければいけないのでしょうか。同じようなケースは「交通量の多い交差点」などでも見られます。
( 相続した土地の相続税の算定方式 )
土地の相続税の評価方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。
(1) 路線価方式
路線価方式とは、「路線価」が定められている地域で用いられる評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの価格のことを言います。国税庁のホームページ等で確認することができます。
路線価方式による土地の相続税の評価額は、路線価にその土地の面積を乗ずることによって算出します。例えば、路線価が30万円で土地の面積が100㎡の場合は、その土地の評価額は3,000万円 (30万円×100㎡)となります。
但し、ウナギの寝床のような細長い土地や三角形の土地など、土地の形状によっては利用価値が低い場合があるので一定の補正処理が行われます。例えば、間口が狭い土地の場合は「奥行価格補正率」で補正した上で評価額を算出します。土地の形状に応じた各種補正率が用意されています。
(2) 倍率方式
倍率方式は路線価が定められていない地域で用いられる評価方法です。「倍率」も国税庁のホームページ等から確認することができます。倍率方式による土地の評価額は、その土地の「固定資産税評価額」に倍率を乗じて計算します。例えば、土地の固定資産税評価額が10万円で倍率が28倍の場合、相続税の評価額は280万円(10万円×28倍)となります。
( 利用価値の低い土地に対する相続税の評価方法 )
国税庁の税に関する質疑応答である「国税庁タックスアンサー」によれば、次のような利用価値の著しく低下している宅地について、通常の評価額から10% を減じることができるとされています。(但し、利用価値の低い宅地と認められる土地の部分に限られます。)
① 道路と土地との間に著しい「高低差」のある宅地
② 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
③ 振動の甚だしい宅地
④ ①~③以外で、「騒音」「日照阻害」「臭気」「忌み」等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの。
これによれば、周りの家は道路と同じ高さであるのに1軒だけ道路との段差があるような場合や地盤に凹凸がある場合、振動や騒音、日の当たらない土地の場合、臭いがする土地の場合、隣地が墓地である土地の場合、なども減額の対象になります。
どの程度の状況になったら利用価値が著しく低下していると認められるかは明示されていません。都度、個別に税務当局との交渉になるものと思われます。
また、路線価や固定資産税の評価額の中で、これらの事情が織り込まれて評価されている場合があります。この場合は減額されませんので注意が必要です。
( 踏切騒音に対する相続税の評価 )
踏切騒音に対しても、その土地の取引金額に影響を受けるものであれば減額されることになります。どの程度の騒音であれば認められるかは個別の判断になります。
裁判例では、鉄道騒音に関する環境省の定めた環境基準を指標にして裁判がなされている場合が多いと思います。例えば、「騒音に係る環境基準」、「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について」(通達)、「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(告示)、「在来鉄道騒音測定マニュアル」などを参考にしていると思われます。
例えば、踏切のある地域の通常の宅地の騒音基準が「昼間55デシベル以下」「夜間45デシベル以下」であるとき、75デシベル程度の騒音があれば減額対象になるものと思われます。
( 相続税対策で重要な点は土地の評価 )
相続財産の42% は土地であると言われています。つまり、土地の評価額を少しでも少なくすれば相続税は大きく減額されます。土地の評価額を減額する仕組みのうち「小規模宅地特例」などの特例措置については広く知られています。しかし、土地自体の評価額を減額する話はあまり知られていません。
相続した土地の評価額が大きい場合、10%減額しただけでも相続税が数十万円から数百万円減額されることがあります。馬鹿にならない話なのです。
相続した土地の評価額を低く抑える事情は今回お話した項目以外にも色々あります。例えば、次のようなものがあります。
① 形がいびつな土地
② 空中に電線がが通っている土地
③ 埋蔵文化財包蔵地
④ 近隣に比べて広めの土地(100坪以上)
⑤ 鳥居や祠(ほこら)のある土地
⑥ がけ地
⑦ 市街地の山林
⑧ 土壌汚染のある土地
⑨ 私道のある土地
など (まだ他にもあります)
これらの項目に該当するかどうかを見極めるには、相続税に詳しい相続税専門の税理士に依頼する必要があります。法人税中心の税理士ではなく、相続税に特化した税理士に依頼することが必要です。
なお、過去に相続税申告をしていた場合でも、相続発生後5年10ヶ月以内であれば、相続税の「還付申告」をすることができます。過去に行った相続税の申告について土地に減額事由があるのに減額しないで過大に申告した場合です。この場合は相続税を余分に払い過ぎていたわけですから、払い過ぎた税金を還付してもらうことができます。
借金の「過払請求」は、テレビコマーシャルなどでよく目にしますが、「相続税の還付請求」は聞いたことがないと思います。還付請求も相続税に詳しい税理士であれば対応してくれます。
(まとめ)
親から相続した土地が利用価値のあるものであれば問題ありませんが、何かしら問題のある土地である場合は相続税の申告時に注意が必要です。あまり深く考えないで漫然と相続税評価額を計算して申告してしまうと相続税を払い過ぎることがあります。
相続税の申告をする場合、土地について相続税の減額ができる場合が色々ありますので、相続税を専門にしている税理士に相談してみることが必要です。減税されるか否かは税務当局との話し合いになりますので、腕のある税理士に交渉してもらった方が良いと思います。
また、過去に申告したものについても疑問のある場合は、還付請求できるか否か税理士に確認してみた方が良いかもしれません。