北海道の「原野」が遺産に含まれていることが分かったらどうしたら良いですか
昭和40年代後半から昭和55年頃までに「原野商法」と言われる詐欺商法が行われていました。価値のない原野や山林について、街ができる、近い将来値上がりする、などと言って価値がある物件のように装って高値で売りつける詐欺商法です。
当時はわが国のバブル期にあたっていたため、多くの方が値上がりを信じて購入しました。そのため、詐欺であると立証して事件化することは難しかったと思います。
当時原野を購入した方が、令和の現在、高齢のため亡くなり、その相続人が相続手続のため不動産の調査をしていると原野の権利証が見つかる場合があるのです。相続人にとっては場所も分からない原野です。土地の評価額が小さいため固定資産税が課税されていないものが多くなっています。役場からの課税通知もないため、その存在が忘れ去られているのです。
また、原野商法とまではいかないまでも相続人にとって事実上無価値な土地を相続することもあります。多くは田舎の田畑や山林などです。このように事実上無価値の土地を相続した場合、どのように対応したらよいか悩むことになります。
今回は、この問題について見てみます。
( 無価値な不動産についても相続する必要 )
令和6年4月1日から開始された「相続登記の義務化」によって、相続人にとって無価値な不動産についても名義変更 ( 相続登記 ) する法律上の義務が課せられました。10万円以下の過料という罰則も定められています。
そのため、相続人の誰かが相続する必要があるのです。相続人で話し合って名義人となる者を決める必要があります。
( 無価値不動産の処分方法について )
法の定めにより、とりあえず相続したものの相続人にとって無価値で不要な土地であるので何とか処分したいと考えた場合、どのような方法があるのでしょうか。対応方法としては次のような方法があります。
(1) 売却や寄付
相続人にとって無価値で不要な土地は、通常は売却も寄付も難しいと思います。
しかし、相続人にとって無価値な不動産でも現地の民間事業者や自治体などから購入や寄付の申出がある可能性はあります。現地の不動産業者や自治体などにダメ元で問い合わせしてみることが必要です。
自治体によっては、自然保護のために有用な土地や市民の憩いの場となり得る場であれば寄付を受けてくれることがあります。また、原野や山林が住宅地に比較的近い場合や川などの景観に優れた場所の場合、家庭菜園用の土地として活用ができる場合、キャンプ地や資材置き場として活用ができる場合、など現地の不動産業者に売却の仲介を依頼できる場合もあります。
但し、原野商法で取得した原野や山林は、売却や寄付が難しいというのが現状です。当時購入された物件の内容としては、100万円から200万円で購入した原野で、家が一軒建つ程度の広さのものが多いと思います。これらの物件は宅地としての売却は難しいと思います。理由は家が建てられないからです。家を建てるには建築基準法の定めで道路に2m以上接している必要がありますが、原野や山林は道路に接していないものが大半だからです。
(2) 相続放棄
亡くなった方に他に価値ある財産がない場合は、亡くなってから3か月以内であれば「相続放棄」を検討することになります。相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことになりますので、無価値で不要な土地を相続しないことができます。
但し、亡くなった方に他に財産がある場合は、相続放棄を選択することが難しくなります。
相続放棄はなくなった方の全ての財産を放棄する制度ですので、不要な土地だけを放棄することができないからです。
(3) 国庫への帰属
令和5年4月27日施行の「相続等によって取得した土地所有権の国庫への帰属制度」の活用を検討します。
この制度は、相続により取得した土地について、法務大臣に申請することによって国に引き取ってもらう制度です。制度の利用にあたっては、引き取ってもらえる土地の条件に適合することや引取り費用を支払うことが必要となります。
引き取ってもらえる土地の条件として、建物が存在しないこと、土地の境界が明確となっていること、崖などになっていないこと、処分に費用のかかる埋設物などがないこと 等色々な条件が定められています。
また、引き取り費用 ( 土地の管理費用 ) として、原則、1筆20万円が必要になります。土地の状況によっては、別に定められた基準によって金額が変更されます。
令和6年3月31日現在の国庫帰属制度の運用状況が法務省から公表されています。それによると、制度が開始された令和5年4月27日から令和6年3月31日までの申請件数は全国で1,905件となっています。
申請された土地の地目は、「田・畑」が721件、「宅地」698件、「山林」280件、「その他」206件となっています。
このうち申請が認められたのは、宅地107件、農耕地57件、森林6件、その他78件の計248件です。
申請したものの、却下や不承認になったものは、却下6件、不承認12件となっています。
主な理由は、却下が「現に通路の用に供されている土地に該当」「境界が明らかでない」、不承認が「国庫に帰属した後、国が管理費用以外の債務を負担する土地に該当」「国による追加の整備が必要な山林に該当」などがありました。
また、申請したものの途中で申請を取り下げたものが212件ありました。これは自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した場合や隣地所有者から土地の引受の申出があった場合などです。
申請件数1,905件に対して申請が認められたものが248件で合格率は13%となっており厳しい結果となっています。山林については280件の申請に対して6件となっており合格率2%の狭き門となっています。
( まとめ )
相続登記の義務化が施行され「いらない土地」も相続することが法律上の義務となりました。相続した「いらない土地」を処分しようとしても現実には厳しい状況となっています。特に北海道の原野商法で取得した原野や山林は処分することが非常に難しくなっています。
運よく売却できたり寄付として引き取ってもらわない限り処分は難しいと思います。国庫帰属制度も原野や山林への適用は難しいのが現状です。
原野商法で取得した原野や山林は、固定資産税の評価が極めて低いかゼロとなっているものが多いと思います。固定資産税がかからない又は軽微であれば、相続登記をした上で保有していくことが当面の選択肢となります。
負の遺産ということで残念ですが有効な対応策は難しいのが現実のようです。