倒壊しそうな親の実家を相続したら「相続放棄」をすれば問題解決しますか

親が亡くなり老朽化して倒壊しそうな実家などを相続する場合があります。居宅以外でも実家が工場を経営していた場合などでは古くなった工場の相続なども問題になります。亡くなった親に他に目ぼしい財産もなく、相続する不動産の維持管理にも多額の費用がかがることが予想されるとき「相続放棄」を検討することになります。この場合、相続放棄を行えば問題は解決するのでしょうか。

相続放棄をして相続人が誰もいなくなった場合、老朽化した不動産の維持管理責任は依然として相続人が負担すると聞いたことがあるので心配になります。例えば、壁が崩れて通行人が怪我をしたときの責任問題などが気になります。今回はこの問題について見て行きます。


( 相続人の「相続財産保存義務」に関する従来の考え方 )

「相続放棄」は家庭裁判所に申述して行いますが、第一順位の相続人全員が相続放棄を行うと第二順位の相続人が相続することになります。第二順位の相続人全員が相続放棄すると第三順位の相続人が相続することになります。(第一順位は配偶者と子、第二順位は父母、第三順位は兄弟です。)   第三順位が最後となり最終的な相続人となります。もちろん、第三順位の相続人も相続放棄できます。

民法の定めでは『 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない 』とされていました。(この義務のことを相続人の「相続財産保存義務」といいます。)

そのため、相続人全員が相続放棄して相続人が誰もいなくなった場合、誰が管理責任を負うのか問題になっていました。また、相続人の1人が相続不動産を維持管理しているとき、遠隔地に住む他の相続人についても管理責任を負うのかということも問題になっていました。

これらの点についての取扱い方法が必ずしも明確ではなかったため、相続人全員が相続放棄をしても相続不動産に対する管理責任は相続財産保存義務として相続人に残ると考えられてきました。

その結果、倒壊の危険のある建物が崩れて通行人に怪我をさせた場合、相続放棄をしていても相続人に損害賠償義務が発生すると考えられていました。


( 「相続財産保存義務」に関する民法の改正  )

相続人の相続財産保存義務に関して、色々な疑義が生じていたため、令和3年に民法の改正が行われました。

新しい民法の定めでは『相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない』と改正されました。

財産の「保存」とは維持管理のことです。相続財産清算人とは、全ての相続人が相続放棄をして相続人が誰もいなくなった時に相続財産を引き取って清算作業を行う者です。裁判所によって弁護士や司法書士等の法律専門職が選任されます。


この改正により、従来より疑義のあった問題点について、次のように決着がつきました。

(1)  相続財産の「占有者」についてのみ相続財産の「保存義務」が課せられる。

相続不動産を現に占有している者のみが維持管理責任を負うことになりました。遠隔地に居住していて老朽化した不動産にノータッチの相続人は相続放棄をすれば全ての責任を放棄できることになりました。

(2) 相続財産を占有している相続人は、次順位の相続人や相続財産清算人に相続不動産の占有を移転すれば維持管理責任を免れることができる。

例えば、不動産を占有している第一順位の相続人が相続放棄をして、不動産を占有している第二順位の相続人に引き渡せば、第一順位の相続人の維持管理責任は消滅します。また、最後となった相続人が相続財産清算人に相続不動産を引き渡せば維持管理責任は消滅します。

これにより、各相続人の責任の範囲が明確になりました。


(  本件に対する具体的な対応方法 )

老朽化した不動産を占有している相続人は、相続放棄をして速やかに次順位者に不動産を引き渡す必要があります。

自分が不動産を占有している最後の相続人となった場合は、相続放棄をしても次順位者に引継ぐことができないので管理責任をいつまでも負うことになります。そのため、速やかに裁判所に対して相続財産清算人の選任を申立てて清算人に対して相続不動産の引渡しを行う必要があります。

なお、相続不動産を占有していない相続人は相続放棄をするだけで良いことになります。

問題は、老朽化した相続不動産を相続人のうち誰も占有していない場合です。一人暮らしの親の田舎にある実家のようなケースです。この場合は、相続人全員が相続放棄すれば相続人全員の責任はなくなります。

相続人としての責任は消滅するので個人的な問題は解決するのですが、残された老朽化した相続不動産の問題は残ることになります。この管理不全不動産が第三者に害悪を及ぼす場合の対応方法としては、同時に改正された民法では、「所有者不明土地建物の管理制度」「管理不全土地建物の管理制度」が新設されています。これらの制度を活用して対応していくものと考えられます。詳しくは弁護士などの専門家にお尋ね下さい。


( まとめ )

老朽化が進行し第三者への不測の損害を与える可能性のある不動産を相続した場合「相続放棄」が選択肢になります。相続人でよく相談の上対応する必要があります。相続放棄する場合は関係する親族のことも考えながら行う必要があります。

従来より不安があった維持管理責任については、責任を免じることもできるようになっていますので参考にして対応下さい。

 

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