ビットコインなどの「暗号資産」は相続の対象になりますか

「ビットコイン」や「イーサリアム」などの暗号資産は、最近では通常の金融資産と同様に普通に取引されるようになっています。そのため、亡くなった方が暗号資産を保有していた場合、暗号資産が相続の対象になるかどうか気になるところです。また、実際の相続手続についてもどうすれば良いか不安になります。


(  暗号資産は相続できるのか )

暗号資産が相続の対象になると明確に判断した裁判例はありません。しかし、暗号資産は平成21年に制定された「資金決済に関する法律」において、財産的価値があることを前提として定義規定が定められています。

また、税金に関する当局の実務においても暗号資産は財産的価値のあるものとして、相続や遺贈、贈与の対象になると考えられています。つまり、暗号資産を相続すれば相続税が課せられる場合があるということになります。

これらの点から暗号資産は財産的価値のあるものとして相続の対象になるものと実務の世界では判断されています。


( 暗号資産の保有形態 )

電子的な権利である暗号資産は実際にはどのように保有・管理されているのでしょうか。一般的には、暗号資産の取引を行う場合は、「暗号資産交換業者」が用意している取引所に口座を開設する方法で行われます。取引所と言っても立派な建物が存在するわけではなく、暗号資産の売買を行うネット上の場です。

 


暗号資産は「ウォレット(財布)」と呼ばれるもので保管管理されています。取引所に口座を開設すると自動的に暗号資産を保管するウォレットが作成されます。この中に暗号資産を入れて売買など取引を行います。

このウォレットには色々な種類があります。暗号資産を取引所の作成したウォレットにそのまま保管しておくことも、自分用のウォレットを別に作成して、そちらに移し替えることもできます。

ウォレットには、①オンラインウォレット、②モバイルウォレット、③ディスクトップウォレット、④ハードウェアウォレット、⑤ペーパーウォレットなどの色々な種類があります。具体的な内容は、次のようになります。

①「オンラインウォレット」‥‥ オンラインのクラウド上で提供されるウォレット

② 「モバイルウォレット」‥‥ スマホ等に専用のアプリをインストールして使用するウォレット 

③ 「ディスクトップウォレット」‥‥ パソコンにウォレットをインストールして使用するウォレット。「クライアントウォレット」と呼ばれることもあります。

④ 「ハードウェアウォレット」‥‥ USB等のハードウェアに保管するウォレット

⑤ 「ペーパーウォレット」‥‥ 保管している暗号資産を復元するために必要な情報を印刷して紙で保管するウォレット


( 本人が亡くなってからの暗号資産の調査 )

本人が亡くなった後、暗号資産の有無などを調査する必要があります。暗号資産の調査とはウォレットの調査ということになります。亡くなった方が遺言書やメモなどで暗号資産に関する記述があれば、それを手がかりにして調査します。

そのようなものがない場合は、亡くなった方の使用していたパソコンやスマートフォン、USBなどの内部データを確認して暗号資産の取引を行っていた痕跡がないか調査します。

調査の結果、暗号資産の種類や取引所が判明した場合は、取引所に対して暗号資産の取引内容について情報開示を求めていくことになります。取引所への情報開示の方法は、取引所の規約などを確認して請求することになります。

著名な暗号資産の取引所であれば、ホームページ上で各種請求手続きなどについて案内がされていますのでそれを見て行っていきます。

なお、本人がハードウェアウォレットやペーパーウォレットで保管していたとき、暗号資産の存在を他の方に伝えていないと、場合によっては発見できない可能性がありますので注意が必要です。


(  暗号資産の相続手続方法 )

暗号資産は、取引をするために必要な「秘密鍵」と呼ばれるパスワードがあります。このパスワードを使って売買などの取引をすることができます。つまり、暗号資産を相続するとは、ウォレットと秘密鍵 ( パスワード ) を知ることということです。これが分かれば、それで手続完了となります。

暗号資産の相続手続は、亡くなった方が取引所に暗号資産をアカウントとして保有している場合は、パスワードを知らなくなても自分が相続人であることを取引所に対して証明できれば良いことになります。


具体的には、亡くなった方や相続人の戸籍謄本や遺産分割協議書 (印鑑証明書付) などで相続人であることが取引所に証明できれば良いことになります。これは、不動産の相続登記や預貯金の相続手続と同じような手続きとなります。( 相続登記では権利証は不要です。預貯金の相続手続では亡くなった本人の届出印は不要です。これと似ています。) もちろん、取引所毎に必要書類は異なると思いますが、相続人を確定するための証拠資料の提供 ということでは同じです。

問題は本人がハードウェアウォレットやペーパーウォレット等で取引所外で保管していた場合です。ウォレットの存在やパスワードを他に知らせていないと仮にウォレットの存在が確認できたとしても秘密鍵 (パスワード) が分からなければ暗号資産を承継することはできません。取引所に確認してもパスワードは分かりません。この結果、暗号資産は使用することができず永久に凍結状態 (塩漬け状態) になります。


( まとめ )

暗号資産を保有している場合は、必ず暗号資産を保有している事を家族に知らせておく必要があります。知らせる情報としては、暗号資産の種類と取引所などの情報です。秘密鍵   (パスワード) は知らせる必要はありません。

但し、ウォレットを取引所ではなくハードウェアウォレットなどで自分で管理している場合は、秘密鍵 (パスワード) についても本人が亡くなったとき相続人に引継げるように工夫しておく必要があります。

相続税の課税について、秘密鍵が不明で暗号資産を事実上承継できなくても相続税が課税される運用となっていますので注意が必要です。秘密鍵を知っているのに知らないふりをして相続税逃れができないようにしているのです。

いずれにしても暗号資産を保有している場合は、遺言書やエンディングノートなどにその存在や必要情報を記載して相続手続ができるようにしてもらいたいと思います。

 

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