「遺産分割協議証明書」が便利だと聞きましたが「遺産分割協議書」とどう違うのですか
「遺産分割協議証明書」とは、遺産分割協議で決まった内容を証明する文書です。簡単に「遺産分割証明書」と言われることもあります。相続が開始すると相続財産の承継手続として、相続人間で遺産分割協議を行います。遺言書があれば遺言書の内容に従って遺産承継を行うので遺産分割協議は必要ありません。しかし、遺言書がなければ、誰が何を相続するかを相続人間の協議で決定することになります。
( 遺産分割協議書の問題点 )
相続人間で話し合いの結果、まとまった遺産分割協議の内容は、通常は、「遺産分割協議書」に書いて各相続人が署名捺印することになります。相続人全員が比較的近くに住んでいる場合は、全員が一堂に会して署名押印することができます。しかし、相続人が日本全国に点在している場合や相続人の数が多い場合は、一堂に会することが難しい場合があります。
特に、相続手続がこれまで放置してあり、何代もの相続が発生している場合は、相続人の数が膨れ上がります。先々代名義の不動産の相続登記をしようとしたら、相続人が20~30人になるケースはよくあることです。
このような場合は、1枚の遺産分割協議書に数十人の相続人が署名捺印することになります。この場合一堂に会しえない以上、郵送によって署名押印を求めていくことになります。郵送によって署名捺印を求める場合、想定以上に時間がかかります。普通郵便は土曜日の配達が廃止されたので、ますます時間がかかります。
さらに、遺産分割協議書は、通常、各相続人の数だけ原本を作成します。そのため、各相続人は相続人数分の遺産分割協議書に署名捺印することになります。最終的に遺産分割協議書は各相続人が原本を1通ずつ保管することになるからです。そのため、相続人の数が多いと署名捺印作業も一苦労な作業となります。
また、遺産分割協議書への単純な署名捺印といっても相続人の中には間違える方が出ます。署名捺印の不備の例としては、押された印影が不鮮明な場合が多いと思いますが、間違った印鑑を押される方もいます。氏名についても印鑑証明書に登録された氏名の漢字と普段使っている漢字が異なっていることがあります。氏名の表記は印鑑証明書どおりにする必要があるため訂正が必要になります。
書名捺印作業や郵送に時間がかかり、発生した誤りの訂正でさらに時間がかかることになります。郵送や転送を繰り返して行っていくうちに遺産分割協議書がどこにあるのか不明になり、最悪、紛失して再作成という事態もないことではありません。
( 遺産分割協議証明書の利点 )
このような不便を解消する手段として「遺産分割協議証明書」があります。遺産分割協議証明書は、各相続人が遺産分割協議があったことを証明する文書となります。そのため、各相続人1人に対して1枚の遺産分割協議証明書を作成します。
各相続人は、自分用に作成された遺産分割協議証明書1枚に署名・捺印すればよいことになります。非常に簡単な作業となります。署名捺印が終わったら、相続人の代表者に遺産分割協議証明書を返します。訂正があれば、相続人の代表者と訂正のやり取りをすれば済むことになります。
各相続人が相続人の代表者と書類のやり取りを並行して行いますので時間も大幅に短縮することができます。1人の相続人の行為が他の相続人に影響することはありません。郵送と転送を繰り返えす「遺産分割協議書」方式の場合、1人が手続きを握りこんでしまうと全体の処理時間がその分長引くことになります。
このようなことから、遺産分割協議証明書は大変便利なものであるということができます。
相続人の代表者は、収集された遺産分割協議証明書の原本の束(相続人の数だけ証明書はあります)を使って不動産の登記名義の変更手続きなどの相続手続を行うことができます。
( 遺産分割協議証明書の書き方 )
遺産分割協議証明書の書き方として、「全ての相続財産を記述する」方式と「自分の取得した財産だけを記述する」方式があります。全ての相続財産を記述するのであれば、遺産分割協議証明書の文面は全て同じになります。自分の取得した分だけ記載する方式の場合、慎重に行わないと誤りが生じやすくなります。
また、全て同じ文面の方が署名捺印する各相続人にとっても安心感があります。証明書が相続人毎に内容が異なっているのであれば、全ての証明書を添付しないと安心感が得られないかもしれません。
< 遺産分割協議証明書の文例 >
色々な書き方がありますが、全て同じ文面の方式のものを1例として提示します。
全ての相続財産を記述する方式であれば、内容は遺産分割協議書とほぼ同じになります。書き方に決まりはありませんので、遺産分割協議内容が明確に分かるように書けば良いと思います。
( 遺産分割協議証明書の注意点 )
注意すべき点としては、遺産分割協議証明書は原本が1つ(正確には1つの束)しかないという点です。相続人の代表が相続手続を一括して行う場合には都合が良いのですが、各相続人がそれぞれ遺産分割協議の結果を受けて相続手続を行いたい場合は不便となります。
遺産分割協議書であれば、各相続人が原本を1部所持していますので、自分に関する相続手続に使用することができます。しかし、遺産分割協議証明書の場合は、必要な場合、相続人の代表者から原本のセットを借用する必要があります。
(まとめ)
相続した不動産の名義変更などのため司法書士事務所に手続を依頼したとき、相続人の数が多い場合など「遺産分割協議証明書」での手続を提案されることがあります。手続き自体は司法書士に任せれば良いのですが、遺産分割協議証明書の意味は今回お話したものですので、遺産分割協議書と同じ効力のものであると理解していただれれば良いと思います。