「遺産分割協議書」を作成する場合は、「財産の特定」に注意して下さい

相続が発生して被相続人 (亡くなった方) が遺言書を作成していない場合、相続人全員で遺産分割協議書を作成する必要があります。このとき相続財産の特定方法を適当に書いてしまうと相続手続において面倒なことになります。相続人全員には理解できる内容であっても第三者において相続財産が何であるか特定できないような書き方がなされる場合があります。

今回は、遺産分割協議書において、あまり感心しない書き方について見て行きたいと思います。


( 不動産の書き方 )

亡くなった父親甲の相続人として長男Aと長女Bがいるとき次のような遺産分割協議書が書かれることがあります。

< 好ましくない文例 >

被相続人甲の遺産について、相続人Aと相続人Bは遺産分割協議を行い、次の通り分割することに同意した。

  1. 相続人Aは、被相続人甲が所有する自宅不動産を相続する。

     ‥‥

このような書き方をする場合があります。しかし、「自宅不動産」では特定方法が不十分です。相続人の間では自宅不動産と言えば自宅のことでありイメージ相違はないかもしれません。多くの場合、亡くなった甲が住んでいた自宅建物とその敷地ということになります。

しかし、自宅が広くて沢山の駐車場があったり、納屋や物置、ガレージなど色々な工作物がある場合、どこまでが自宅不動産か分からないことがあります。

また、この遺産分割協議書では不動産の所在が分かりませんので、相続登記を申請しても法務局では受け付けてもらえません。


そこで、不動産の特定方法を不動産登記簿の記載に従って次のように特定する必要があります。登記事項証明書を法務局で取得して、その記載通り正確に記載します。

< 好ましい文例 >

  1. 相続人Aは、被相続人甲が所有する下記不動産を相続する。

    記

(土地)

所  在 ○○県〇〇市〇〇町〇丁目
地  番 〇〇番○
地  目 宅地
地  積 ○○.○○㎡

(建物)

所  在 ○○県〇〇市〇〇町〇丁目○番○号
家屋番号 ○○番
種  類 居宅
構  造 木造瓦葺2階建
床面 積 1階 ○○.○○㎡
     2階 ○○.○○㎡

なお、自宅がマンションで敷地権付きの区分建物の場合は、登記事項証明書にある「一棟の建物の表示」「専有部分の建物の表示」「敷地権の目的たる土地の表示」「敷地権の表示」の内容を記載通りに正確に書きます。

また時々、建物が登記されていない場合があります。建物の登記は登記義務はありますが、費用が掛かることから登記せずに放置してある場合があります。この場合は登記事項証明書が取得できないため特定が難しくなります。

この場合は、建物の固定資産課税台帳の記載などを参考にして特定する必要があります。建物が未登記でも税務当局は建物を特定して課税します。そのため固定資産の課税台帳には建物が記録されています。この台帳の記載をベースにして建物を特定します。具体的には、毎年4月頃送付される固定資産税の課税通知書の記載内容を参考にして不動産を特定します。


( 自動車、ネックレス、高級時計の書き方 )

遺産分割協議書の特定方法が不十分な例として、他に自動車、ネックレス、高級時計があります。

< 好ましくない文例 >

‥‥
1.相続人Aは、被相続人甲の自動車を相続する。
2. 相続人Bは、被相続人甲のネックレスを相続する。
3.相続人Bは、被相続人の時計を相続する。
‥‥

このような好ましくない文例の場合でも、相続人の間では具体的な相続財産のイメージが合っている場合が多いと思います。しかし、実際に分配する段階になって、「このネックレスではない」「この時計ではなく、そちらの高級時計だ」などと揉める場合があります。

このようなことを未然に防ぐには正確な特定が必要になります。

<  好ましい文例  >

  1. 相続人Aは、被相続人の下記自動車を相続する。

    記

登 録 番 号    ○○
種     別    ○○
用     途    ○○
自家用、事業用の区別 ○○
車     名    ○○
型     式    ○○
車 体 番 号    ○○
原動機 の型式    ○○

相続する自動車の自動車登録事項等証明書の記載を参考に記載します。

  1. 相続人Bは、被相続人甲の下記ネックレスを相続する。

   記

製造者  ○○ 
型 番  ○○
素 材  ○○
サイズ  ○○
重 量  ○○

ネックレスなどの鑑定書の記載を参考に特定します。

  1. 相続人Bは、被相続人の下記時計を相続する。

    記

IWCパイロットウォッチ クロノグラフ
型式番号    ○○○○
ケース番号   ○○○○

高級時計の商品名や型式番号、ケース番号などで特定します。


( 預貯金の書き方 )

預貯金の書き方は比較的問題なく書かれることが多いと思います。預金通帳などを見て書くため漠然とした記載にならないことが多いからです。しかし、時々次のような記載例も見かけます。

< 好ましくない文例 >

  1. 相続人Aは、被相続人甲の○○銀行の預金を相続する。

実際の銀行の相続手続において、銀行名が特定されていれば、銀行側で名寄せをして亡くなった方名義の全ての預金口座を特定することができます。そのため、このような記載でも相続手続は可能たと思います。

 


問題は、実際に預金口座を調べてみたら思いもかけない口座が見つかり多額の預金があった場合などにおいて問題になる場合があります。遺産分割協議書で合意したのだから見つかった預金はAのものであると主張した場合、Bと争いになる場合があります。

このようなことを未然に防ぐには、預貯金口座の特定は詳細に書いておくことが必要になります。記載されない口座が後日発見された場合は、別途協議する扱いにしておくことが望ましいと思います。預貯金以外の金融資産についても口座情報などを詳細に特定することは簡単にできると思いますので詳細に記載した方が良いと思います。

< 好ましい文例 >

  1. 相続人Aは、被相続人甲の下記の預金を相続する。

      記

銀 行 名  ○○銀行
支 店 名  ○○支店
口座 種類  普通預金
口座 番号  ○○○○
口座 名義  ○○○○


( まとめ )

今回お話した以外の相続資産についても財産を詳細に特定しておいた方が良いものが色々あります。特定が不十分な書き方をしていても相続人間で揉めることがなければ、不動産等を除いて、円満に相続を行うことはできます。

不動産などの登記や登録が必要な相続財産の場合は、登記・登録先機関との対応があります。その機関が了解できる特定方法でないと登記・登録ができずに相続手続が進まないことがあります。

遺産分割協議書で相続財産の特定で迷われる場合は、司法書士などの専門家にお尋ねください。色々なアドバイスをしてもらえると思います。

 

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