「遺産分割」を5年間禁止することができると聞きましたが本当ですか
相続が発生した場合、遺言書がなければ、相続人全員で「遺産分割協議」を行って相続財産を分割することになります。しかし、色々な事情で「今分けると不都合が大きい」場合があります。そのようなとき相続人全員で遺産分割協議を一定期間禁止(延期)することを合意できます。これを「遺産分割の禁止の合意」と言います。
今回は、この「遺産分割の禁止」について見ていきます。

(「今分けると不都合な場合」とは )
今、遺産分割を行うと不都合な場合として色々なケースが想定されます。
(1) 家業・事業の承継が関係する場合
このケースが代表的なケースとなります。被相続人が会社経営者や個人事業主の場合です。自社株や事業用資産が遺産の中心のため、相続直後に分割すると経営が分散したり、会社の意思決定が不安定になる恐れがある場合です。後継者が会社経営を安定させる一定の期間、遺産分割協議を禁止する必要がある場合です。

(2) 不動産が遺産の大部分を占める場合
自宅や賃貸不動産が唯一の相続財産の場合が典型例となります。相続人間で平等に相続することを希望する場合、売却してお金に替える必要がありますが不動産市況が悪い場合です。今売ると売却金が少なくなることが予想される場合です。
また、亡くなった親の自宅に相続人の1人が同居していて自宅が生活基盤となっている場合です。新たな居住先を探すまで暫く待ってもらうような場合が考えられます。
(3) 相続人に未成年者がいる場合
相続人の中に中学生や高校生がいる場合です。相続人が未成年者の場合は、特別代理人を選任して遺産分割協議をする必要がありますが、本人が成年(18歳)に達するまで待つことができるのであれば、その方が本人の意思にかなうことになります。

(4) 相続人間の紛争が激しく、冷却期間が必要な場合
相続人間の感情的な対立があり、今協議すれば必ず争いになるような場合です。相続直後で冷静な判断が困難な場合で、しばらく冷却期間を置く必要があるケースです。時間を置いた方が合理的な判断が期待できることになります。

(5) 特定の条件が整うのを待つ必要がある場合
相続税の納税資金を準備中の場合や共有解消のための代償金の準備期間中の場合です。また、相続財産や相続人の範囲について相続人間で争いのある場合です。不動産の評価額や相続人の認知能力に疑いがある場合、隠し子などの場合です。専門家による鑑定評価や認知能力の評価結果、裁判結果を待つ必要があるようなケースです。
(6) その他
相続人の中に胎児がいる場合、行方不明者がいる場合、相続人に借金があり債務整理中の場合など一定期間待った方が良い場合があります。

(「遺産分割の禁止」方法 )
共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができます。また、この契約は5年以内の期間を定めて更新することができます。但し、期間の終了は相続開始から10年を超えることはできません。
つまり、遺産分割禁止は5年以内の期間で行うことができ、契約更新をして期間の満了を伸ばすことができますが、最長に伸ばしても相続開始から10年以内が限度ということになります。
なお、仮に5年を超える7年の遺産分割の禁止を定めた場合は合意が無効になるのではなく、5年に短縮されて有効となります。

(「遺産分割禁止」の効果 )
遺産分割禁止の合意がなされると遺産分割が一定期間延期されることになります。分割禁止期間経過後に遺産分割協議を行うことになります。
なお、分割禁止の合意を相続人以外の第三者に対抗(主張)するには、不動産については分割禁止の登記を入れる必要があります。登記を入れないと分割禁止の合意を知らずに不動産を譲り受けた第三者に対して、分割禁止であることを主張(対抗)できません。
また同様に、動産 (不動産以外の財産)についても合意の内容を知らない第三者が権利を取得してしまうことがあります。これを動産の「即時取得」と言いますが注意が必要です。

(「遺産分割禁止」の注意点 )
遺産分割を一定期間禁止したい場合に遺産分割禁止の合意は有効な手段となります。しかし、注意すべき点があります。
(1) 相続登記の義務化への対処
相続登記は亡くなってから3年以内に行わなければならないという法律上の義務があります。これを「相続登記の義務化」と言います。この対応が必要になります。遺産分割の禁止をすればこの期限が守れなくなるからです。
そのため、遺産分割禁止の合意をする場合には、「相続人申告登記」を行って、義務化の回避策を取る必要があります。相続人申告登記は、各相続人が相続人である旨を法務局に申告して登記簿にその旨を記載してもらう制度です。これを行えば、とりあえずの義務を果たしたことになります。もちろん、後日、遺産分割協議が行われたら相続登記を行う必要があります。
(2) 小規模住宅特例への対処
小規模宅地特例とは、一定の要件に当てはまる土地を相続した際、その一定面積まで、相続税の計算をする際の評価額を50%又は80%軽減できるという、相続税法上の特例制度です。
そして、この制度の適用に必要な一定の要件の中に「遺産分割」がなされていることがあります。つまり、遺産分割が未了ではこの特例の適用ができないということです。土地の評価額の大幅な減額が可能となるこの特例が使えるか否かでは相続税の額が大きく違ってくる場合があります。遺産分割を禁止すれば、当然、この特例の適用はできないことになります。
そこで、対処策としては、相続税の申告が必要な場合は、とりあえず法定相続分で分割したこととして相続税の申告を行います。後日、遺産分割が行われた場合、特例の適用をもとに相続税の額を再計算して、相続税の更正申告を行い、払い過ぎた相続税の差額の還付請求を行うことになります。
これをするには、相続税の申告期限までに遺産分割されていない宅地てあっても「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書に添付する必要があります。こうしておけば、申告期限から3年以内に分割が確定した場合は、小規模宅地の特例の適用を受けることができます。従って、分割禁止期間については、この点(3年)も考慮して決定する必要があります。
(3) 分割禁止の合意書の記載内容
不動産の分割禁止の合意をする場合、分割禁止期間中の不動産の公租公課の負担者や負担割合を定めておくことが必要となる場合があります。公租公課の額が高くない場合は良いのですが、高額になる場合は負担について争いになる場合があるからです。
また、分割禁止の登記をする場合の費用についても負担者などを明確にしておく必要があります。

(まとめ)
遺産分割禁止については、あまり馴染みのない話だと思います。しかし、上述した「今分けると不都合な場合」で説明したようなケースでは必要になる可能性があります。
あまり長期間の分割禁止は避けた方が良いかもしれませんが、一定期間の禁止をした方が色々と上手くいく場合は選択肢の1つとして検討する必要があります。
選択肢の1つとして検討したい場合は、弁護士や司法書士に相談してみて下さい。色々なアドバイスをしてもらえると思います。


