「相続登記」は自分で登記申請できますか

令和6年4月1日より相続登記が義務化されます。違反者には10万円以下の過料が予定されています。祖父母や親が既に亡くなっていて祖父母や親名義の不動産がある場合も令和6年4月1日から3年以内に相続登記をする必要があります。この相続登記の義務化を契機として、相続登記を司法書士に依頼しないで、自分で行おうとする方も増えているようです。


法務局のホームページなどでは登記申請に必要な登記手続きについて、申請書のひな形見本も用意して親切に解説しています。
一見すると、この手順に従って準備すれば簡単に申請できるのではないかと思ってしまいます。しかし、簡単そうに見えて実際に行ってみると分からない点が色々と出てきます。

法務局のホームページの説明は、丁寧に書かれていますが、法律に詳しくない方が読むと難解な部分もあり、理解できないことがあります。


相続登記は専門家である司法書士が取り扱う場合でも、案件によっては非常に難しく手間のかかるものがあります。ごく一般的なものでも登記申請までの諸準備が必要となるため完了までに1~2か月程度はかかります。

相続登記の難しい点は、亡くなった方の相続関係が亡くなった方の人生を反映して千差万別だということです。相続登記という1つのパターンがあって、それに合わせて書類を作成していけばよいような簡単なものではないのです。


法務局のホームページに書かれている登記申請書のひな形見本は、ごく標準的なものを掲載しています。ひな形見本と自分の事例が合致すれば良いのですが、合わない場合は適宜修正する必要があります。多くの場合、そのままでは利用できないので修正する必要があります。自分の判断で修正した場合、これで正しいのか不安になります。

( 法務局による「登記手続き案内」の注意点 )

そこで活用するのが「法務局による登記手続き案内」です。登記申請を自分でする場合、疑問点が色々あると思いますので、法務局の登記手続き案内を利用することになります。


以前は法務局に作成した書類などを持参して相談に行くことができました。持参した申請書類等の書面を法務局職員に見せながら疑問点を聞くことができました。しかし、現在は以下のような制約があり、事前準備を入念に行って対応する必要があります。

(1)  法務局職員との相談は「電話予約」による「電話対応」とする法務局が多くなっています。

新型コロナウィルス感染防止の観点から「電話対応」としている法務局が多くなっています。

事前に電話で予約をすると予約日時に法務局職員から電話がかかってきます。相談は電話での相談となります。相談時間は1回につき20分以内とされています。延長は認められません。予約時間から10分以上過ぎても電話に出なければ予約はキャンセルされます。


電話での相談の場合、手元にある書面をお互いが見ながら相談するのに比べて効率が悪くなります。手元の書類について電話で説明してから質問となりますので時間がかかります。5つ質問を準備していたのに2つで時間切れとなることも多いと思います。

(2)  相談利用を申請者本人に限定している法務局が多い。

登記申請手続案内を利用できるのは、申請者本人に限るとしています。高齢の母が相続登記の登記申請人の場合、子供や孫が代わりに相談利用できるとは思いますが、「ご利用時に本人確認を行う場合があります」と警告している法務局もあるため気になるところです。

(3)  登記申請書の相談による説明は、法務局のホームページに掲載されている一般的な記載内容や添付書類について説明するとしています。

法務局では、個別の事案に沿ったアドバイスは行わないとしています。一般的な事例についての説明を行うのみで個別具体的なケースを想定した質問には答えてくれないということです。

登記申請書や添付書類は本人の判断で作成してほしいとされています。

(4)  事前の審査はできないとされています。

相談員が申請前の書類に不備がないかどうか審査することはできないとしています。提供された書面が法律的に有効か無効かなどの判断やアドバイスもしてくれません。

相談者の立場からすると、電話相談で了解してもらったのだから、このまま登記申請すれば申請はすんなり通ると思いがちですが保証していません。相談は審査ではないため、申請されれは改めて厳格に審査されます。当然、不備があれば補正が必要になります。

(5)  補正の可能性があります。

「補正」とは、申請の不備を是正することです。登記手続き案内を受けたからと言って、登記申請内容の適合性や登記の完了を保証するものではないため、不備があれば是正を求められます。

申請書類の書き直し、添付書類の作り直し、不足する添付書類の再提出、不足する登録免許税の追加納付など「補正」処理を行わなければなりません。

補正で提出した書類にさらに不備があれば、再度の補正となります。もちろん、再々補正もあり得ます。本人申請の場合は、補正なく通ることは稀だと考えておいた方が良いと思います。


法務局から指摘される補正の指示は、内容をかみ砕いて分かりやすく対応方法を説明してくれる場合もありますが、担当者によっては不親切な場合もあります。本人申請が増えてくると補正の連絡が増え担当者も忙しくなるため、事務的に冷たく対応されることも多くなるかもしれません。

本人申請の場合、補正の処理に多くの時間と体力を取られる可能性があります。場合によっては余分なコストもかかります。

(まとめ)

ご自身で相続登記を申請しようとする場合は、事前に入念に準備をする必要があります。相続登記を自分でするための書籍やインターネット上の情報など活用できる情報は色々ありますのでこれを活用します。

また、登記所や市町村役場などへ行かなければならなくなりますので平日の日中にある程度の時間が確保できることが必要になります。また、簡単には申請は通らないと思いますので、粘り強い精神力も大切になります。


相続登記の事案によっては、最初から司法書士に任せた方が良いものもあります。途中まで準備して、色々やってみたがうまく行かず、司法書士事務所に駆け込んでくる方もいます。それまでの苦労が無駄になりますので、少しでも複雑な案件 (ひな形見本から外れるような案件)は、お近くの司法書士に依頼した方が、結局のところ安上がりになると思います。

 

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