「死亡退職金」は相続財産ではないのですか
サラリーマン勤めをされている方が亡くなった場合、会社から「死亡退職金」が支払われることがあります。この死亡退職金は誰が受け取ることができるのでしょうか。相続財産であれば、法定相続人が受け取ることができるはずです。死亡退職金は生命保険金などと同じく金額が大きくなることが多いため問題になる場合があります

問題となるのは、亡くなった方とその配偶者との夫婦仲が悪く長らく別居しているような場合です。そのとき、亡くなった方が別の方と同棲をして生活の面倒を見ている状況であると問題が複雑になります。破綻状態ある法律上の配偶者か事実婚状態の配偶者かどちらにもらう権利があるかということです。
また、一部の相続人だけが死亡退職金の全額を受け取った場合、死亡退職金が相続財産であるとすると法定相続人間で不公平なことになります。死亡退職金以外に見るべき遺産がない場合、他の相続人から「遺留分侵害」を主張されるかもしれません。
このような場合「死亡保険金」とは法律的にはどのような位置付けのものであるかを理解していないと問題の解決ができません。そこで、ここではこの問題について見て行きます。

(「死亡退職金」とは何なのか )
死亡退職金は、本人の死亡により受給権の発生する退職金で、賃金の後払いや遺族の生活保障の性質を有するものです。そして、会社の「死亡退職金支給規定」による受給資格に基づいて遺族が自分の「固有の権利」として取得するものであるとされています。
つまり、相続財産ではないということです。会社の支給規定により遺族の固有の権利として支給されるものということができます。そのため、まず会社の支給規定にどのように書かれているか確認することが必要になります。
例えば、「配偶者がいる場合は配偶者に支給する」と書かれていれば、自動的に配偶者に支給されることになります。配偶者とは、もちろん法律上の婚姻関係にある配偶者ということになります。内縁関係では難しいということです。
しかし、多くの会社の死亡退職金支給規定では、「死亡当時、本人の収入によって生計を維持していた遺族に支給する」とされている例が多くなっています。ここで言う遺族とは法律上の婚姻関係がなくても遺族になり得るということです。「生計の維持」がキーワードとなるということです。

( 「生計の維持」が重要になります )
先ほど述べた破綻状態にある夫婦の場合、どちらが生計を維持されていたかが重要になるということです。同棲中の方の生活の面倒を見つつ、別居中の配偶者にも生活費は送金している場合もあります。
あるいは、どちらの方も仕事を持っていて相応の収入を得ている場合もあります。このように、生計の維持が判断の基準になると言っても具体的なケースにおいては、双方の生活実態まで見ないと判断がつかないのです。
双方の生活実態を見た上で最終的には収入に応じた比例配分とせざるを得ないケースも出てくると思います。
また、同棲中の方が完全に生計を維持されていた場合、死亡退職金の全額が同棲中の方に支給されることになります。残された相続人としては納得がいかない場合があります。特に死亡退職金以外に目ぼしい財産がない場合などは、法定相続人の「遺留分侵害」であると主張したくなります。
しかし、相続人以外の方に死亡退職金が支給されている場合は、遺贈や生前贈与にあたらないため、通常は、遺留分侵害を認めることは難しいと思います。

( 法定相続人間で争う場合はどうなるか )
例えば、死亡退職金を亡くなった夫の妻が全額支給された場合、その夫婦の子 ( 長男や長女など ) との間で遺産相続について不公平感が生じることがあります。死亡退職金が1,000万円支給されるのに、残された相続財産が1,500万円程度しかない場合です。
子供達からすれば、死亡退職金は「特別受益」であるから、相続人の公平を図るために遺産に「持ち戻す」べきであると主張したくなります。持ち戻すとは、相続財産に組み入れて全体で遺産分割協議をするということです。

しかし、現在の相続実務では極端な場合を除いて、原則として、特別受益には該当せず持ち戻しはできないとされています。亡くなった夫の妻が1,000万円を取得した上で、残りの遺産1,500万円について子供達と遺産分割することになります。
( まとめ )
サラーリンマンの方が現役の途中で亡くなると「死亡退職金」の支給の問題が発生する場合があります。内縁関係の方がいたり、残された相続人の間でもめるような状況でなければ、あまり問題にならないかもしれません。

支給された死亡退職金を相続人の間で円満に分配すれば良いだけの話です。しかし、金額がある程度高額になってくると色々ともめる場合がありますので、死亡保険金の位置づけを理解した上で話し合ってもらいたいと思います。