「子供のいない夫婦」でも相続対策は必要ですか

子供のいない夫婦の場合、どちらかが亡くなれば残された配偶者が遺産を引き継ぐだけと簡単に考えている方が意外に多いと思います。しかし、「子供のいない夫婦」は相続問題ではリスクが高い状況にあることを認識する必要があります。


例えば、子供のいない夫婦の夫が亡くなった場合、夫の財産は残された妻と夫の父母で相続することになります。夫の父母は、通常は既に亡くなっていると思いますので、この場合は亡くなった夫の兄弟姉妹が相続人となります。つまり、亡くなった夫の財産は、妻と夫の兄弟姉妹で相続することになるのです。妻の相続分は3/4、兄弟姉妹の相続分は1/4です。

仮に、夫の兄弟姉妹が夫よりも早く亡くなっていた場合は、その子 (甥・姪) が相続人になります。夫の兄弟姉妹等との遺産相続は、何かとトラブルに発展しやすくなります。

ここでは、典型的なトラブル事例を2件ご紹介します。

< 典型的なトラブル事例1 >

◆ 子のない夫婦の夫が亡くなったケースで主な相続財産は自宅だけのケース。
◆ 夫の両親は既に他界している。
◆ 夫の兄弟は、兄が1人いたが既に亡くなっている。兄には子供が1人いる。


このケースで、夫が亡くなり葬儀も済ませ、残された妻がそのまま自宅に住み続けていたとします。自宅の名義は亡き夫のままです。何年か後に、突然、夫の兄の子から「自分も亡き夫の相続人のはずだから相応の財産を分けてほしい」と言われることです。

夫が亡くなった時点で、自宅の名義変更をする必要がありました。名義変更(「相続登記」)をするには、相続人全員で「遺産分割協議」をする必要があります。この場合の相続人は、残された妻と亡くなった夫の兄の子(甥)です。

この手続きをしないまま、残された妻は自宅に住み続けていたわけです。夫が亡くなった当時、まだ幼かった甥がその後成長し、自分も相続人であることを知って権利主張する場合です。相続分(遺産の1/4)に相当する金銭が手元にあれば良いのですが、なければ借金をするか自宅を売却する必要があります。大変な事態になりかねません。

(対応策)

それでは、このような相続リスクを回避するにはどのようにすればよいのでしょうか。対応策の1つとして「妻に全財産を相続させる」という内容の「遺言書」を作成しておく方法があります。この遺言書があれば、亡くなった夫の兄弟姉妹や甥姪などの関与なく、残された妻だけで遺産相続手続を行うことができます。自宅の名義変更もできます。兄弟姉妹などは相続分を主張することができなくなります。


兄弟姉妹などは亡くなった夫の相続人ですが「遺留分」はありませんので、遺言書で全財産を妻に相続させても遺留分侵害を主張することはできません。つまり、遺言書を作成しておけば、夫の兄弟姉妹の相続権を封じることができるのです。

2つ目のトラブル事例を見てみます。

< 典型的なトラブル事例2 >

◆ 子のない夫婦の夫が亡くなったケースで、相続財産は自宅と預貯金のケース。
◆ 夫の親の父は既に亡くなっているが、母は存命である。
◆ 夫の兄弟は、弟が1人、妹が1人いる。
◆ 亡き夫は生前に「全財産は妻に相続させる」内容の公正証書遺言をしていた。

このケースで、夫が亡くなり葬儀も済ませたのち、自宅や預貯金の名義変更などの相続手続を公正証書遺言を使って残された妻が1人で行いました。手続きも無事終了し平穏に暮らしていたところ、突然、亡き夫の弟と妹から「亡き夫の相続財産のうち母の相続分は母に渡してほしい」と連絡が入ります。母の法定相続分は遺産の1/3です。

「全財産を私(妻)に相続させる内容の遺言書があるので母の相続分はない」と伝えると、「母の相続分はなくても遺留分はあるはずだから、遺留分相当の財産は渡してほしい」と主張されます。法定相続人である母には相続財産の1/6 (1/3×1/2) の遺留分があります。

兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」が存在します。遺留分とは、遺言書などによっても奪うことのできない相続人が相続財産を受け取る権利です。夫が亡くなれば、法定相続人は妻と母になりますが、母には遺留分が存在します。

仕方なく、相続した預貯金から遺留分に相当する金額を母に渡すことにしました。その後、母が亡くなると、その財産は亡き夫の弟と妹が相続して持って行きました。亡き夫は母の相続人ではないため1円の相続分もありませんでした。

こちらのケースは、遺言書を事前に準備していた場合ですが、長寿の母親が相続人となったため、想定通りいかなかったケースです。

(対応策)

高齢の母親がいつ亡くなるかは誰にも分かりません。 従って、妻に全財産を相続させる旨の遺言書の作成は行っておきます。それと同時に、事例ケース2のような場合を想定して、母への遺留分相当額の生命保険に入っておく方法があります。


存命の親から遺留分相当額の請求があることを前提に、遺留分相当額が夫死亡時に妻に支払われる生命保険に入っておくのです。生命保険金は相続財産ではありませんので妻が自由に遺留分の清算に使用することができます。

(まとめ)

子のない夫婦の場合、遺言書の作成が重要になります。できれは、夫婦それぞれが相手方に全財産を与える内容の遺言書をそれぞれ作成しておくべきです。

つまり、夫から妻に「全財産を相続させる」、妻から夫に「全財産を相続させる」と書いておくのです。公正証書で作成しておくことが望ましいと思います。


また、遺言書の内容として、万が一、自分より先に相手方が亡くなった場合の取り扱いについても書いておくと良いでしょう。どちらか一方の遺言書は、そのままでは、夫婦の一方が亡くなった後は、相手方が亡くなっていますので無効になります。そこで、例えば妻から夫への遺言書で「夫が亡くなっていた場合は、相続財産は私の妹に遺贈する」などと書いておくことになります。

いずれにしても、子のない夫婦の場合、遺言書の作成はとても大切な相続対策となります。色々と研究してみてください。

 

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