「一人っ子」で父が亡くなり、その後母も亡くなったとき、父の相続登記は簡単ですか

一人っ子で父と母が順番に亡くなると相続人は自分一人しかいません。複数の相続人がいれば遺産分割で揉めることがありますが、一人っ子の場合はそのようなことはありません。亡くなった父親が自宅を所有していれば、相続人が自分一人であるので相続登記も簡単にできると考えたくなります。

確かに相続人間で揉めることはないのでその分簡単に手続きを行うことができます。但し、相続登記には注意すべき点があります。うっかりすると誤った登記申請をして申請をやり直すことになります。今回はこのテーマについて見て行きます。


( 両親が順次亡くなった場合の一人っ子の相続 )

今回は次の事例で説明します。家族は父と母と一人息子です。


この家族で父親が令和2年に母親が令和4年に亡くなったとします。そうすると次のような家族状態になります。


父親名義の自宅があるので、一人息子は相続人は自分しかいないため自宅の自分への相続登記を行うことになります。

相続登記の申請方法を法務局のホームページやネット情報で確認すると相続人が「遺産分割協議」を行って名義変更できると書かれています。そこで、亡き父親名義の自宅の相続について「父親の自宅は長男である自分が相続する」という内容の遺産分割協議書を作成して、「父相続人 兼 母相続人 一人息子 」と署名捺印して遺産分割協議を行います。

そして、父親名義の自宅を直接息子名義になるような登記申請書を作成して法務局に登記申請することになります。しかし、この方法では法務局は登記申請を認めてくれません。事実上、相続人は一人息子しかいないのですから認めても良いように思えます。しかし、法律的な理屈が成立しないため認めてもらえません。


( 何が問題になるのか )

法務局は登記の申請にあたって法律的な理屈を重視します。結果として、一人息子に相続させても良い場合でも法律的な理屈に合った方法を要求します。

父親が亡くなった後母親が亡くなっているため、令和2年の時点では家族関係としては次のような段階が発生したはずです。


令和2年時点では母親はまだ存命です。つまり、亡くなった父親の相続人は母親と一人息子ということになります。この時点で亡くなった父親の相続登記をする場合は、母親と一人息子が遺産分割協議をすることになります。

一人息子の名義にしたければ、遺産分割協議書にそのように定めれば、父親名義から一人息子の名義に相続登記をすることができます。しかし、このような手続きをしないまま令和4年に母親が亡くなれば、母親と遺産分割協議をすることはできません。


( 「遺産分割協議」は一人ではできないという理屈  )

「遺産分割協議」は、一人ではできないという考え方 ( 理屈 ) となっています。「協議」とはお互い意見を交わしながら話をまとめることです。一人では「協議」ができないということです。つまり、母親が亡くなる前であれば協議は可能ですが、亡くなってしまうと「協議」の余地がなくなるのです。

その結果、亡くなった父親の自宅の名義は、母親が亡くなった時点で協議ができなくなるため、「法定相続分による相続」扱いになります。法定相続分による相続とは、民法が定めた法定相続分通りに相続がなされるというものです。今回のケースでは、亡くなった父親の相続について、妻である母の法定相続分は2分の1、一人息子の法定相続分も2分の1です。

そして、亡くなった父親の自宅の名義は亡くなった母親と一人息子で共有 ( 持分各1/2 ) 状態となります。そして、この共有状態に合わせる形の相続登記を行う必要があります。具体的には、母持分1/2、息子持分1/2の共有登記を相続登記で行います。

その上で、亡くなった母親の共有持分 ( 1/2 ) について、一人息子への相続登記  ( 母親持分の移転登記 ) を行う必要があるのです。つまり、相続登記を2回行う必要があるということです。

母親の亡くなった状態を飛ばして、父親から直接一人息子に名義変更 (相続登記) ができないということです。


( 若干の緩和策 )

相続登記を2回行う必要があれば、当然、登記費用も2倍かかります。そこで、国は相続登記の推進のため登録免許税の減免措置を講じています。相続登記をする場合、不動産の価格に応じて登録免許税を納める必要があります。不動産のうちでも土地は価格が高くなりやすいので、土地について令和7年3月31日までの時限措置として、一定の条件を満たせば登録免許税が免除されています。なお、登録免許税は印紙で納めます。

相続により土地を取得された方が相続登記をしないで死亡した場合の相続登記について登録免許税が免除されます。今回の母親のようなケースは免除される典型的なケースとなります。これにより、相続登記を2回行っても登録免許税は1回分ですむことになります。


( 母が存命中に遺産分割協議を行っていた場合 )

父親が亡くなり、母親が存命中の、例えば、令和3年のある日、母と一人息子が「父親名義の自宅について名義変更をしないとまずいよね」と一人息子が母に行ったとします。母も「そうだね。 それじゃお前の名義にしなさい。」と言ったとします。一人息子も「お母さんが良いというなら自分の名義にします。」と答えたとします。

このような話し合いが行われていれば、これは「遺産分割協議」にあたります。書面に書かれていなくても問題ありません。話し合いが行われ結論が出ていれば立派な「協議」になります。

このような話し合いが行われていた場合は、2回の相続登記を1回で行うことができます。当時の話し合いの結果を一人息子が今時点で書面に書き落として、これを「遺産分割協議証明書」として作成します。

亡くなった母が存命中に自分と母で亡くなった父親名義の不動産の相続先を一人息子である自分にしたとする内容の証明書を作成して父と母の相続人である一人息子が署名捺印するのです。「証明書」ですから「協議」は不要です。

この遺産分割協議証明書を添付すれば、父親名義の不動産を直接一人息子の名義に相続登記を行うことができます。相続登記は1回ですみます。


( まとめ )

一人息子の場合、通常の相続手続は簡単に行うことができます。ところが、途中で母親が亡くなっていると話は面倒になります。両親が亡くなっており、相続人は自分一人だから相続手続は簡単だと思っていると思わぬところで足をすくわれます。

相続手続は法律の理屈の上に構築されていますので注意する必要があります。簡単そうに見えて意外と面倒なケースになる場合があります。心配な方は司法書士に相談下さい。

 

 

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