相続対策として「不動産の暦年贈与」を考えていますが考慮点はありますか

相続対策として自宅不動産などの「暦年贈与」を検討されることがあります。毎年贈与税の非課税枠である110万円分だけ不動産の持分を生前贈与していく相続対策の1つです。毎年少しづつ贈与を行って相続税の負担を少なくしたい場合や特定の相続人にできるだけ早く権利を移転して権利関係を確定しておきたい場合などが贈与の動機と考えられます。

しかし、不動産の暦年贈与は預貯金の暦年贈与と違って登記による名義変更が必要となるなど色々と考慮点があり注意が必要です。

今回はこの「不動産の暦年贈与」について見ていきたいと思います。


( 不動産の暦年贈与の具体的なイメージ )

不動産の暦年贈与といっても非課税枠が毎年110万円しかありません。そのため資産価値の大きい都市部の土地を対象とすることは考えにくいと思います。生前贈与が完了するまでに寿命が尽きてしまうからです。

そのため、不動産の暦年贈与は建物が中心になると思います。贈与者である親などが住んでした実家の場合、築年数が相当経過しているため不動産の評価額も手ごろな価格となっています。

例えば、不動産の固定資産税評価額が500万円であれば5年で生前贈与が完了します。
 500万円÷110万円=4.54年

つまり、親が65歳であれば、70歳で贈与が完成します。


( 暦年贈与で毎年必要となる手続 )

暦年贈与で不動産の持分を少しずつ移転していくには毎年次の手続を行うことが必要です。

(1) 建物の固定資産税評価額を確認する。

毎年4月頃送付される固定資産税の課税通知書などで不動産の評価額 (「固定資産税評価額」) を確認する必要があります。この評価数字を間違えると非課税枠をオーパーする恐れがありますので慎重に確認する必要があります。

(2) 贈与契約書を作成する。

毎年、贈与契約書を作成します。贈与契約書を作成しないと贈与の事実を証明しにくくなるので必ず贈与契約書は作成すべきです。但し、毎年同じように行うのだから全部をまとめて数年分を1つの贈与契約書として書いてしまってはダメです。

必ず「今年の分だけ」を今年の贈与として独立した契約にする必要があります。悪い例としては、「今後5年間毎年110万円ずつ贈与する」とか「最終的に全部渡す予定」等の表現は厳禁です。

このような表現の贈与契約書を作成した場合、税務当局から、「連年贈与」とみなされる恐れがあります。連年贈与とは、形の上では毎年毎年独立して贈与しているように見えているが、贈与契約としては全体として1つで、偶々、毎年毎年一部ずつ実行しているに過ぎない贈与のことです。

連年贈与として認定されると、数年にわたる贈与の合計額について贈与が実施されたと認定されて贈与額の合計に対して一括して贈与税が課せられます。そのため、税務当局から連年贈与と認定されないように慎重に行う必要があります。毎年同じ日に贈与するようなことは、連年贈与と疑われやすくなるので避けた方が良いと思います。


(3) 贈与契約書に当事者が署名捺印する。

贈与契約書には、次の内容を記載します。
① 贈与日
② 贈与者と受贈者
③ 不動産の表示
④ 贈与する持分
⑤ 贈与であること(無償であること)

そして、当事者双方が署名捺印します。契約書には200円の印紙を貼付します。

(4) 法務局で不動産の名義変更の登記を実施する。

法務局で贈与による「持分一部移転登記」を行います。司法書士に依頼すれば必要な書類の準備から登記手続きまで行ってくれます。

不動産の名義変更には次の書類が必要になります。

① 贈与契約書
② 登記原因証明情報
③ 贈与者(今回は親)の印鑑証明書
④ 不動産(建物など)の権利証
⑤ 受贈者(今回は長男など)の住民票
⑥ 固定資産の評価証明書
※司法書士に依頼する場合は双方からの委任状

なお、登記申請書には登録免許税を納付する必要があります。登録免許税は移転する固定資産税評価額の20/1000です。建物の移転する持分の評価額が110万円であれば2万2,000円です。(110万円×20/1,000=22,000円)


( 贈与税の申告 )

年間110万円以下なら贈与税の申告は不要です。しかし、少しでも超えれば申告が必要になります。そのため、実務ではあえて110万円を少し下回る金額で贈与することもあります。

評価誤差などを避けるためです。建物の場合は固定資産税評価額を毎年調査していれば誤差はうっかりミスを除いて生じませんが、土地を贈与する場合は注意が必要となります。土地の評価額は路線価がベースとなるからです。

また、毎年同じ金額で贈与していると連年贈与と認定されるリスクもあるため贈与額も多少の幅が必要ということもあります。

( 暦年贈与の注意点 )

(1) 相続税法の改正により、死亡前7年以内の暦年贈与は相続財産に持ち戻されます。

従来は、死亡前3年以内の持ち戻しであったものが7年に延長されました。このため、親が亡くなる前7年間に行われた歴年贈与は相続財産に加算して相続税を計算することが必要になりました。

そのため、相即税の節税面からは、効果が一部減少することになります。生前贈与の開始段階での親の年齢から判断して実施可否を判断する必要があります。

また、2024年以降は「相続時精算課税」制度が改正されて、相続時精算課税にも毎年110万円の基礎控除が導入されています。そのため、親から子への暦年贈与より相続時精算課税を選択した方が有利な場合もあります。値上がりの見込める不動産の場合は相続時精算課税のメリットも大きくなります。

(2) マンションを暦年贈与する場合の不動産の評価額の算定が難しい。

マンションの場合、マンションの建物だけ贈与しても意味がありません。マンションの場合、多くのマンションでは敷地も建物と一体化して権利化されています。これを敷地権付建物といいます。

敷地権付建物の場合、自宅建物(マンションの1室)の土地の評価額は、敷地全体の土地の評価額×敷地権割合で計算します。敷地の評価額が1億円で敷地権割合が1/20であれば、1億÷20=500万円 となります。

ところで、マンションの敷地の評価は固定資産税評価額では評価できません。敷地全体を路線価で評価します。路線価は税務当局が公表している路線価図を見ればある程度の概算は計算できますが、正式には細かい計算作業が必要になります。

「奥行価格補正」「不整形地補正」「地積規模」「区分所有補正率」など色々な考慮点があるため、相続税に詳しい税理士などに評価をしてもらう必要があります。

(3) 相続した場合の各種特例制度が使えない。

生前贈与ではなく、親が亡くなるまで待って相続した方が相続時に活用できる色々な特例制度があるため、十分な比較検討が必要となります。

例えば、相続時であれば、一定の要件を満たしていれば「小規模宅地等の特例」が活用できます。これを活用すれば土地の相続税評価額を8割減とすることができます。


( まとめ )

色々な方の不動産の登記簿を見ていると「暦年贈与」のため、不動産の持分が細かく何年にもわたって名義変更されている場合があります。登記簿をパッと見ただけでは名義人それぞれの持分が現在いくらになっているか分かりません。

そのように不動産の暦年贈与をすると登記簿の記載で各人の持分が細かく複雑になることが多くなります。

しかし、このような登記簿をよく見ますので、不動産の暦年贈与はよくやられているのだと思います。

不動産の暦年贈与は色々と考慮点がありますので司法書士や税理士などに相談して実施してください。

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