「高齢者の財産管理方法」は色々とあるようです
高齢になり身の回りのことや契約書類の管理、役所や金融機関の手続きなどが大変になり、将来に不安を感じているシニアの方が多くなっています。また、本人と同じように家族も不安に思っている場合が多いと思います。そこで、高齢者の財産管理方法としてどのようなものがあるか概観してみたいと思います。
高齢者の財産管理方法として、主なものとして5つの制度を紹介したいと思います。
(1)【法定後見 (後見・保佐・補助) 】
高齢者の財産管理方法の中心となるものです。代表的なものとして「成年後見」があります。成年後見は、世の中に段々と認知され始めています。金融機関や役所等での認知度は高まっています。
成年後見には、大きく分けると「法定後見」と「任意後見」があります。そのうち法定後見は、本人が認知症等を発症して判断能力が低下した場合に、本人や親族などの申立により、家庭裁判所が本人の能力に応じて後見人等を選任する制度です。
選任される後見人等には3種類があり、本人の能力に応じて「後見人」「保佐人」「補助人」が選任されます。判断能力の低下が著しい場合が「後見」であり、判断能力の低下が少ない場合が「補助」となります。「保佐」はその中間です。
選任された後見人等は、本人の財産管理や身上監護の事務について代理権を持ちます。本人の財産をそれぞれの定められた代理権の範囲内で管理します。3種類の後見人等のうち、後見人のことを「成年後見人」といいます。
成年後見人は、適任者であれば親族もなることができますが、選任は家庭裁判所が行うため、司法書士や弁護士、介護福祉士など専門家が選任される場合があります。一度選任されれば、本人が亡くなるまで、原則として、退任することはできません。
また、成年後見人は本人の事務手続きの代理を行う職務のため日常の介護は行いません。日常の介護は、別途、介護保険等を活用して親族又は介護施設等で行う必要があります。
(2)【任意後見】
成年後見には、既に説明した通り「法定後見」と「任意後見」があります。法定後見は本人の判断能力が低下したとき選任されるものです。そのため、選任される成年後見人は家庭裁判所の判断によって決定されます。本人や家族が気に入らなくても第三者の専門職が選任される場合があります。
専門職の後見人が選任された場合、後見事務について家庭内に第三者が入って代理事務を行うことになることから、選任された専門職との間で不協和音が生じることがあります。専門職との相性が悪くても本人が亡くなるまで成年後見は継続します。
そこで、成年後見人を長男や長女等の本人の気に入った親族などに予め定めておくことができる制度が注目されています。これが「任意後見」です。成年後見があまり普及していなかった頃は知られていなかった制度ですが、成年後見が世の中で認知されるにしたがって、任意後見も徐々に知られるようになってきました。
任意後見制度は、本人の判断能力に問題のないときに自らが選んだ者との間で「任意後見契約」を締結し、将来の生活、療養介護及び財産管理に関する事務を予め委託して代理権を付与しておく制度です。長男等の親族を受任者として契約を締結することが多いと思います。
将来、本人の判断能力が不十分となったとき長男等の受任者の申立により、家庭裁判所が後見監督人を選任したときから契約の効力が発生します。長男等の受任者が「任意後見人」となって本人の財産管理と身上監護の事務を行います。後見監督人は裁判所が選任します。任意後見人は後見監督人の監督下で後見事務を行いますが、後見人として主体的に事務を行うことができます。
家庭に親族以外の者を立ち入らせたくないと考える方が多いことから、最近は任意後見が静かに注目されています。なお、本人が亡くなるまで認知症などにならなければ、本契約は発動しません。その意味で任意後見契約は「掛け捨て保険」のようなものといわれています。
(3)【財産管理委任契約】
任意後見は、本人の判断能力が低下してから発動しますが、判断能力に問題のない前の段階でも財産管理や身上保護の事務を親族などに任せたい場合があります。例えば、病気により歩行が困難になった場合や手の震えなどで字が書けなくなる場合があります。
このような場合、身近な家族などを受任者として「財産管理委任契約」を締結しておけば、金融機関での取引などを代理してもらうことができます。(※注1) また、急な病気や入院などの場合にも医療や介護の対応ができます。財産管理委任契約も本人の希望に沿った方を受任者として契約することができます。契約の中で代理してもらう範囲などを定めておきます。
(※注1) 金融機関によっては、財産管理委任契約では代理を認めない所もあります。契約締結前に取引金融機関に確認する必要があります。
財産管理委任契約という名称が難解なため、単に「委任契約」と呼称される場合があります。なお、この契約は裁判所の関与は一切ありません。
(4)【死後事務委任】
(1)(2)の「成年後見制度」(法定後見・任意後見)や(3)の「財産管理委任契約」は、本人が存命中の財産管理を行うというものでした。「死後事務委任」契約とは、本人が亡くなった後の色々な事務手続きなどを行ってもらう契約です。
本人が亡くなった後、「葬儀の主宰」「役所への各種届出」「病院や施設の費用清算」「年金・健康保険・介護保険の手続」「クレジットカードの解約」「納骨・埋葬」など色々な事務手続が発生します。これらの手続きを実施する権限は、成年後見人や任意後見人、財産管理の受任者には基本的にはありません。
相続人がいれば、これらの手続きは相続人が実施することができますが、身近な親族のいない「お一人様」の場合は問題となります。また、相続人が存在していても、これらの事務手続きを引き継ぐ相続人が確定するまでに時間がかかる場合もあります。
このような場合に備えて、本人が存命中、信頼のおける方に自分が亡くなった後に早急に行ってほしい事務手続きを明確にして「死後事務委任契約」を締結しておきます。通常は、手続き費用や報酬などの支払方法も契約上明確にしておきます。
身寄りのない高齢者の増加に伴って、年々契約数が増加しています。受任を専門とする業者も現れており、高額報酬を前払いさせられたなどの悪徳業者へのクレームも発生しているようです。信頼のおける業者や法律の専門職に相談する必要があります。
(5)【民事信託(家族信託)】
民事信託とは、親族などを受託者として本人の財産を信託する契約です。
これまで説明した(1)(2)の成年後見や(3)の財産管理委任契約は、一定の定められた代理権の範囲内で事務手続きの代理を行うものでした。代理権の範囲は法律や締結した契約の中に定められています。行為者は、本人の代理人として、予め決められた代理権の範囲内で本人を代理して事務手続きを行います。
一方、民事信託は本人の代理人として手続を行うものではありません。
民事信託は、本人から財産の「信託」を受けます。信託とは本人に代わって財産を管理し、財産の有効活用を行うということです。そのため、不動産や預貯金などの金融資産は、本人から信託を受ける者 (受託者といいます) へ一旦「譲渡」します。譲渡といっても完全に譲渡してしまうものではなく信託として譲渡するという意味です。不動産であれば譲渡された旨の登記と同時に「信託された旨」も登記されます。金融資産等も受託者名義で譲り受けるのではなく、信託名義で譲り受けることになります。
これにより、受託者は信託された財産を自らの考えに基づいて運用し収益を上げることが可能になります。得られた収益は、契約で定められた方に与えます。税金の関係で本人に還元することが多いと思います。法定後見等の場合は、代理人としての手続行為なので、できる行為に制限があります。民事信託を活用すれば自由度が格段に向上することになります。
本人の管理する財産が賃貸住宅などの収益物件の場合は、民事信託を活用するメリットが大きくなります。賃貸物件の大規模修繕や建て替えなどの行為は、予め代理権の範囲として契約に明記されていないと代理人として実行が難しいと思います。一方このような行為でも民事信託であれば実現可能な場合があります。
もちろん、何でもかんでも受託者が実施可能というわけではなく、信託契約に定められた「信託の目的」の範囲内という制限があります。信託の目的とは、何のために信託をするかという目的です。目的の定め方次第で自由度が定まります。
例えば、本人所有の自宅を長男に信託し管理を任せる場合があります。このとき「信託の目的」を「親の安寧な生活保障」としておけば、仮に本人が認知症になって介護施設に入所する必要があった場合でも、長男が自宅を売却して売却資金を介護施設への入所費用に充てることができます。自宅から介護施設への転居も親の生活保障の範囲内と捉えることができるからです。
(まとめ)
高齢者の財産管理方法は色々なものがあります。今回の説明は概要ですので詳しい内容は、高齢者の財産管理に詳しい法律の専門家にお尋ねください。適切なアドバイスを頂けると思います。