「成年後見」制度が「終身制」の見直しなど 大きく変更される模様です
高齢者人口が増加している中で本人の判断能力が不十分になったときの法的保護制度としての「成年後見」制度が大きく見直されます。高齢者が認知症などを発症したとき活用される成年後見制度ですが、現行の制度に使いにくい点が多いため、利用ニーズが高い割には制度の活用が進んでいないからです。
政府はこのような現状を踏まえて、法務大臣の諮問機関である法制審議会で見直し検討を進めていました。今回、見直しのための「中間試案」が取りまとめられてました。パブリックコメント等の手続きを経て「要綱案」としてとりまとめ、来年(令和8年)の通常国会に民法改正案として上程される予定です。

( 現行「成年後見」制度の問題点 )
現行の成年後見制度には次のような問題点があります。
(1) 制度の利用は一生続くこと
利用動機の課題 (例えば、遺産分割) が解決しても、判断能力が回復しない限り、利用をやめることができない。例えば、認知証を発症した本人に代わって、成年後見人に遺産分割協議の代理人になってもらったとき、遺産分割協議が無事完了した後も成年後見人の職務は終了せず、本人が亡くなるまで継続する。
(2) 成年後見人の考えと本人や親族の意向と軋轢(あつれき)が生じる場合がある
成年後見人には包括的な代理権や取消権があります。成年後見には「本人の利益のため」に行動 (代理など)する責務があります。この責務を実現するため、成年後見人の考え方と本人や親族の考え方に相違が生じることがあります。そのため、意見の食い違いや感情面の対立が生じることがあります。
例えば、本人が家族旅行や孫などの入学祝に出費をしたいと考えていても、成年後見人から反対されるようなケースがあります。成年後見人としては、本人の今後の生計維持のため極力余分な出費は押さえたいとの考えから反対するのですが、本人や家族から反発されるのです。
(3) 成年後見人の交代が容易にできない
成年後見人と本人や家族との相性が悪い場合でも、選任された成年後見人の交代は通常できません。本人の状況の変化があっても容易には成年後見人の交代ができないのです。一度選任された成年後見人とは本人が亡くなるまでお付き合いする必要があるのです。

( 見直しの観点 )
後見制度には、「法定後見」制度と「任意後見」制度があります。また、法定後見制度には、「(成年)後見」「保佐」、「補助」の制度があります。成年後見は法定後見の1つです。
制度の見直しは、法定後見制度全体についてなされます。ここでは法定後見の見直しについて述べます。任意後見にも見直し点はありますが、ここでは割愛しています。
今回の法制審議会の見直しの観点は次の通りです。
(1) 法定後見の開始の要件や効果、終了等の見直し
法定後見は、「必要性」を開始の要件とした上で、開始の際に考慮した必要性がなくなれば終了することを検討する。
これにより、判断能力が回復しない限り利用をやめることができなかったものが、制度利用途中での終了ができることになります。法定後見人等の包括的な代理権等により本人の自己決定権が必要以上用に制限されることを防ぐことができるようになります。法定後見人等と家族等との感情面での対立も防ぐことができます。
(2) 成年後見人の解任(交代)についての検討
現状、成年後見人の解任事由は法定されているため、その事由が生じない限り解任されることはありませんでした。しかし、本人のニーズと成年後見人の考えが大きく異なっているような場合、本人のニーズに合った保護を受けることができない状況となっています。そこで、新たな解任事由を設けることを検討して、成年後見人の解任を実現できるようにします。

( 改正案(たたき台)の内容 )
まず、「法定後見の開始の要件や効果、終了等の見直し」について見ていきます。
(1) 法定後見の開始の要件と効果等
改正案として、下記①案、②案、③案が示されています。
①案 後見制度には、「(成年)後見」以外に、判断能力の衰えが少ない場合に利用する「保佐」や「補助」の制度があるが、(成年)後見の対象者は保佐・補助も利用できるようにする。
②案 法定後見開始の要件を「判断能力が不十分である」、「特定の事項について保護する必要がある」、「原則として、本人の同意を得ている」として、成年後見人等に本人の保護に必要な特定の事項について代理権・取消権を個別に付与する類型の法定後見を開始する。
③案 ②の類型に加えて、「判断能力を欠く常況にある」、「保護する必要がある」を要件として、成年後見人等に一定の権限 (現行の成年後見人の包括的な代理権等よりも狭い権限) を付与する類型の法定後見を開始する。
(2) 法定後見の終了
法定後見の開始において保護する必要を要件とする場合には、判断能力が回復したときでなくても、保護する必要がなくなったときに法定後見を終了する。
法定後見の開始において保護する必要を要件としない場合には、判断能力が回復したときに限って法定後見を終了する。
(3) 法定後見に関する期間
改正案として、下記①案、②案、③案が示されています。
①案 期間を設けない。
②案 家庭裁判所が法定後見を開始する期間を定め、その更新がない限り、期間満了時に法定後見が終了する。
③案 成年後見人等に家庭裁判所に対して定期的に法定後見の要件の存在について報告させることを義務付けた上で、要件がなくなったときには法定後見を終了させる。

次に、「成年後見人の解任(交代)等の検討」について見ていきます。
(1) 成年後見人等の選任
本人の意見を重視すべきであることを明確にすることを引き続き検討する。
(2) 成年後見人等の解任 (交代)
①案、②案が示されています。
①案 現行法の解任事由(不正な行為、著しい不行跡)を維持する。
②案 現行法の解任事由がない場合であっても、本人の利益のために特に必要がある場合を念頭に、新たな解任事由を設ける。
(3) 成年後見人等の職務及び義務
成年後見人等が本人の意思をを尊重することの内容 ( 例えば、本人に必要な情報を提供し、本人の意思を把握すること) を明確にすることを引き続き検討する。

(まとめ)
今回の法制審議会の中間試案をたたき台にして、来年の国会で審議が開始される見込みです。過去の例から見ても法務省が提示した中間試案をベースとした改正になることが予想されます。
今回の改正案には、成年後見人の報酬についても検討事項とされています。それによれば、家庭裁判所が本人の財産の中から相当な報酬を与えることができるとするルールは維持したまま、家庭裁判所が報酬額を判断するに当たって成年後見人等が行った事務の内容などが考慮要素であることを明確にすることも考えられています。成年後見人等の働きに応じた報酬額の支払いをより客観化するものと思われます。
今後の法案の審議内容を注目していく必要があります。