賃貸住宅を持つ高齢の親が「家族信託」を利用して「障がいのある子」の面倒を見ることはできますか

賃貸住宅を経営している高齢者に「障がいのある子」がいる場合があります。親が元気なうちは賃貸住宅を経営して障害のある子の面倒を見ることができます。しかし、年齢を重ねれば、それも段々と難しくなっていきます。認知症になれば賃貸住宅の経営も覚束(おぼつか)なくなります。


障がいのある子以外に子があれば、その子に賃貸住宅の経営や障害のある子の面倒を託すことができます。例えば、高齢の親が賃貸アパートを保有しており、年金と賃料収入で生活しているとします。高齢の親には障害のある長男がいて同居しています。また、その親には結婚して独立している長女がいるとします。

このような状況で、親がまだ元気なうちは賃貸アパートの経営や長男の面倒は親が行い、将来、親が病気や怪我、認知症の発症などでこれらのことを行うことができなくなった場合に備えて対策を検討しておくことが必要になります。


(「任意後見」制度を利用して対応する )

親が元気なうちに信頼のおける親族などと「任意後見契約」を締結して対応する方法があります。将来、親が認知症などになり賃貸アパートの経営や同居する長男の面倒を見れなくなることに備えて、親と長女が任意後見契約を締結して、親の保有する賃貸アパートなどの財産の管理と障害のある長男の面倒を長女に任せるのです。長女は親の代理人として行うのです。

但し、任意後見契約は契約を締結して直ぐに効力が発生する契約ではなく、将来、親が認知症などを発症して意思表示が困難になったときに初めて契約の効力が発生します。親が認知症などになったとき、予め契約で定めておいた長女が「任意後見人」となり、任意後見契約に定められた親の財産管理や身上監護を行います。親の財産管理として、賃貸アパートの経営や長男への経済的なサポートを行います。親が元気なうちは親が自ら賃貸アパートの経営や長男の面倒を行います。

このように任意後見契約を使用して障がいのある子のサポートを行うことができます。しかし、任意後見契約は親が存命中しか効力がありません。親が亡くなれば任意後見契約は終了します。親亡き後の長男のサポートには使用することができません。

徘徊する認知症の人


(「生前贈与」を利用して対応する )

親が元気なうちに親の保有する賃貸アパートなどの財産を長女に「生前贈与」して対応する方法があります。賃貸アパートの登記名義を長女に移して長女がアパート経営を行うのです。得られた賃料収入などを活用して親や長男の生活をサポートするのです。

この場合の贈与契約は単純な贈与契約とする方法以外に「負担付贈与契約」とすることも考えられます。長女が障がいのある長男の面倒を見るという負担を付けた贈与契約です。長男の面倒を見なければ贈与契約を取消すことができます。

このように生前贈与を使用して障がいのある子のサポートを行うことはできます。しかし、生前贈与契約には「贈与税」の負担が発生します。贈与税は税率が高いため、賃貸アパートを贈与すれば税負担が大きくなります。また、得られた賃料収入は長女の所得となりますので、安易に親や長男に与えると金額によっては「贈与」とみなされる恐れもあります。


(「家族信託」を使用して対応する )

任意後見契約や生前贈与の欠点を補う方法として「家族信託」の利用があります。親が元気なうちに親と長女の間で「家族信託契約」を締結して、親の財産を長女に「信託」して管理運用を任せるものです。

「信託」とは「信じて託する」ことです。親の財産の名義を長女に移転して、長女が財産の管理者(「受託者」と言います)として財産管理を行います。財産管理の方法は、家族信託契約の中で定めます。この中で賃貸アパートの経営や得られた収入の使用方法について決めておきます。

例えば、賃貸アパートの管理は長女を名義人として不動産管理会社と管理契約を締結し、得られた不動産収益は、親が存命中は親に引渡し、親が亡くなった後は長男の生活のサポートに使用できるようにしておきます。

管理運用を任された長女に万一のことを想定して長女の子供などを予備の管理者として予め契約上指定することもできます。これによって親の存命中から亡くなった後まで障がいのある長男の面倒を見ることができます。

このように家族信託を活用すれば、親の亡くなった後まで障がいのある子の面倒を見続けることが可能になります。また、生前贈与のように「贈与税」の負担は発生しません。家族信託は不動産の名義は長女に移転しますが、あくまで「信託」として移転するものですから完全に長女のものになった訳ではありません。そのため賃料収入などを親が取得する扱いにしておけば贈与税の負担は発生しません。

また、家族信託は「遺言書」の代用にもなります。長男が亡くなった時点を家族信託契約の終了事由としておけば、その時点で残った財産の承継先を定めておくことができます。例えば、最後まで長男の面倒を見た長女や長女が亡くなっていた場合はその子供などを財産の承継 (相続) 先とすることができます。

笑顔の高齢者


(まとめ)

障がいのある子を持つ親に一定の財産と信頼のおける親族がある場合は、家族信託を活用して子の将来の生活の安定を図ることができます。家族信託は家族毎に契約内容を変えることができますので家族の実情に合わせて色々な対応が可能となります。

なお、信託銀行にも一定の財産 (金銭) を信託銀行に預ければ、定期的に障がい者のために生活費用が振り込まれるサービスがあります。この場合は、障がい者のために「成年後見人」を選任するなど財産管理や身上監護の代理人が必要になる場合があります。尚、賃貸アパートなどの金銭以外の財産を銀行に信託することはできませんので注意が必要です。信託銀行に支払う報酬 (手数料) も発生しますので、利用にあたっては銀行から十分な説明を受ける必要があります。

これ以外にも色々な対応方法はあると思いますが「家族信託」は有力な方法の1つです。興味のある方は弁護士や司法書士などの専門家に相談下さい。

 

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