「家族信託」で「残余財産受益者」や「帰属権利者」など分かりにくい用語があるのですがどうしたら良いですか
家族信託を組成するとき色々な法律用語が登場します。基本となる用語は、「委託者」「受託者」「受益者」「信託財産」「信託の目的」です。これらは感覚的に理解できると思います。「委託者」とは財産を現在所有している人です。その財産の管理や運用を任せる相手が「受託者」です。そして、管理運用を委託する財産のことを「信託財産」といいます。何のために信託をするのかという目的や狙いを「信託の目的」といいます。例えば、「親の財産管理の負担を軽減する」とか「親が従来と変わらぬ生活を送れるようにする」などです。

家族信託では、受託者が信託財産を管理・運用して収益を上げた場合、受益者に還元します。

ところで、家族信託を組成するには、これ以外にも色々な法律用語が出てきます。法律用語の法的な詳しい内容は家族信託を組成する専門家に任せておけば良いのですが、最低限の事柄については、家族信託の当事者となる方も理解しておく必要があります。家族信託契約は全てを専門家に一任すべき事柄ではなく、契約の当事者として契約内容について理解しておく必要があるからです。
今回は、法律用語の意味内容が読んで理解できるものを除いて、特に分かりにくい信託の用語について見ていきたいと思います。

(「信託行為」とは )
家族信託を組成する場合、「信託行為」という用語が登場します。これは分かりにくい用語だと思います。民事の世界では当事者の意思に基づいて契約などの行為を行います。これを「法律行為」といいます。法律行為とは、当事者の意思表示に基づいて法律上の効果を発生させる行為です。契約などが代表例となります。
今回問題となる「信託行為」とは、信託を設定するための法律行為ということになります。どのような方法によって信託を組成するかということです。具体的には、「契約」によって信託を組成するのか「遺言書」によって信託を組成するか等ということです。
つまり、信託行為とは、どのような方式で信託を行うかということです。通常は「信託契約書」を作成して行うことが多いと思います。「信託行為として定めておかなければならない」とは、信託契約書に書いておかなければならないという意味です。

( 信託財産の「分別管理」とは )
信託財産の管理運用を任された受託者は、信託財産と自分の財産を一緒にして管理をしては、どれが自分の財産でどれが信託財産か分からなくなる恐れがあります。また、わざと分からなくして管理財産の横領を働くかもしれません。
そこで、信託をする場合は、受託者は信託財産と自分の財産を明確に区別して分かるようにしなければなりません。これを信託財産の「分別管理」といいます。具体的には、預金などについては「信託口の口座」を新たに作成して管理する必要があります。不動産については「信託の登記」を入れて登記簿を見れば信託財産であることが分かるようにします。

( 受託者の「善管注意義務」とは )
信託に限らず世の中でよく使われる用語です。正確には「善良な管理者の注意義務」です。受託者が事務などの管理を行う場合には、当該職業又は地位にある人として通常要求される程度の注意義務ということです。
これと対比される用語として「自己のためにするのと同一の注意をなす義務」があります。自分の財産などについて通常払っている程度の注意義務ということです。通常は、善管注意義務よりも管理のレベルが緩いことになります。
家族信託では、例えば父親の財産を息子が受託者として信託を受ける場合、受託者としての息子は信託財産について善管注意義務を負うことになります。親子といえども法律的には他人ですので受託した財産の管理については、他人の財産の管理という意味で重い管理責任が、原則として、発生します。

( 「受益権」とは )
家族信託では、原則として、受益権が発生します。「受益権」とは、家族信託によって受益者が受け取ることのできる権利のことです。受託者が信託財産の管理・運用によって得られた利益は、受託者が受け取ることはできません。受託者は、信託契約の定めに従って、受益者に得られた利益を還元する必要があるのです。
例えば、父親名義の不動産を息子に信託した場合で、信託契約でその不動産を第三者に賃貸して運用すると定められていれば、賃料収入は管理費用を控除して受益者である父親に還元する必要があります。信託契約の定めが不動産を売却することであれば、売却金から売却手数料などを控除して残金を父親に渡すことになります。
このように受益者である父親が信託財産から利益を受けることができる権利のことを受益権といいます。信託契約の中で何が受益権であるか定めておきます。
なお、信託契約では委託者と受益者が同一人物でも良いことになっています。そのため、通常は、委託者は受益者を兼ねる形が多いことになります。

(「受益者代理人」「信託監督人」「信託管理人」の違いは )
信託契約の中で紛らわしいものとして、「受益者代理人」、「信託監督人」、「信託管理人」があります。これらの人々は、受益者を保護するために受託者の職務執行を監督することが主な役割とされています。但し、違いがありますので注意が必要です。
家族信託は受託者が信託財産を信託契約に定められた約束に従って自己の判断で管理・運用します。しかし、信託契約に定められた約束に従わず受託者が勝手に管理運用し、得られた利益を自分のものとされては困ることになります。
そのため、受益者には受託者の信託運用をチェックできる法律上の権限があります。しかし、受益者が認知症の場合や年齢が幼い場合などについては、自ら適正に権限を行使することができません。そのため、第三者であるこれらの者が受益者に代わって受託者を牽制することになります。
「受益者代理人」は、特定の受益者の代理人となって、信託事務を確認して受託者を監督します。受益者を代理して受益者に法律上与えられている全ての権能を行使することができます。問題があれば受託者に対して是正や賠償を請求することになります。
「信託監督人」は、特定の受益者に代わって、信託監督人として信託事務を確認して受託者を監督します。受益者代理人が代理人として行うのに対して、信託監督人は自己の名をもって、つまり、信託監督人として行動します。また、受益者代理人が受益者の持つ全ての権能を行使できるのに対して、信託監督人は信託事務の監督に関する事柄についてのみ確認し監督することができます。信託監督人の方が行使できる権限が少ないということです。なお、信託監督人は1人の受益者のみならず複数の受益者のためにも設定することができます。この点も違いになります。
「信託管理人」は、信託監督人と権能はほぼ同じですが、将来の受益者の保護を図るものです。つまり、受益者不在の信託の適正管理を行う目的で配置します。家族信託の中には、受益者が現在は存在しないが将来存在する可能性のある場合があります。例えば、将来生まれてくる子供を受益者にした場合です。このような場合に受益者の利益を守るために必要な場合に設置します。

( 「残余財産受益者」と「帰属権利者」の違いは )
信託契約が終了して信託財産が残った場合、その財産の最終的な取得者の定めです。信託契約が継続中は、信託契約の定めに従って、得られた利益は受益者が享受します。そして、信託契約で定められた「信託の終了事由」が発生すれば信託は終了します。
信託の終了事由として、終了期日が定められていれば期日の経過により信託は終了します。信託が終了すれば、受託者が信託財産の清算人となって信託財産の清算を行います。清算とは、信託財産に債務が残っていれば債権者に支払い、権利が残っていれば行使します。その結果、信託財産に残余財産が残っていれば、これを権利者に引き渡して信託は終了します。
このような期間満了によって信託が終了した場合などは受益者が存在することが普通だと思います。このとき、信託契約書の定めで、受益者が残余の財産を取得すると定めてあれば受益者が残余財産を取得します。これが、「残余財産受益者」の定めです。

ところで、一般的な家族信託の終了事由としては、上記のような期間満了のケースは稀だと思います。通常は受益者などの死亡を終了事由とするものが多くなっています。つまり、受益者が亡くなったら信託は終了するとするものです。
そうすると、残余財産受益者の定めでは、信託終了時において受益者が亡くなっていますので不在ということになります。そこで、信託契約書に残余財産が残っていた場合の取得先として「帰属権利者」を定めておくことになります。
このように残余財産を取得する者を指定することができるため、家族信託は「遺言書の代用」にもなると言われています。
これ以外にも難しい言葉はありますが、家族信託を組成する専門家に確認してください。

( まとめ )
家族信託は、高齢者の持つ財産の認知症対策として脚光を浴び広く世間に知れ渡ることになりました。しかし、遺言書のように比較的簡単に作成できるものではありません。
家族信託の組成には高度の専門的な知識が必要になります。信託組成後の運用も長期間に及ぶため、しっかりとした信託の設計をしないと運用を開始した後になって色々なトラブルに見舞われることになります。そのため、信託の組成には専門家の選択が重要になってきます。また、信託契約をする当事者としても信託契約の中身について一定の理解が必要になります。
家族信託組成で理解しなければならない法律用語は色々ありますので、しっかりと理解したうえで契約内容を十分確認して契約してもらいたいと思います。