1.供託利用の特例による弁済供託(不動産登記法70条3項後段)とは

休眠担保権の抹消は、多くの場合この手続きを活用して抹消登記をすることを指します。抵当権者が個人の場合の抹消手段は、この方式がメインとなります。(但し、抹消手段は説明しました通り他にもありますので、条件が揃うのであれば、他の手段でも勿論OKです。)

この方式は、現在の不動産の所有者が、不動産に設定されている休眠抵当権を単独で、裁判手続によることなく抹消するための方法です。条件としては、次の要件が揃っていることが必要です。

(供託利用の特例による弁済供託の要件)

抵当権者が所在不明であること
債権の弁済期から20年以上経っていること
債権全額(元本、利息、遅延損害金の全て)を弁済供託していること

①の「所在不明」については、厳密には証明が色々と難しいと思います。本人が亡くなっていた場合は、その相続人が本人に代わる者となります。但し、登記実務上は、先例によって「抵当権者の行方の知れないことを証する書面」について、現実的な証明方法が示されています。

②の「債権の弁済期から20年以上経っていること」については、休眠担保権の場合、多くの場合20年越えとなっていますので問題はないと思います。問題は、「弁済期」がいつかということです。この点についての証明は、閉鎖登記簿などの調査を行って弁済期を見極める必要があります。

③の債権全額の弁済は、元本全額と利息全額、それに弁済期の翌日から現在までの遅延損害金(いわゆる延滞利息のことです。)の全額を供託所に供託します。(これを「弁済供託」と言います。) 休眠担保権の場合、弁済期の翌日から現時点まで100年越えのケースもありますので金額が心配になりますが、元本が数百円程度の為、100年分の延滞利息も計算すると微々たるものとなります。

問題は、支払う金額ではなく、債権全額がいくらになるかという供託金の計算方法です。当時の利息の計算方法や元本の弁済方法など色々なバリエーションがありますので、計算も大変なものとなる場合があります。1円でも相違すれば、供託申請は却下されます。但し、計算ソフトもありますし、事前に供託所に相談して、計算結果を確認してもらうこともできますので対応は可能であると思います。

 

※上記説明図は、代理人として行うことを前提にしています。(委任状を取得しています。)

2.公示催告による訴訟とは

所在不明の抵当権者に対して「供託利用の特例による弁済供託手続」を利用したいのだけれど、弁済期から20年経っていない場合や債権金額を計算したら高額になってしまい供託できない場合等に活用することとなります

債権金額は、明治・大正・昭和初期であれば、数百円から数千円程度で済みますが、昭和でも太平洋戦争前あたりになりますと結構高額となってしまいます。

従って、この場合は最後の手段として、裁判によることとなります。但し相手方がいませんので特別な手続をとる必要があります。通常裁判は、相手方(被告)に対して訴状を送付(これを「送達」といいます。) して、裁判が開始されたことを相手方に知らしめる必要があります。しかし、相手の所在が不明の場合は、訴状を送達することが出来ません。

その為の便法として「公示催告による送達」手段を利用します。公示催告とは、裁判所の掲示板に被告に対して訴えがなされたことを掲示する制度です。被告がそれを見ることは、ほぼ100%期待できませんが、見たことにして裁判を開始する制度です。そういう意味で便法です。

実際の適用を裁判所にお願いする場合、被告が所在不明であることの証明を求められます。結構、この証明が大変なこととなります。調査報告書を提出することとなると思います。

公示催告が認められれば、後は普通の民事裁判となります。但し、被告は不在ですから、いわゆる「欠席裁判」によって原告は簡単に勝利できるという訳には参りません。公示催告による裁判の場合は、原告側で、原告の主張する事項(請求原因事実)は全て証拠によって立証する必要があります

つまり、被告の抵当権の債権は消滅したことを原告側で証明することが必要になります。証明がされれれば、数回の口頭弁論で結審となり、原告勝訴判決が出ます。

債権が消滅したことは、弁済の事実は立証が難しいので、普通は「消滅時効の援用」という形で行います。債権は10年で時効にかかります。(抵当権などの物権は20年で時効になります。)このことを利用して債権の消滅を主張・立証します。

但し、手続が民事訴訟になりますのでご自身で行われることは、結構ハードルが高いと思います。弁護士に依頼するか、ご自分で遂行したい場合は、司法書士に訴状などの作成を依頼する方が良いと思います

 

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