1.抵当権者が個人か法人か

休眠担保権は、抵当権の場合が多いと思いますので、休眠抵当権としてお話します。まず、抵当権者(担保権の権利者)が個人の場合と法人の場合を分けて考えた方が良いと思います。

抹消する法的手段は、どちらも変わりはないのですが、個人の場合は抵当権者(担保の権利者)が多くの場合「所在不明 (簡単に言えば、行方不明)」になっています。この所在不明」というキーワードが、抵当権の抹消手続について重要になってきます。

一方、法人の場合は、「所在不明」のケースは多くはないと思います。法人の場合、個人と違って住所の概念は、本店所在地になります。法人の本店所在地は、商業登記簿上に記載されている本店所在地にあることになります

法人の商業登記簿を調査し、商業登記簿が取得できれば、法人の実体がたとえなくなっていたとしても「所在不明」とはなりません。大抵の法人は、商業登記簿や閉鎖登記簿を調査すれば、登記事項を取得することが出来ます。多くの場合、解散や清算結了済みとなっている場合もあると思いますが、現在も登記簿上は継続している法人となっている場合もあります。

従って、個人の場合は所在不明(行方不明)を前提とした抹消手続が中心となります。一方、法人の場合は、所在不明ではないことを前提とした抹消手続が中心となります。

なお、休眠抵当権の抵当権者は、個人の場合が多くなっています。農村部では法人も登場しますが、明治、大正期の金融は個人による金融が多く行われており、個人が抵当権を設定していました。現在の様な銀行による融資で個人の不動産を担保にとって行うことは、当時はあまり多く行われていませんでした。

 

2.休眠抵当権の抹消手段

休眠抵当権を抹消する法的手段(手続)は、色々あります。具体的には、次のとおりです。

(抵当権者が判明していれば)
①抵当権者と共同して抵当権抹消登記を申請する。(これを「共同申請」方式といいます。)

②抵当権者が抹消登記に協力してくれない場合は、抵当権者を被告として裁判に訴えます。(これを「抵当権者を訴える訴訟」といいます。)

(抵当権者が所在不明であれば)
③抵当権の借金について債務を弁済したことを証明できるもの(例.弁済証書)がある場合、これを使用して抵当権の抹消登記を債権者の協力を受けることなく、債務者が単独で行う。(これを「弁済証書による抹消登記」不動産登記法70条3項前段 といいます。)

④ ③の場合で弁済証書はないが、それ以外の証拠があり債務が消滅したことが証明できる場合は、訴訟手続ではありませんが、非訟事件手続を利用して債務者が抵当権の抹消を請求する。(これを「除権決定による抹消」不動産登記法70条1項2項といいます。)

⑤債権弁済の証拠書類がない場合で弁済期から20年以上たっている場合は、借金の全額(全ての債務)を現時点で弁済することにより、特例措置として、抵当権を債務者が単独で抹消登記申請することができる手続を活用する。(これを「供託利用の特例による弁済供託」不動産登記法70条3項後段といいます。)

⑥弁済期から20年以上経っていない場合や債務の全額を弁済できない場合は、所在不明の抵当権者を被告として抵当権の抹消請求訴訟を起こします。(これを「公示催告による訴訟」といいます。)

3.各手続の評価

上記2.で休眠抵当権の抹消方法について説明しましたが、現実問題として活用できる手段は事案ごとに見ると多くはありません。まず、抵当権者の所在が判明していることを前提とした①の「共同申請方式」や②の「抵当権者を訴える訴訟」は、抵当権者が個人の場合、多くの場合は使用できません。この方式は、抵当権者が法人の場合に適用できる方式となります。

抵当権者が所在不明の時に利用できる③「弁済証書による抹消登記」や④「除権決定による抹消」手続も多くの場合使用できません。理由は、そんな証拠書類が揃わないからです。

先代や先々代の作った借金についての弁済の記録は、多くの場合、全く残っていません。

結局、抵当権者が個人の場合、使用できる手段は、⑤「供託利用の特例による弁済供託」と⑥「公示催告による訴訟」ということになります。

 

 

休眠担保権の抹消業務(1) -目次-に戻る