成年後見制度を利用する場面

多くの方は、成年後見制度について、まったく知らない或いは名前くらいは聞いたことがある程度の認識だと思います。例えば、高齢の両親について、少し判断力が衰えてきたとしても、年のせいだろう位に考えてあまり気にしない方もおられると思います。また、介護保険の適用申請等の局面で医師の診断が必要な場合があったりして、要介護認定という事を意識する場合があるかもしれません。

しかし、法律的な行為が絡んでくる局面では、本人の判断能力というものは非常に重要な事柄になってきます

父親が亡くなったので土地建物他の遺産分割をしようと思った時、相続人である母親の判断能力に疑問がある場合どうするのでしょうか。遺産分割協議書は、相続人が作成して各人が署名捺印(実印)をします。判断能力の疑わしい母親は署名捺印できるのでしょうか。

父親が認知症になったので、しかるべき施設に入所させたい。ついては、父親名義の土地があるのでこれを売って入所費用に充てたい。と思われる方が多いと思いますが、この土地は売ることが出来るでしょうか。

上記例のいずれもできないと言わざるを得ません。両親の持ち物であるが、自分は子であるのだから、両親の為になる使い道ならば、財産の処分をしても良いのではないか。と思っている方もいると思います。

また、遺産分割協議書には、母親名義の署名を(勝手に)して、母の実印の所在も知っているので持ち出して、押しておけば良いのではないかと考える人もいるかもしれません。しかし、これは立派な犯罪行為になります。いわゆる、私文書偽造罪という軽くない罪になります。

摘発されれば、当然、処罰されますし、併せて「相続人」としての地位を失いかねません。

法律的には、判断能力が失われている方の法律的な行為は、効力を生じません。また、その方に成りすまして勝手に行っても当然無効です。

ということで、実は、私たちの身の回りで「判断能力の低下した方の法律的な行為をどのように行うのか。」が大きな問題となってきています。自分にはあまり関係ないと考えている方も将来この問題に多くの場合遭遇すると思います。そして、この問題の解決のための法制度が成年後見制度なのです。

成年後見の申立てから審判・登録までの流れ

両親などが認知症になり判断能力が低下した場合に、法律的な行為をする必要が生じた場合は、4親等内の親族などの方は家庭裁判所に成年後見人の選任申し立てをして、成年後見人を選任してもらう必要があります。選任された成年後見人が本人に代わって必要な法律的な行為を行います。

成年後見人利用時の注意点

成年後見制度についてある程度知っている方でも誤解されている事柄もがありますので、念の為に注意点を記載します

まず注意して頂きたいのは、成年後見人は、選任されたら、原則として、ご本人が亡くなるまでその職を辞めることが出来ません。また、成年後見人は、親族の方もなることが出来ますが、候補者の選択権は家庭裁判所にあります。申立書に選任候補者として親族を推薦してもその通り指名されるとは限りません。裁判所の判断として、専門職(司法書士や弁護士等)の指名をするケースが非常に増えています。最近の統計資料によると29%程度しか親族後見が認められていません。70%程度は裁判所の候補者名簿に登載されている司法書士や弁護士が選任されています。専門家を選任した場合、報酬の支払いが発生します。(特別の処理がない場合、月2〰3万円必要になります。)

また、成年後見人の家庭裁判所への選任申し立てについても、10万円程度の費用が必要になります。(但し、本人の鑑定の有無によって金額は上下します。)また、申立書の作成を司法書士等に依頼すれば、別途、報酬が必要になります。

さらに、選任された専門家である成年後見人は、本人の代理人ですので法律的な行為をする場合、親族の意向に沿えない場合があります。成年後見人は、あくまで本人の利益を最重要として判断しますので、親族の方と意見の対立が生じる場合があります。例えば、先ほどの設例の場合で、母親の成年後見人として選任された専門家は、遺産分割協議の内容として母親の取分は法定相続分である二分の一以下では判を押しません。他の家族が色々と言っても駄目な場合が通常です。

次の項目へ(初回報告から日常の事務)

※ご相談は、名古屋市瑞穂区の村瀨司法書士事務所にお任せください。