終活「老後生活を快適に過ごすための法的手段いろいろ」

終活」をお考えの方は多いかと思います。多くの方は終活として、エンディングノート等を活用して、自分自身の過去を振り返り、自分自身がこれまでどのように生きてきたのか再確認されると思います。また、現在の財産関係を整理・確認し、これをどのようにするかについて自身の思いを整理されることと思います。さらに、資産承継をお考えの方は、円滑で争いのない相続についても検討されることと思います。

このような検討は大変有意義で大切なことですが、「終活」で忘れてはならないことは、「残された時間、自分自身の老後の生活をいかに快適に過ごすのか。」ということです。この点で重要になることは、①「必要な生活資金の手当」と、②「ご自身の老化への対応」ということです。

①の「必要な生活資金の手当」は、希望する生活水準と年金額、貯蓄残高等から計算することによって、ある程度見通すことが出来ます。資金が不足することが予想される場合は、継続雇用の検討や生活水準の見直し等を検討することになります。

見落とされ易いのが、②の「老化への対応」です。老後生活を快適に過ごしたいと誰しも願ってはいますが、人はいつまでも体力や判断能力が若いころと同じであることは出来ません。老化に伴う体力や気力の衰えは、甘受しなければならない宿命だと思います。

まだまた元気で判断能力に何ら問題ないと思っていても、転倒などにより車椅子生活や寝たきり状態になるかもしれません。脳梗塞の発症により、手が不自由となり文字が書けなくなるかもしれません。このような状態になると判断能力は確かでも銀行での預貯金の払出ですら自分1人では難しい状況となります。

さらに、体力に自信があったとしても、突然、認知症を発症するかもしれません。認知症の発症メカニズムはまだ十分に分かっていないのが現実です。認知症の発症により判断能力が不十分となった場合は、日常生活に必要なことが1人では出来なくなります。特に「預貯金の払出し、クレジットカードでの買物、病院の受診、介護サービスの申込み」等の簡単な契約行為から「介護施設に入る為の自宅の売却」等の重要な契約行為に至るまでご自身では出来なくなります。

この「ご自身の老化」への対応を解決して、初めてこれからの老後生活を安心して生活することが出来るようになります。

「老化への対応」を解決して老後生活を快適に過ごすための法的手段いろいろ

ご自身の老後について不安を感じていない方や万一の時はご家族が手厚く対応して下さる方は、対応方法の検討は必要ないかもしれません。しかし、少しでも不安のある方や心配に思って悩まれている方は、対応方法について是非ご検討されることをお勧めします。

さて、老後を安心して暮らすために準備された法的手段は色々あります。ここでは、終活の中で是非ご検討願いたい法律的な問題解決の方法をご紹介します。一般的に生前から死後に至るまでの終活上の諸問題を解決する法的有手段としては次のものがあります。

① 公正証書による「遺言」

公正証書により遺言書を作成します。ご本人の遺産の処分方法をご自身の意思に従って決定することが出来ます。 公正証書によって作成することにより、間違いがなく安全確実に最終のご意思を実現することが出来ます。

自筆証書による遺言でも結構ですが、遺言内容が法律的に無効となるリスクがありますので、法律事務の専門家に遺言内容の確認を依頼されることをお勧めします。

② 財産管理等「委任契約」

ご自身の判断能力に問題はないが、病気や怪我などにより、車椅子生活や寝たきり状態、あるいは手が不自由で文字が書けない場合、預貯金の払戻しや印鑑証明書・戸籍謄本の取得など色々な事務が困難になります。このような場合に、家族や信頼できる人に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与えて代わりに実施してもらう為の契約です。

ご自身とご家族など代理をして頂ける方との間で委任契約を結びます。金融機関や役所との事務処理が円滑に行えるように、契約は、通常、公正証書にて行います。また、金融機関等からの要望に応じて、次にご説明する「任意後見契約」と併せて締結することが普通です。

代理の為の委任契約ですので、ご本人の行為能力に影響はありません。ご本人がご自身で行うことが出来る場合は、ご自身でもこれらの行為を行うことが出来ます。

ご家族を受任者とした場合、受任者としての報酬を無報酬にすることができます。法律の専門家を受任者とすれば、一定の報酬の支払が発生します。

③「任意後見契約」

認知症等になる前の判断能力があるうちに、将来に備える契約です。認知症や重度の疾患等によって判断能力が不十分な状態になった場合、あらかじめ自らが選んだ代理人(「任意後見人受任者」といいます。)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与え、本人に代わって実施してもらう契約です。公正証書にて作成します。

成年後見制度の一つです。成年後見制度には、任意後見と法定後見があります。任意後見は本人の判断能力がある状態で将来に備えて締結する為の後見制度です。一方、法定後見は認知症などになった後、親族などからの申立により成年後見人が家庭裁判所から選任されて開始されるものです。

任意後見は、契約締結後、本人の判断能力が低下した時、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、その任意後見監督人のもとで、任意後見人が、任意後見契約で定めた事務について本人を代理して契約行為を行います。これにより、ご本人の適切な保護・支援をすることができます。

家庭裁判所への申立は、ご本人の判断能力が低下した時点で任意後見受任者が行います。これにより、任意後見は開始されます。任意後見契約を締結しただけでは、まだ効力が発効していない予約状態と考えることが出来ます。

本人の認知能力に問題が生じない限り任意後見契約は発効しません。任意後見契約が発効されないまま一生を終えられる方も多くおられます

④「見守り契約」

受任された方が、ご本人の判断能力の有無を定期的に確認し、認知症と判断された場合は、家庭裁判所に対して任意後見の開始手続を促すための契約です。公正証書で作成します。ご家族などご本人の健康状態などを管理できる方がいない時、専門家に支援を依頼する方法によって利用されます。

任意後見が始まるまでの間に、支援する人が定期的に本人と電話連絡を取り、併せて、本人の自宅を訪問して面談すること等により、支援する人が本人の健康状態や生活状況を確認することによって、任意後見をスタートさせる時期を判断するための契約です。通常、③の任意後見契約と同時に締結します。

⑤「死後事務委任契約」

ご本人が生前の元気のうちに親族やご友人の方などに対して、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等に関する代理権を付与して、死後事務を行ってもらう契約です。公正証書にて作成します。
具体的には、医療費の支払い、家賃・地代・管理費等の支払い、老人ホーム等の施設利用料の支払い、入居一時金等の受領、通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務、永代供養に関する事務、行政官庁等への諸届け事務等があります。行ってもらいたい死後事務を契約上でご本人が定めます。

⑥「尊厳死宣言」

尊厳死とは、回復の見込みがない病におかされ、長期間にわたって植物状態が続くなどの場合に、生命維持装置などによる人為的な延命措置を拒み、人間として尊厳を保った自然な死を迎えることをいいます。

ご本人が元気のうちや病気療養中でもご本人が意思を明確にすることが出来る時までに、終末の医療方法の選択をご自身の判断で指定するものです。通常は、ご家族の同意も併せて記載します。公正証書で作成します。

⑦「法定後見(成年後見)」

すでに判断能力が衰えている方のために、「家庭裁判所」が適切な支援者を選ぶ制度です。選ばれた支援者は、本人の希望を尊重しながら、財産管理や身の回りのお手伝いをします。

③の任意後見契約は、ご本人が元気なうちにご自身の判断で支援者と支援事項を決めて契約を締結するものですが、法定後見はご本人の判断能力が低下した時に親族などからの申立により、家庭裁判所が後見人を選定するものです。

本人の判断能力に応じて、後見人のタイプは3つに分けられます。判断能力の低下度合いに応じて、「補助」、「保佐」、「後見」となり、後見が判断能力が最も低下した場合です。

法定後見制度は、判断能力がすでに低下している方の制度ですので、契約書を交わすことはなく、家庭裁判所に後見人等の選任を申し立て、家庭裁判所から選任された者が法定後見人として支援することになります。

支援事項は法令で定められていますので、ご本人やご家族の希望通りとはならない場合があります。専門職後見人の場合、報酬の支払が発生します。

⑧「家族信託」

家族信託とはある目的の為に財産を身近な親族などに信託し財産管理を任せる契約です。信託契約の定め方により、生前の財産管理から死後の資産承継に至るまで幅広く応用が可能な制度です。オーダーメイド的に信託設計することにより色々なご希望への対応が可能となる仕組みです。

メニューはたくさん用意されていますので、是非、色々と研究をなされて有効活用して頂きたいと思います。

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