遺言件数がこの10年で1.5倍に増えています。

「公正証書遺言」の作成件数が、2007年から2017年までの10年間で1.5倍に増えたとのことです。2017年に全国の公証人が作成した公正証書遺言の件数は、11万件を超えており、増加傾向にあります。

公正証書によることなく自身で作成する「自筆証書遺言」の件数も同様に増加しています。こちらは、作成件数の正確な統計はありませんが、自筆証書遺言は、遺言者が亡くなった後に家庭裁判所で「検認」という手続を実施する必要があることから、検認の統計数字は確認することが出来ます。検認手続件数から見た増加件数は、1.3倍となっています。件数では、1万7千件以上となっています。

遺産相続を巡る相続人間の揉め事の増加にともない「終活」の一環として遺言書を作成するシニアの方々が増えているということです。自分が亡くなった後に必ず問題になる事柄について、事前に対処しておこうと考える方が多くなっているということだと思います。

 

誰でも自分の亡くなった後のことは、あまり考えたくはありません。家族の方も相続の話をすることは、はばかられる面があります。戦前は、封建的な「家制度」があり、長男による「家督相続」が原則でしたから、もめる余地はあまりありませんでした。

戦後、民法の民主的な改正により、家督相続制度は廃止され、長男による単独相続の考え方は、法制度の上からは削除されました。しかし、長らく続いてきた相続における「家制度」を中心とした考え方は、簡単には人々の行動を変えることはできなかったと思います。

戦後、昭和時代を通して、「相続は長男が継ぐものである。」という考え方が長らく続いていたと思います。勿論、いち早く民主的な考え方を理解して、現在の民法の考え方に沿って相続手続をされた家族もあるとは思いますが、大多数の方々の発想としては、「家制度」に引きずられていたと思います。

戦後の民主的な教育が長く続き、平成の時代に入ると若い方々の発想には、古い「家制度」の考え方は殆んど見られない状況になっています。男女平等の考え方は、疑う余地のない普遍的な価値観となっています。「家制度」とはそもそも何かを知らない若い世代の方も多くなっています。

このような状況の中で、「70~80代以上の高齢者世代」と「65歳前後の団塊の世代」、「40歳以下の若い世代」とでは、相続に対する認識の差があるように思います。高齢者世代は、頭では民主的な考え方は理解しているものの、自分の相続問題になると古い考え方がベースとなる場合があります。団塊世代は、自分の親世代の古い考え方も理解できるし、戦後の民主的な考え方にも共感できる世代です。これに対して若い世代は、古い考え方は全く理解できない世代です。

このような世代間の認識のギャップが前提として存在する為、いざ相続問題が発生すると争いが生じやすくなっていると思います。相続税が改正され、厳しく税金が取られるようになったから、相続問題が多くなっている訳ではないと思います。

高齢者で亡くなられる方は、古い相続制度を前提に考え、長男・長女が全体をうまくまとめて相続問題をやってくれると思っています。しかし、相続する若い世代は、現在の民法の相続分の考え方に基づいて「権利のあるものは貰わなければならない。」という発想を行います。

中間に位置づけられる、団塊の世代の方は、長男が相続するのも心情的に共感できるし、相続人が平等に分配する民法の考え方も理解できます。

平成の時代から新しい元号に間もなく代わりますが、相続問題の紛争は、この世代間の認識のギャップがある限り、中々簡単には解決できない問題だと思います。その意味で、これから暫くは相続問題をめぐる争いは益々増えていく傾向にあると思います。

最近のシニア世代による遺言書の作成件数の増加は、これらのことを直接感じているかどうかは分かりませんが、このまま何もしないで放置すれば、相続発生時、必ず揉めるであろうことを感じているからだと思います。

遺言書を作ることは、その作成過程において相続について色々考えることになります。家族とも話をするかもしれません。その中で、自分と自分の子世代の認識にギャップを感じる場合も多いと思います。しかし、この認識過程こそが重要であり、お互いの考え方を理解しようとすることが問題解決の一歩になると思います。

 

 

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