遺言で財産を特定の団体や法人などに「寄付」したい場合の注意点

遺言書を作成して財産を寄付したいとお考えの方が増えています。自分の残された財産を少しでも社会のためになることに使ってもらいたいと寄付をお考えのようです。寄付先としては、お世話になった社会福祉法人への寄付、住んでいる市町村への寄付、菩提寺への寄付などがあります。最近は、自分の所属していた大学や研究所、NPO法人などへの寄付など社会貢献を意識した寄付先も増えています。


ところで、遺言で寄付を行うことを「遺贈寄付」といいますが、この「遺贈寄付」を気軽にお考えの方が多いように思います。自分が亡くなった後の財産の処分なんだから、遺言書に「誰それに遺贈する」と書いておけば済むのではとお考えの方が多いと思います。

しかし、「遺贈寄付」は、色々と考慮すべき注意点があり、事前の確認作業が大切になります。特に、法律上・税務上の注意点を確認して必要な対応策を準備しておく必要があります。

まず、法律面で確認すべきことは、次の3つです。

1. 遺贈する法形式の選択
2. 他の相続人への「遺留分」の配慮
3.「遺言執行者」の指定

順番に見て行きます。

<遺贈する法形式の選択>

遺贈には、「特定遺贈」「包括遺贈」という区分けがあります。特定遺贈とは、「自分の遺産のうち特定の財産 (例えば、土地建物) を誰々に遺贈する」というものです。一方、包括遺贈とは、「自分の遺産の2分の1を誰々に遺贈する」というものです。包括遺贈は、相続人としての地位も遺贈しますので、財産以外に負債も遺贈することになります。

このような区別を前提として、遺贈寄付の場合は、「特定遺贈」を選択することになります。何か特殊な事情があれば別ですが、遺贈寄付は特定遺贈で作成します。

<他の相続人への「遺留分」の配慮>

全財産を特定の団体などに遺贈した場合、相続人が他にいると相続人の「遺留分」を侵害することになります。遺産の遺贈を受けた団体と相続人との間でトラブルになる恐れがあります。事前に相続人と寄付について相談し了解を得られないようであれば、遺留分に見合う一定の財産を相続人に相続させる遺言書を作成するなどの配慮が必要になります。

<「遺言執行者」の指定 >

「遺言執行者」とは、遺言者が亡くなった後、本人に代わって遺言書に書かれている事柄を実現する者です。遺贈寄付の場合は、本人が亡くなった後、寄付を行う必要があるため非常に重要になります。遺言書に遺言執行者として適任者を指名しておく必要があります。もちろん、事前に遺言執行予定者の了解を得ておく必要があります。


次に、税務面で確認すべきことは、次の4つがあります。

1.個人への遺贈で寄付先個人に「相続税」が発生する
2.法人への遺贈で寄付先法人に「法人税」が発生する
3.法人への不動産の遺贈で遺言者の相続人に「譲渡所得税」が発生する
4.公益法人などへの遺贈で法人税や譲渡所得税が免除される場合がある

順番に見て行きます。

<個人への遺贈で寄付先個人に「相続税」が発生する>

個人に遺贈すれば、寄付を受けた個人に相続税がかかります。相続税の税率は、寄付を受けた個人が相続人以外であれば、通常税率の1.2倍となります。

<法人への遺贈で寄付先法人に「法人税」が発生する>

法人に遺贈すれば、寄付を受けた法人に「法人税」がかかります。

<法人への不動産の遺贈で遺言者の相続人に「譲渡所得税」が発生する>

法人へ不動産を遺贈すると遺言者の相続人に「譲渡所得税」がかかります。これを「みなし譲渡所得税」と言います。この部分が最も注意すべき点です。遺言者の相続人が遺産相続を受けていない場合、譲渡所得税という負担だけ背負うことになり不満が出やすくなります。

相続人に不満がでれば、遺言書の無効確認請求や遺留分請求など寄付先法人とトラブル発生のリスクが高くなります。なお、「譲渡所得」とは、寄付不動産の遺言者が取得した価格と現在の実勢価格との差額となります。この差額に対して、不動産の保有期間の長短に応じて課税されるものです。税率が高いため相当な金額となります。(税率は、保有期間5年以上(長期)で20.315%、短期で39.63%です。)


<公益法人などへの遺贈で法人税や譲渡所得税が免除される場合がある>

公益事業を行っている公益法人などへの遺贈については、税が免除される場合があります。但し、要件が厳しく定められていますし、税務当局の認定が必要な場合もあります。税の免除を受ける場合は、事前に要件や必要書類を確認しておく必要があります。

以上のように遺贈寄付には、色々と確認する事柄が多くあります。そのため、寄付を受ける個人・団体への事前の確認が必要になります。寄付を受ける側にも一定の負担が生じる場合があるため、事前確認をしないと寄付を受けてくれない場合もあります。

特に、不動産や株式、有価証券などの現物での寄付を受けてくれるかどうか、現金でないと受けないのかどうかは重要な確認ポイントとなります。

また、不動産を法人に遺贈する場合は、相続人に「みなし譲渡所得税」が生じてしまうため、事前に十分な了解を得ておく必要があります。了解が得られない場合は、不動産の現物での寄付をあきらめ、不動産を換価して金銭として寄付する方式を考えた方が良いと思います。不動産を換価する場合は、遺言執行者は不動産を売却して金銭に代える必要があるため、そのような事務処理ができる専門家を選ぶ必要があります。


(まとめ)

遺言による寄付は、実はあまり簡単なことではないことを理解してもらう必要があります。社会貢献などに自分の遺産を使ってもらいたい気持ちは大切なのですが、安易に遺言書を書いても無用のトラブルとなってしまう場合があります。専門家の助言を受けながら高い志を実現してもらいたいと思います。

 

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