自筆証書遺言の内容に疑問がある場合の対応

高齢化社会の進展と人々の相続問題への関心の高さから遺言書を作成する方が多くなっています。費用面や簡便さなどから「自筆証書遺言」を選択される方も多くなっています。自筆証書遺言は簡単に作成できる反面、無用のトラブルに発展するケースも多くなってます。

よく見られるトラブル内容についてご紹介します。

◆遺言書の「要式性」を巡るトラブル

従来は、この手のトラブルが大変多く見られました。最近は、遺言の作成解説本やネット情報などから、「遺言書の要式性」について理解がされており、間違った記載内容のものは少なくなっていると思います。

例えば、遺言書の作成日を「令和2年11月」あるいは「令和2年10月吉日」とするものがあります。遺言書は作成年月日が特定できないと無効になりますので、このような書き方では遺言書全体が無効になります。

また、相続財産の明細 (預貯金の銀行名・支店名・口座番号など)をワープロで作成している場合があります。自筆証書遺言は全て自筆で作成することが原則ですので、一部をワープロで作成すれば全体が無効となります。

なお、平成30年の相続法の改正により、相続財産の明細部分のワープロ等での作成が認められました。しかし、必要な個所に署名捺印が必要となる等、ワープロでの遺言書作成については厳格な要式性が必要となっていますので、これを誤れば遺言書は無効となります。

 

遺言書をご夫婦が共同で作成される場合もあります。ご夫婦でそれぞれの遺言書を各1通作成すれば問題ないのですが、1つの遺言書を共同で作成し、ご夫婦で連署されている場合があります。ご夫婦による共同遺言は、原則として、無効になります。

令和2年7月より全国の法務局で「自筆証書遺言書の保管制度」が開始されています。これは遺言者の申出により自筆証書遺言を法務局で保管管理してもらう制度です。この制度を活用すれば、法務局の担当官が遺言書の要式性をチェックしますので、この点のトラブルは今後は少なくなると思います。

 

 

◆遺言書の「特定性や具体性」を巡るトラブル

例えば、被相続人が隣接する甲土地(東側部分)と乙土地(西側部分)を所有していた場合、遺言書に「私の所有する土地の東側は長男××に、西側は次男××に相続させる。」とされている場合です。

被相続人の意思は明確で、長男、次男においても物件の具体性や特定性に問題は生じていません。しかし、土地を登記する時に問題が生じます。この場合、不動産登記手続上、所有権の移転登記を申請しますが、登記の真正を確保する観点から、登記原因を証する情報を提供しなければなりません。

この登記原因を証する情報には、不動産物件の特定性が要求されているため、土地の西側、東側では特定性が不十分となり登記申請が認められません。通常は、土地の登記簿に記載されている「所在×× 地番×× 地目×× 地積××」で特定して申請する必要があります。

 

 

◆遺言者の「意思能力」を巡るトラブル

例えば、長女と同居していた被相続人が、遺言書に「私の遺産を全て長女××に相続させる。」とされている場合です。相続人は、長女の他に長男がいます。被相続人は、遺言書が作成された当時、重度の認知症になっていたとします。

長男からすれば「重度の認知症になっている親が遺言書を書けるはずがない。」と遺言書の無効を主張することになります。重度の認知症ではなく軽度の障害の場合でも、遺言者の意思能力を巡って相続人間で争いになります。

◆自筆証書遺言のトラブルを巡る対応方法

自筆証書遺言の有効・無効を巡って相続人間で争いが生じ、話し合いで決着がつかなければ「遺言無効確認の訴え」により裁判での決着となります。裁判での決着には、解決までに長い訴訟期間と費用が必要になります。

相続人間で円満に解決がつくのであれば、その後の対応が必要になります。具体的には、作成された自筆証書遺言を無効として、相続人間で新たに「遺産分割協議書」を作成する必要があります。

相続人間で遺言書の内容を無効とした上で、新たに合意された内容に従った遺産分割協議書を作成します。この時、今後の無用の混乱を避けるため、実務では遺産分割協議書に次のような1文を入れることがあります。

第1条
B及びCは、Aの令和2年1月5日付け自筆証書遺言が無効であることを確認する。

あるいは、

第1条
B及びCは、Aの令和2年1月5日付け自筆証書遺言が無効であることを確認する。
Bは、理由を問わず今後その遺言が有効であることを主張しない。

相続人間で遺言書の無効が合意できているのであれば、必ずしもこの点を記載する必要はありませんが、念のために遺言書が無効であることの「確認条項」を記載しておいた方が賢明であると思います。

◆まとめ

自筆証書遺言は、簡便で費用も安くできますが、トラブルの発生も見られています。法務局による自筆証書遺言書の保管制度も遺言書の要式面の形式点検は行ってくれますが、内容についての審査(点検)は行ってくれません。

遺言書の作成についてよく勉強されて自信のある方は、自筆証書遺言を作成して頂ければ良いと思います。

法律面に不安のある方や、より確実に遺言書を作成したい場合は、遺言書の内容を相続の専門家である弁護者や司法書士に確認してもらうか、「公正証書遺言」の作成を検討する必要があると思います。

選択肢は色々ありますので最適なものを選んで不安のない遺言書を作成してもらいたいと思います。

 

 

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