相続法の改正による「遺言書の書き方」の注意点

平成31年1月13日相続関係の民法の改正により、自筆証書遺言について改正がなされました。自筆証書遺言は、その名が示す通り、全て自筆で書くことが必要でしたが、今回の改正により、財産目録部分に限ってパソコンなどによる作成でも良いこととされました。

今回の改正により、自筆証書遺言の作成が急に増えるとは思いませんが、高齢化の進展と権利意識の高まりにより、相続を巡る争いは確実に増えています。この為、生前に遺言書を作成して無用な争いが起きないように考えられている方は増えていると思います。

遺言書は要式性の高い法律書面ですので作成に当たっては相当な注意が必要です。今回の改正に関する注意点と一般的な考慮点について記載したいと思います。

まず、今回の改正により財産目録は自筆しなくてよくなりました。パソコンで作成しても良いですし、通帳の写し登記事項証明書(登記簿の写し)を添付しても良いこととなりました。

ここでの注意点としては、次のような点があります。

① 自筆により作成した遺言文言と自筆によらない財産目録の記載は、同じページでの混載は認められません。ページを必ず分けて作成して下さい。
② 財産目録は、各ページに署名捺印が必要となります。
③ 作成された自筆証書の加除訂正は、定められた方式に従って実施して下さい。
  (例えば、訂正する箇所に二重線を引き印を押し、欄外に訂正内容を記載して署名する。)
④ 平成31年1月13日以前に作成された自筆証書遺言は、旧法の定めに従います。従って、旧法時代に作成された遺言書にワープロ作成の財産目録を追加することはできません。

次に、遺言書の作成について、一般的な考慮点を記載します。実務上よく見かける例で意外と致命傷になるケースは次の通りです。

① 遺言書に預金の額を明示しているケース

例えば、「第1条 遺言者の預金から、長男に600万円、長女に300万円を相続させる。」と書いてある場合です。このケースの場合、相続が発生した時、遺言者の預金残高が900万円未満の場合、第1条は無効となってしまいます。

遺言通りとする為には、遺言者は預金の払出をしないことが必要になります。このような不便を避けるためには、遺言文言は「第1条 遺言者の預金から、長男に2/3、長女に3/1を相続させる。」と割合で表示しておけば残高の状況によって問題は生じません。

② 遺言書に預金の金融機関名を特定して記載してあるケース

例えは、「第1条 遺言者の〇〇銀行甲支店普通預金番号123456の預金を山田太郎に遺贈する。」と書いてある場合です。これは、一般的に見られる書き方で、特に大きな問題はありませんが、預金口座を別の支店や銀行に移している場合、該当遺言文言は無効となります。

遺言通りとする為には、遺言者は預金の移替え等をしないことが必要となります。遺言書を作成してから歳月がたった場合、意外と遺言書の事を忘れで、預貯金の移動をする場合があります。心配なら、想定される金融機関や預貯金口座を全て遺言書に明示しておく必要があります。

③ 遺言書作成後の起こり得る変化について考慮されていないケース

例えば、「第1条 甲不動産は長男に相続させる。」と書いてある場合です。相続が発生した時に長男が生きていれば問題ないのですが、万が一亡くなっていた場合、第1条は無効となります。相続人が亡くなるケースは稀ですが、遺言執行者に指名された妻等が亡くなる場合はよくあります。長男が亡くなった場合は、甲不動産の相続については、遺言がないことになり、相続人全員による遺産分割協議が必要になります。

このような事態を避けるためには、万一の事態も想定した文言を遺言書に記載しておく必要があります。例えば、「 ‥ 遺言者が死亡する前に長男が死亡していた場合は、甲不動産は次女に相続させる。」などと書いておきます。

またまだ遺言書作成に当たっての考慮点は色々ありますが、ご本人が亡くなった後での争いごとを避けるためには遺言書の作成は大変有効です。遺産相続について悩まれている方は、是非一度ご検討される事をお勧めします。

尚、遺言書については、令和2年7月10日より自筆証書遺言の保管制度が創設されます。自分で作成した遺言書を法務局(登記所)で保管管理してもらう制度です。自筆証書遺言の弱点として従来より言われていました保管管理面について、公的な機関が支援して頂けるようになります。詳細な運用方法は、まだ発表されていませんが使い勝手の良いものになればと思います。

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