7月1日からの相続法改正により、相続登記は早めに行う必要があります。

令和元年7月1日より相続法が改正され「配偶者居住権の新設」、「遺言制度の見直し」、「預貯金の払出しの特例」、「特別の寄与分制度」など話題性に富んだものがマスコミなどで報道され注目を浴びています。それらの陰に隠れた改正内容の1つに「相続の効力に関する見直し」というものがあります。内容は「相続登記の対抗要件に関する変更」ですが、一般の方には分かりにくい内容の為、興味を引かないものとなっています。しかし、専門家の間では、その影響範囲の大きさから、改正内容について話題となっています。

一部週刊誌が「相続登記は早い者勝ち」とする見出しで、この問題について内容紹介しています。相続登記は早い者勝ちとはどのようなことなのでしょうか。

親が亡くなった時、相続財産に不動産があれば、親の名義から相続人の名義に名義変更します。これを相続登記と言います。相続登記は、これを行うか行わないかは相続人の自由です。亡くなってから何代にも渡って相続登記をされていない方がおられます。亡くなってから10年程度、親の名義のままにされている方はよく見られます。

では、そもそも「登記」とは、何なのでしょうか。なぜ登記をする必要があるのでしょうか。簡単に言えば、他人に対してこの不動産は自分のものだと主張することが出来るために登記をします。登記をすれば不動産登記簿という公の帳簿に所有者の記録がなされます。これにより他人に対して自分のものだと主張することが出来ます。(これを「第三者に対抗することが出来る」と言います。)

今回の相続法の改正で、「相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ、第三者に対抗できない」と改正されました。法定相続分とは、皆さんもご存じの「配偶者は1/2、子は1/2、‥」というものです。

親が亡くなった時、不動産があれば誰が相続するかを決めます。遺言書に「不動産は長男に相続させる」と書いてあれば長男が相続します。遺言書がない場合は、相続人全員の話し合いで相続する者を決めます。(これを「遺産分割協議」と言います。)

遺産分割協議を行う場合、名義人を「長男1/2、長女1/2」という共有名義とすることはできますが、通常は行わないと思います。不動産の共有名義は後々の管理や処分が面倒になるからです。

そうすると、通常は誰かの単独所有となります。これにより名義人となる相続人の法定相続分を超える部分が生じることになります。長男が単独で相続することになれば、自分の法定相続分は1/2(※1)ですので、これを超える1/2の部分が発生します。この超過した部分については、登記をしておかないと第三者に対抗できなことになります。

(※1.設例として長男の相続分を1/2と仮定しています。)

実は、この内容は改正前の相続法でも「遺産分割協議」による場合は同様とされていました。つまり、従来も法定相続分を超える部分については登記をしておかないと第三者に対抗できませんでした。但し、遺産分割協議の場合は、通常、分割協議後直ちに相続登記を行いますので問題が生じることがなかったのです。遺産分割協議は相続登記をする為に実施するものだからです。      

今回の改正で問題になるのは「遺言書」による場合です。遺言書で不動産の相続分や分割方法を指定したは場合、従来は、例外的に相続分を超える部分も遺言書の内容で第三者に対抗することが出来ました。今回の改正で「遺言書」についても例外なく、法定相続分を超える部分は登記をしなければ、第三者に対抗できなくなりました。この点が今回の改正のポイントとなります。

その結果、遺言書で「不動産は、長男に相続させる」と書いてあっても、長女が勝手に「長男1/2、長女1/2」という法定相続分の相続登記を行い長女の持分を第三者に売却してしまえば、長男は第三者に対抗できなくなります。法定相続分による相続登記は長女自身で行うことが出来ます。この意味で「相続登記の早い者勝ち」ということができるかもしれません。

勿論、持分だけの第三者への売却は困難ではと思われる方も多いと思いますが、世の中には専門の業者がいて買い取ってくれます。買い取り業者は安く買いたたいて、他の共有者(長男)に対して「共有物分割訴訟」を提起します。この場合の共有物分割訴訟とは、「共有不動産を第三者に売却して売得金を共有者持分に応じて分配せよ」というものです。売却後、売得金のうち1/2を取得して、安い買取価格との差額を収益とします。

相続人の間が、従来より不仲な状況であれば、このような抜け駆け的な行為をする場合も想定されます。(尚、理論的には、長男は長女に対して長女の不当な行為に対して、持分1/2の分の損害賠償請求は出来ますが、訴訟しなければ返還は難しいかもしれません。)

また、長女が借金を抱えている場合、長女の債権者は債権者代位権により、「長男1/2、長女1/2」とする法定相続分による相続登記を代位申請により実施することが出来ます。そして、長女の持分1/2に対して差押え登記を行います。遺言書があっても早い者勝ち状態で登記をすることが出来てしまいます。

この場合は、兄弟仲が良い悪いの問題ではありません。第三者が勝手に手続きを進めてしまいます。従来は、遺言書の例外の取扱いがあった為、債権者もこのような行為は実施しなかったと思いますが、今後はどうなるか分かりません。債権者というと銀行やサラ金等を思い浮かべる方も多いかと思いますが、債権者で多いのはお役所です。税金の滞納分に対して行われることが多いと思います。税の取立は大変厳しいものがあります。

ということで、今回の相続法の改正によって、相続登記は出来るだけ早く実施しておかないと相続人の権利を保全することが出来なくなる場合があるということになりました。改正内容としては、地味な話ですが、影響範囲が意外と大きい改正となっています。

いずれにしても、相続が発生し身の回りが落ち着いたら、速やかに不動産の相続登記を実施することが肝要という時代になったということです

Follow me!