離婚して前の配偶者との間に子がいると争族になりますか

相続で「争族」になりやすい事例として「前の配偶者との間に子がいる」があります。離婚歴があれば前の配偶者との間に子供がいることも多いと思います。子供の親権は母親が保有することが多いことから、子供の父親が離婚してから子供と長らく音信不通となっている場合もあります。

離婚により子供と別れた方が再婚して新しい家庭をつくり、その後亡くなれば、その方の相続手続を行う必要があります。そのとき残された配偶者や子供などの相続人は「亡くなった配偶者の前婚の子」の存在を意識しなければならなくなります。

前の配偶者の子も現在の配偶者やその子と同様に亡くなった方 (被相続人) の相続人として法定相続分を有しています。そのため、被相続人の所有する不動産や金融資産等の相続手続を行うには、前の配偶者の子も加えて相続手続を行う必要があります。

前の配偶者の子を参加させないで実施した遺産分割協議は無効となります。不動産の名義変更手続(相続登記)や預貯金の相続手続では、法務局や金融機関から手続書類として、前の配偶者の子の署名・捺印(実印)と印鑑証明書を求められます。

多くの場合、亡くなった配偶者は別れた子供と音信不通の状態であることが多いため、子供の現在の住所や電話番号など分からないことが多いと思います。残された相続人は、相続手続を行うためには、まずは別れた子供の現在の住所の探索から始めなければなりません。

仮に住所が判明している場合でも、残された相続人と交流があることは稀であると思いますので、相続人が自宅を訪問するか手紙で「親が亡くなり相続手続を行う必要がある」旨を連絡しなければなりません。相手の人柄も分からない中での折衝となりますので精神的に大きなストレスになると思います。

何とか面談することができて円満に話がまとまれば問題ありませんが、相続分を巡って揉(も)めることもあります。金額面の折り合いであれば、お互いの譲りありにより決着できる場合もありますが、相続財産が自宅しかないような場合、折り合いがつかなければ、自宅売却という事態にもなってしまいます。

このように離婚歴のある方で前の配偶者との間に子供がある方は、残された相続人が相続手続で苦労する可能性が高くなりますので、一定年齢になったら事前に対策を行っておくことが必要になります。

(具体的な対策方法)

対策としては、まず、現在の家族と自分が亡くなった時の相続について話し合いをすることです。自分には別れた配偶者との間に子供があり、その子供も相続人の1人であるので自分が亡くなった後の相続手続において、残された家族がその子と揉(も)める可能性があることを伝えます。家族との話し合いの中で相続についてどのように対応すべきかという方針を明確にする必要があります。

次に、別れた子供の現在の所在を確認しておくことです。連絡先の電話番号まで確認することは難しい場合がありますが、現在の住所は調べておく必要があります。相続手続が開始した後でも戸籍を調査し戸籍の附票から現在の住所を調べることはできますが、予め確認しておいた方が余分な手間がかからないと思います。

 

現在の家族との話し合いの結果、別れた子供にも遺産を残す方針であれば、事前に相手方とコンタクトを取って将来の遺産分割の方針を伝え、相続発生時の手続協力をお願いすることも考えられます。話が円滑に進めば、場合によっては先方から相続放棄の意向 (子としての相続の辞退)を受ける場合もあるかと思います。

現時点で別れた子供とのコンタクトが前の配偶者との関係などから難しい場合は、遺産相続に関する遺言書を作成することになります。争族に発展する恐れがあるのであれば、公正証書で遺言書を作成することをお勧めします。

現在の家族と分れた子供に対する遺産の分割方法を遺言書に記載します。別れた子供には遺留分がありますので、遺留分を下回らない分割内容とします。遺言書が正しく作成されていれば、遺言書に従って遺産相続の手続きを行うことができます。

 

遺産は別れた子供には一切分与したくないとの方針であれば、対応は難しくなります。別れた子供には法定相続分や遺留分が存在しますので、法律的には相続する権利があります。その権利を無視して相続手続を進めることは、無理筋の面があります。

考え得る事前対策として次の2つの方法があります。但し、効果は絶対的なものではなく、別れた子供があくまでも争ってくる場合、法律的には主張を通すことは難しくなります。

方法の1つは、「生前贈与」の活用です。相続財産を生前に現在の家族に贈与しておけば、相続財産は存在しなくなるため対策方法となります。但し、このような生前贈与は相続手続上「特別受益」とみなされて相続財産に持ち戻される可能性が高くなります。相続財産に持ち戻されると生前贈与された財産は相続発生時において相続財産に存在するものとみなされます。

その結果、遺産が相続財産にあるものとして別れた子供を含めた相続人全員で遺産分割を行う必要が生じます。つまり、別れた子供が特別受益の持ち戻しを主張すれば、生前贈与はなかったものとして、相続財産の評価計算を行うことになります。また、生前贈与は相続税よりも高額の贈与税が発生しますので注意が必要となります。

次に考えられる方策として、別れた子供に財産を一切分与しない「遺言書」を作成する方法です。相続手続の執行が容易な公正証書遺言とすることが多いと思います。本人が亡くなった時、相続手続は公正証書遺言を使用すれば、別れた子供の関与なく実施することができます。

但し、別れた子供が親が亡くなったことを知り、自分の遺留分が侵害されたことを知った場合は、遺留分侵害請求をすることができるため、遺産を相続した相続人は、遺留分に相当する金銭を分かれた子供に支払う必要が生じます。

しかし、長年音信不通の状況であれば、親の死亡を知らない可能性も高くなるため、遺留分侵害請求権の時効完成を目論んで実施される場合もあります。

(まとめ)

離婚して前の配偶者との間に子がいる場合は、相続手続が一筋縄では行かない可能性があります。必要な対応策は早めに検討されることをお勧めします。

 

 

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