遺留分を侵害されたらどうすればよいのですか

相続で将来の「争族」問題の発生を恐れて遺言書を作成する方が最近増えています。国も遺言書の作成が簡単にできるように色々と施策を展開しています。自筆証書による遺言書については、民法を改正して財産目録などは手書きでなくともワープロでの作成を認めるようになりました。また、自筆証書による遺言書を法務局で保管管理してもらえる制度もスタートしています。

このように遺言書の作成がより身近になってきたことに伴い、今後は「遺留分侵害」という問題がより多く見られるようになると思います。遺留分侵害とは相続人の遺留分を侵害した遺言書が作成され、それが現実に実行(相続)されることです。

遺留分とは、亡くなった被相続人の兄弟姉妹以外の近しい関係にある法定相続人に最低限保障される遺産の取得分のことです。子どもや配偶者などの近親者は、被相続人が亡くなったときに財産を相続する権利を持っています。しかし、被相続人が遺言によって長男に遺産のすべてを贈ったり、愛人に全財産を残した場合でも、一定の範囲の相続人(遺留分権者)は、主張すれば必ず一定の財産が取得できます。遺留分は、遺言の内容よりも強い権利と言えるのです。

それでは、親などの相続に関して自身の遺留分が侵害された場合はどのようにすればよいのでしょうか。法律上、「遺留分」という権利が認められていても、実際に侵害された場合の対応方法が分からなければ意味がありません。

遺留分を侵害された場合は、「遺留分侵害額請求権」を行使します。相続関係の民法が平成30年に改正され、従来「遺留分減殺(げんさい)請求権」と言っていた仕組みが変更されています。

遺留分侵害額請求権とは、遺留分を侵害された人が、遺言書によって財産を受けた人に対して、侵害された遺留分の額を限度に、受け取ったものの返還を”金銭”により請求する権利のことを言います。 ポイントは、金額に換算して返還請求をするということです。遺言書によって受け取った土地・建物の返還ではなく、遺留分を金額に換算して「お金」で請求します

具体例で説明します。山田太郎さん(81歳)は、子供が3人います。奥様は既に他界しています。長男は、山田一郎さん、長女は、田中花子さん、次男は、山田次郎さんです。山田太郎さんには、遺産総額1億8,000万円の資産 (自宅の土地・建物、マンション、金融資産) があります。山田太郎さんは平成30年7月14日に公正証書遺言を作成し、令和2年1月30日に亡くなりました。

遺言書の内容を見ると遺産は長男と次男に相続させる内容となっており、長女の田中花子さんには何も相続させない内容となっていました。遺留分を侵害されたと思った田中花子さんは、次のような通知書 (これを「遺留分侵害額請求」といいます。) を長男と次男に内容証明郵便で出します。これが遺留分を侵害された時の具体的な対応方法です。

<通知書の文例>

山田一郎殿
山田次郎殿
(遺言執行者がいれば遺言執行者〇〇〇〇殿)      

           ご通知
                  令和2年5月15日

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、私は、山田太郎殿 (令和2年1月30日死亡 最後の住所△△△△) の遺産に関する遺留分侵害額請求について、太郎殿の相続人である田中花子 (以下「通知人」といいます。) です。

太郎殿作成に係る平成30年7月14日付け公正証書遺言によりますと、遺産総額が1億8,000万円 (名古屋市中区〇〇所在の自宅土地建物の時価1億円、岐阜市△△所在のマンションの時価4,000万円、預貯金4,000万円) であるのに対し、山田一郎殿は1億4,000万円、山田次郎殿は4,000万円それぞれ取得し、通知人は遺産を全く取得しないという内容となっています。

従いまして、上記公正証書遺言は通知人の遺留分(6分の1)を侵害していることは明らかですので、通知人は、本書面をもって遺留分侵害額である3,000万円 (山田一郎殿と山田次郎殿との間で、取得した遺産の価格に応じて上記金額を按分) を請求いたします。

なお、兄弟間のことですので、通知人としては必ずしも上記にこだわらず、円満な解決を希望していますので、話し合いには柔軟に応じていく所存であることを申し添えます。  以上

 

このような文例の「遺留分侵害額請求」を出してから、話し合いをして、落としどころを見つけるという手順が必要になります。「遺留分侵害額請求権」は、民法によって「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅する 相続開始の時から10年経過したときも同様とする。」となっています。従って、まず通知書を出して時効の完成を阻止することが重要となります。

このような相続トラブルに巻き込まれないためには、「遺言書の作成」は、相続人の「遺留分」について十分考慮したものとして頂きたいと思います。

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