相続発生時、未支給年金の請求で苦戦する場合があります

相続が発生すると葬儀を慌ただしく執り行うとともに役所などに色々な届出を行います。死亡届などを役所に出すと関連する年金や健康保険関係の手続きを案内してもらえます。この中で多くの相続人の方が少し戸惑うものに「未支給年金の請求」があります。

年金を受給していた親が亡くなった場合、年金を受ける権利がなくなるため、遺族は「年金受給者死亡届」を提出する必要があります。但し、マイナンバーが日本年金機構に収録されている場合は、原則として、届出を省略できます。この年金を停止する取り扱いで問題が生じることはありません。

問題となるのは、「未支給年金の請求」の局面です。年金受給者が死亡した場合、その者に支給すべき年金であった、まだ支給されないものは、請求に基づいて一定範囲の遺族に支給されます。これを「未支給年金」と言います。

年金は後払いのため未支給年金が発生します。例えば、老齢基礎年金(国民年金のこと)を受給していた方が7月20日に死亡したとします。年金は原則として偶数月の15日に前々月分と前月分について支給されます。7月20日に亡くなった方は、6月15日に4月分と5月分の年金が合計金額で支給されます。

また、年金は年金をもらっていた方が死亡した月の分までもらえます。7月20日に亡くなった方は7月分までもらえます。従って、7月20日に亡くなった方は、亡くなる前の6月15日に4月分と5月分の年金は受給していますが、6月分と7月分の年金が未支給となっています。

この未支給の年金を遺族が請求することを「未支給年金の請求」といいます。この事例でも明らかなように殆んど全ての相続発生のケースで遺族の方に受給請求できる権利が生じています。もらえる金額も最大2か月分の年金月額となり、かなりの金額になる場合もあります。

問題は、この未支給年金を請求できる遺族の範囲です。平成26年に法改正があり請求権者の範囲は広がっています。平成26年4月から、未支給年金を請求できる遺族の範囲は「受給権者の死亡の当時、死亡した受給権者と生計を同じくしていた、三親等内の親族」となりました。

請求時、苦戦するポイントは、「死亡した受給権者と生計を同じくしていた」の点です。親が亡くなった当時、親と同居していて同一世帯の場合は、この点の説明は比較的容易となります。しかし、最近は親と同居しているケースは少ないと思います。結婚して独立している場合や転勤で遠隔地に居住している場合など死亡した親と生計を同じくしていたことを説明できない場合が多くなっています

具体的な請求手続についていえば、「未支給年金請求書」には生計関係の同一性を説明する書面として「生計同一関係申立書」を添付する必要があります。「生計同一関係申立書」によって生計関係が親と同一であったことを証明することになります。

親と別居している場合、生計が同一であったことの説明が必要となりますが、その説明に苦戦する場合が多くなっています

生計同一関係申立書」は各地の年金事務所で色々なフォーマットがあるようですが、基本的には次のような点について合理的な説明を記載する必要があります。

親と同居していたが別世帯としている場合
(こちらは説明が比較的容易です。)
別世帯になっていた理由
例えば、医療費の関係で世帯を分けていた。 婚姻により世帯分離した。

親と別居していた場合
(こちらは説明に苦戦することがあります。)
別居していたことの理由
例えば、婚姻により別居した。 転勤により別居した。親が施設に入所した。親が病院に長期入院した。
別居中の経済的援助の状況
例えば、毎月2~3回、親のもとを訪問し、生活費として金〇〇円を手渡していた。
老人ホームや病院の入居費用、入院費用を支払っていた。
親の住居の家賃を支払っていた。
定期的な音信・訪問の状況
例えば、音信として「訪問」の場合は、毎月4回訪問していた。親の自宅へ訪問し、買い物の手伝い、掃除・洗濯をしていた。食事を作っていた。
生計同一関係にあったことの申立
(請求者が記載内容に間違いないことを自認すること。)
生計同一関係にあったことを住所・署名・捺印で宣誓する。
第三者による証明欄
上記で説明してきた内容について第三者に証明(住所・署名・捺印)をもらいます。
請求者や故人の三親等内の親族は第三者に該当しません。つまり、証明できません。
例えは、町内会長、民生委員、病院の管理者、介護施設の長、隣人、故人に親しい友人 、大家などに署名・押印を求める。

このように意外と面倒で難しい書面の添付が必要になります。状況によっては請求を断念せざるを得ない場合も生じます。

本来なら個人が受給すべき年金を相続人である遺族にすんなりと渡してほしいところですが、そうもいかない決まりのようです。相続発生の局面では、ある程度心づもりしておいてもらった方が良い事柄だと思います。

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