相続法の改正により「配偶者への自宅の生前贈与」が脚光を浴びています

相続法の大きな改正が令和元年7月1日より実施されていますが、これにより、「配偶者への自宅の生前贈与」が大きな話題となっています。同日の令和元年7月1日には、相続税や贈与税の評価基準となる「路線価」も公表されています。生前贈与を非課税限度枠一杯まで実施する為には、必要な情報となりますので、絶好のタイミングということになります。

今回の相続法制の大改正は、平成25年9月4日最高裁の「婚外子相続分の違憲決定」に端を発しています。これは、「嫡出でない子の相続分を嫡出である子の相続分の2分の1とする」民法の定めを違憲とする決定でした。婚姻外の子も嫡出子と同等の権利があるとするものでした。

この決定に対して、「婚姻」制度を蔑(ないがし)ろにするものだという強い反発が保守系の方々から起こりました。このような状況の中から相続法制の改正が検討されることになりました。その狙いは、「婚姻」制度の持つ法的な効力の強化、とりわけ、婚姻期間の長い「配偶者の権利の強化」でした。

このような経緯から、今回改正された相続法制の中でも来年4月1日より実施される「配偶者居住権」と並ぶこの「配偶者への自宅の生前贈与」が2つの大きな目玉的改正事項となります。

<配偶者への自宅の生前贈与の改正内容>

これまでは、被相続人が住居を生前に配偶者に贈与した場合、被相続人の死後に遺産として相続するはずのものを、配偶者は先に渡されたと考え、住居を被相続人の相続財産に戻した上で、残された他の相続人との協議で遺産の分割を行っていました。

つまり、生前に贈与されていても相続段階では、過去の話ではなく、相続時にもらったものとして評価されていました。(これを「特別受益の持ち戻し」と言います。)これにより、必然的に配偶者の相続分が住居の評価分だけ少なくなってしまいました

今回の改正により、この「特別受益の持ち戻し」について行わなくても良いことになりました。条件としては、次の通りです。

① 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方から他方への贈与であること。
② 居住の用に供する建物又はその敷地についての贈与であること。

なお、生前「贈与」以外に「遺贈」(遺言書による処分)でも同様になります。

また、配偶者への生前贈与は、税制面からも2,000万円の特別な非課税枠が用意されており、通常の非課税枠110万円と合わせれば、2,110万円分が非課税になります。税制面からも大変優遇されています。

配偶者への取り分が増加する点について、具体例でご説明します。夫婦と子供2人(長男・長女)の想定で、相続財産が5,000万円 (居宅2,000万円、預貯金3,000万円)のケースです。

前段が、旧法(従来)の取扱です。後段が新法の取扱です。この例の場合、配偶者である妻の取り分(相続分)が1,000万円増加することが分かります。大変な違いが生じます。

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