固定資産を「現に所有する者」の申告制度が開始されています

固定資産を「現に所有する者」の申告制度という聞きなれない制度が開始されています。これは、令和2年度の税制改正で固定資産税に対する新たな申告制度として創設されたものです。具体的な内容としては、土地・家屋の名義人が亡くなった場合、その土地・家屋を現に所有する者に住所や氏名などの申告を義務付ける制度です。

現在、国は「所有者不明土地問題」や「空き家問題」などの課題に対して、法制面で色々な対応策を検討しています。このうち、本制度は、所有者不明土地等に係る課税上の課題への対応として、たとえば相続登記未済の不動産について市町村による固定資産税の賦課・徴収を円滑に進めるため、「現に所有する者」に住所氏名等の申告を求め、不申告の場合に過料が科される制度として整備されたものです。

現行制度では、土地や家屋の固定資産税の納税義務者は、不動産登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者が納税義務者となります。

課税の基準日である毎年1月1日前に、所有者として登記等されている人が亡くなっている場合は、その土地や家屋等を「現に所有する者」が納税義務を負うことになっています。

しかし、相続登記がなされていない等の原因で、市町村等が「現に所有する者」を把握することがむずかしい案件も多くなっています。このため市町村等は条例により「現に所有する者」に対し、固定資産の「現所有者であることを知った日の翌日から3月を経過した日以後の日までに、当該現所有者の住所及び氏名又は名称その他固定資産税の賦課徴収に関し必要な事項を申告させることができる」旨の規定を創設しました。これが、今回の税法改正の内容です。

しかも、実効性を担保するために、不申告の場合には罰則(過料)が科される制度になりました。

現行制度では、償却資産や住宅用地の申告に関し「虚偽の申告をした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされ、「正当な事由がなくて申告をしなかった場合においては、その者に対し、当該市町村の条例で10万円以下の過料」を科すとされています。

この罰則・過料の制度がそのまま、「現に所有する者」の場合にも適用される改正となっています。

今回の新制度は、令和2年4月1日以降、各地方自治体で関連条例を制定し、条例の施行日以降、各自治体で実施されることになります。

名古屋市では、令和2年12月1日に条例の施行日を迎え、以降の不動産の相続案件については、「現に所有する者」の申告を行わなければならなくなりました。各自治体でも条例の整備が整い次第、順次、実施されていきます。

新制度の施行により、土地・建物の相続が発生した場合、土地・建物を現に所有する者は3か月以内に各地方自治体で定められた申告書に従って「現に所有する者」の申告を行わなければならなくなります。(より正確には、「現に所有する者を知った日から3か月以内」となっています。)

申告書には、現に所有する者を証明する資料として、相続人の戸籍謄本や遺言書、遺産分割協議書や印鑑証明書等、証明書類の添付が必要になります。尚、3ヶ月以内に相続登記がなされた場合は、本制度による申告は不要となります。

今回の制度改正と並んで、現在、「相続登記の義務化」の法整備も急ピッチで進んでいます。今回の制度改正は、その前哨戦となるものと思われます。「現に所有者となる者」の申告書に添付しなければならない各種証明資料は、相続登記に必要な証明資料と重複しているため、申告書を出すくらいなら相続登記をした方が早いことになります。

今後、不動産の相続が発生した場合は速やかに相続登記を行う時代になっていくものと思われます。世間には、まだ十分周知されていない制度ですが、罰則の適用を受けることのないようご注意下さい。

 

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