貴乃花親方の理事再選は大丈夫でしょうか。

貴乃花親方が日本相撲協会の評議委員会によって解任されました。私は、この処分について疑問を感じています。個人的な感覚としては、せいぜい「けん責」処分レベルの話ではないかと思っています。しかし、相撲協会側と貴乃花親方側それぞれ言い分があるでしょうから、その議論には立ち入りません。

今回の問題について、純粋に公益財団法人という法制度を前提として、法律論的に考察してみたいと思います。まず、日本相撲協会は公益財団法人です。公益財団法人に関する規律・ルールは、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」という法律と公益財団法人日本相撲協会が定めた法人の根本規則である「定款 (寄付行為) 」によることになります。

この定款の第32条には、「理事 … が、次のいずれかに該当するときは、評議員会の決議によって解任することができる。
(1)職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき
(2)心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき」とあります。

つまり、理事の解任権は、評議員会にあります。相撲協会の決定した解任決議を承認したり認可するものではありません。評議員会が独自の権能で解任するものです。また、解任理由は、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」のみです。(2項は対象外の為)

評議員会の議長が「礼を欠いた」云々と言っていますが、全く関係ない話です。

では、「職務上の義務違反又は職務を怠った」とは何でしょうか。評議員会の見解は、理事としての報告義務違反などの行為をとらえて「善管注意義務違反」や「忠実義務違反」としています。善管注意義務違反とは、善良な管理者として尽くすべき注意義務を欠いた行動を行ったことです。忠実義務違反も同じようなもので、理事として職務に忠実に行動していないという事です。理事会の役員てある理事には、この2つの法的義務があります。この2つの義務違反で解任したというのが評議員会の見解と言えます。この当否は別として、法律論的には成り立つ議論です。

次に、理事の選任について、定款の第27条には、「理事 …… は、評議員会の決議によって選任する。」とあります。つまり、理事の選任権についても完全に評議員会にあります。相撲協会による予選(予備選?、候補者選挙?)は、法的には意味がないと思います。もし、何らかの法的根拠をつけようとすれば、当然、定款に記載されることになりますが、特に記載は見られません。例えば、「理事は、相撲協会の推薦する候補者の中から、評議員会が選任する…」みたいな記載が必要ですが何も書かれていません。

つまり、理事の選任は完全に評議員会の独断で選任できるという立て付けとなっています。理事は、親方と社外有識者から数名づつ選任する取り扱いですが、親方の理事としてのマネジメント能力は評議員会でも良く分からないので、相撲協会の選挙結果で選ばれた候補者をそのまま選任してきたのではないかと思います。

問題は、次回の理事選任時に貴乃花親方が予備選で当選した場合、評議委員会が貴乃花親方を理事に選任できるかどうかです。選任したいかどうかではありません。法的に選任できるかどうかです。評議員会の委員は、今回、親方を解任しています。理由は、善管注意義務違反と忠実義務違反です。親方のマネジメント能力を完全に否定して解任しています。その同一人物を1~2か月後に再度選任できるかという論点です。八角理事長が選挙に出られますといったことは、法的に何の意味もありません。

実は、評議員会委員にも理事と同じ「善管注意義務」と「忠実義務」が課せられています。これに反すれば、解任や損害賠償対象になり得ます。今の評議委員が1月中に改選され、メンバーが入れ替わった等の理由がない限り、同一人物を解任し直後に選任することは、明らかに評議員として善管注意義務違反や忠実義務違反に該当します。

さらに、善管注意義務などの義務は、不注意責任です。本来払うべき注意義務を不注意で(つまり、過失で)払わなかった責任です。つまり、うっかりミスの程度の重いものです。次回、貴乃花親方を理事に選任することは、うっかりミスではありません。故意です。能力がないと判断して解任した人物を再度選任することは、背任などの犯罪構成要件に該当する恐れもある行為に見られかねません。

つまり、貴乃花親方を理事に選任すれば、貴乃花親方を解任したと同じ理由で、あるいは、それ以上の非難で自分たち評議員が責任を問われる恐れがあるのです。評議員会のバックには、法律の専門家が多数いると思いますので、このような議論は当然理解していると思います。解任決議の時は、欠席委員がいましたが、次回選任決議の時は、全員出席するかどうか注目されます。

今後どうなるかは分かりませんが、このような法律論は封印して、政治的に貴乃花親方を再選することも考えられますが、どうでしょうか。

尚、立行司の式守伊之助のセクハラ疑惑が新たに発生しています。今年も相撲界は波乱含みの年となりそうです。

貴乃花親方頑張れ。

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