印鑑の廃止に向けて世の中が動いているようです

政府の大号令のもと行政手続きにおける無駄な印鑑の廃止が検討されており、政府や多くの自治体で印鑑廃止の方針が打ち出されています。また、民間企業においても新型コロナウィルス感染防止対策として広まったテレワークで業務運営上支障となった書類への押印作業にメスが入ろうとしています

世の中の電子化が進み、全ての書類が電子化(デジタル化)されるようになれば、実物としての印鑑は装飾品として等の特殊な用途以外では必要なくなります。電子データには、当たり前ですが押印はできないからです。但し、世の中の紙の書類を全てなくすことは現実的には難しいと思います

政府が大号令をかけて行っている印鑑の廃止は、行政機関内部での書類、特に稟議関係書類への無駄な押印の廃止がそもそもの狙いであったと思います。1つの決裁文書について、作成担当者印から始まって関係各部署の担当者印や上司印が連なって押され、最後に決裁者が決裁印を押す流れについて問題視したのだと思います。

この問題は、印鑑の問題というよりも行政の稟議の手順の問題であるとも考えられます。つまり、無駄な担当者の印鑑を押さなくても良い簡便な事務フローに代えればよい問題と言えます。電子稟議システムを導入して「印鑑を電子化したからOKです。」とはならない問題です印鑑を押す人を真に必要な人に絞って事務のステップを簡素化することこそが印鑑の電子化以上に大切であると思います

また、国民が行政機関に対して申請や届出をする場合の印鑑も可能な限り廃止する動きのようです。ところで、現実には、市役所や区役所等で国民が書く書類に印鑑の押印は既に少なくなっています。戸籍謄本や住民票を取得する場合等、印鑑はいりません。そり代わり、必ず窓口で運転免許証などの本人確認書類の提示を求められます。

現在、申請や届出で押印を求めているものは、それなりに意味のあるものが残っていると思います。これを安易に全て押印不要とすることには問題があると思います。婚姻届けや離婚届には押印欄があります。これは行為の重要性に鑑み押印を残しているとも考えられます。小学生の通知表には、保護者が確認した旨を示す親の押印欄があります。印鑑廃止にあたっては、印鑑を現在求めている意味を十分吟味して廃止の有無を検討してもらいたいと思います

今後、政府による強力な後押しによって、行政機関に止まらず民間企業においても電子稟議システムや電子契約システムなどの導入によって印鑑廃止の流れは進んでいくと思います。しかし、中小・零細企業への普及には、まだ相当の時間を要すると思います。

我々法律実務家の世界では、契約書への実印(又は会社実印)の押印によって契約の成立の真正を確認しています。今後は、紙の契約書から電子契約書に徐々に置き換わっていくと思いますが、個人や中小零細企業まで浸透していくには、やはりまだ相当の期間が必要だと思います。

今後しばらくは、紙の契約書類への実印の押印と印鑑証明書の添付はなくならないと思います

資産の中でも重要な不動産の所有権を証明する、いわゆる不動産の「権利証」も現在では電子化されています。昔の権利証は、紙の申請書や契約書に登記所の赤い登記済の印判が押してあったものでした。現在では、法改正により12桁のパスワードになっています。これにより、パソコンに12桁のパスワードを入力することによってオンラインでの登記申請ができるようになりました

登記申請をオンラインで申請する場合は、印鑑は使用できませんので、事前に登録した電子認証を使用して登記申請を行います。電子認証を使用するとは、結局、パソコンに電子認証用の個人のパスワードを入力することになります。

個人の本人確認であれ、不動産の所有権であれ全てパスワード化されるということになります。

但し、登記申請についても現在ではまだ全てをオンラインによる申請だけで完結することは難しくなっています。必要な書類で電子化できていないものは、郵便で別送する必要があります。例えば、相続登記を申請する場合の戸籍謄本や住民票などは電子化されていませんので紙媒体を別途郵送する必要があります。登記申請の世界でもまだ電子化の途上なのです。

世の中の契約書の多くは、まだ電子化されていませんので、紙の契約書への印鑑の押印は必要となっています。契約書の作成目的は、いざという時に自分自身の主張を立証するためのものです。契約で争いが生じれば、最終的には裁判所での決着となりますが、裁判所では、契約書への本人の署名や押印、とりわけ実印が押印されている書類は極めて証拠価値の高いものとして評価します。

従って、紙媒体の契約書が存続する限り、実印や印鑑証明書の必要性は当分揺るがないものと思われます。世の中のIT 化は進んでいますが、マイナンバーカードの普及1つとっても個人情報流出懸念があり、また、不正口座を使用した預貯金の不正引き出し問題なども発生しており、人々のこれら不安が払しょくできない限り簡単には進まないかもしれません。

印鑑の廃止は、大号令の下、一律に実現できるものではなく世の中のIT化の普及とともにある程度の時間を必要として実現していくものと思います。実印の必要性は当分の間はなくならないと思います。

 

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