不動産取引において水害リスクの説明を義務化へ

令和元年は台風19号により関東地方や東北地方などが記録的な大雨となり、洪水により甚大な被害が発生しました。また、台風15号は、千葉県を中心に観測史上最強クラスの勢力で上陸し、各種施設の倒壊や住宅屋根の破損被害をもたらしました。このような風水害による災害の発生は、令和2年以降も引続き発生する恐れがあると考えられています。

このような状況を踏まえ、国土交通省は、住宅の売却や賃貸などを扱う不動産業者に対して、大雨が降った場合の水害リスクを購入・入居希望者に説明するように義務付けることとしました。具体的には、不動産仲介業者に在籍する「宅地建物取引士」が契約に当たって顧客に説明しなければならない「重要事項説明書」の記載項目として追加されることとなりました。実施時期については、今後発表されると思います。

「重要事項説明書」とは、不動産物件の売買や賃貸を経験された方でしたらご存じかと思いますが、これから購入する(あるいは賃貸する)物件について、顧客が取引判断をするに当たって知る必要のある重要な情報について記載されているものです。建物の耐震状況や居住地域の土砂災害情報など顧客が取引判断する際に参考とすべき情報が書かれています。宅地建物取引士は、契約締結時、内容を読み上げて顧客に説明する義務があります。

今回、この重要事項説明書に水害リスクに関する情報を記載し、顧客が納得の上で契約判断ができるようにしようというものです。水害リスクは、各地方自治体が発表している「災害ハザートマップ」のうち水害リスクに関するものから作成します。水害に関するハザードマップは、地面の高低情報を基礎に作成している為、その精度は極めて高く、実際に浸水被害に遭った地域の範囲とマップが概ね符合する信頼性の高いものとなっています。

令和2年1月27日の衆議院予算委員会で赤羽一嘉国土交通大臣が委員からの質問に対する答弁で洪水リスクの説明義務化について実施することを明言しました。大臣によれば、「ハザートマップを活用した重要事項説明書による説明の義務化を不動産関連団体と協議を進め、色々と困難な点もあったが、今回協議が進み実施できることとなった。」と答弁しました。

この大臣答弁により、関係省令が改正され重要事項説明書の記載事項が改定されると思われます。省令改正後は、土地や建物を購入する場合、宅地建物取引士から「この土地は大雨による河川の氾濫や台風時、〇〇程度の浸水リスクがあります。」というような説明になるかもしれません。

従来、土地建物の価格やマンション価格に洪水リスクの評価はあまり反映していませんでした。「どちら向きの物件か」「土地の形状は良いか」「最寄り駅から近いか」「住環境として良いか」「教育環境はどうか」などの評価項目が中心でした。今回の改正により、今後、水害リスクの評価が不動産価格に影響を及ぼすことが予想されます

日本の国土は河川が多く、平地が少ない地形の為、居住環境に適した場所は限られています。リスクの少ない場所を選んで住居としたいとは思いますが、現実問題としては、経済的な面から一定のリスクは甘受せざるを得ない場合が多いと思います。水害リスクはリスクとして正しく理解した上で居住する場所を選択することも賢明な判断となる場合があります。しかし、何も知らないで契約するよりリスクを理解して契約することが大切であると思います。

ご自分でもハザートマップを見て頂いて、災害時の避難方法を前もって検討しておくことが必要なリスク対策であると思います。

Follow me!