一人暮らしの高齢者が自宅を売却して介護施設に入る場合の注意点とは

平成27年の国勢調査によれば、65歳以上の男性の8人に1人、65歳以上の女性の5人に1人が一人暮らしとなっています。男女共通で見ると65歳以上の人口の16.8%の方が一人暮らしとなっています。また、この傾向は年々高まっています。

自宅で年金生活をしている一人暮らしの高齢者が、病気や怪我、認知症などで要介護状態になり、自宅を売却して介護施設に入所しようとしても思い通りにならない場合があります。

病気や怪我の状況によっては高齢者の認知能力に問題が生じるためです。高齢者と不動産の売買契約を締結する場合、最近はどの事業者も高齢者の認知能力の確認を行います。認知能力に問題があれば自宅の売却は難しくなります。

現在は自宅で一人で生活できている高齢者の方も先々の状況は見通せません。階段などで転んで怪我をして、一時的に病院などで寝たきり状態になると認知能力が急速に衰えてしまうことがあります。怪我が回復して自宅に戻ったとしても、従来のように一人で生活ができない場合も増えてきます。この時、自宅を売却して施設への入所を考えることになります。

自宅で一人暮らしをしている高齢者には、亡くなった配偶者との間に子供がいることが多いと思います。例えば、長男は結婚して仕事の関係で遠隔地に居住していたり、長女は結婚して近所に住んでいたりします。いずれの子供達も自宅をローンで購入しているため、両親とは同居していない状況となっています。

子供達から見れば、高齢の親が認知症などで要介護になった場合、実家を売却したお金で介護施設に入所すれば良いと考えていることが多いと思います。しかし、前述したように認知症になった後に自宅を売却することはできなくなります。

子供達の中には、実家の売買契約は子供である自分達が行うので心配ないと考える方も多いと思います。しかし、法律的には実家の所有者は親ですので、親以外の方は代理権が事前に付与されていない限り実家の売買契約はできないことになります

認知能力が低下した状態で自宅の売却がどうしても必要になった場合、家庭裁判所に高齢者のための成年後見人の選任の申立をする必要があります。選任された成年後見人は、高齢者の置かれた状況を確認した上で、自宅売却が必要と判断した場合には、家庭裁判所の許可を得て高齢者の法定代理人として自宅を売却します。

ただ、成年後見人が選任されるまでには、数か月の期間が必要となり、専門職の成年後見人が選任されれば、報酬が発生します。しかも、報酬は高齢者が亡くなるまで必要となります。

このような状況にならないためには、高齢者が元気なうちに事前準備を検討しておくことが必要です。例えば、少し言葉が難しいですが、子供達との間で「任意後見契約」や「家族信託契約」などを締結しておくことも選択肢の一つとなります。

自分が亡くなった後の遺産の分配方法については、公正証書などによる「遺言」をしておけば良いわけですが、認知能力が低下した状態での生前の生活支援は、遺言ではどうにもなりません。

任意後見契約」は、高齢の親と子供の間で、親が認知症になった場合は子供が事前に契約で定めた範囲内の事柄について親を代理して各種事務を行うことができる契約です。契約で介護施設入所のため自宅を売却することを定めておけば、子供が売却行為を行うことができます。

家族信託契約」は、高齢の親が子供に自宅を信託し、自宅の管理・処分権を子供に与える契約です。自宅の所有権を子供に信託として移転させます。子供は自宅(実家)を管理し、親が快適に居住できるようにします。親が認知症になった場合は、自宅を売却し、売却金で親を介護施設に入所させることができます。

なお、任意後見契約や家族信託の上記説明は、活用方法の一事例ですので、契約の定め方によっては色々な活用方法が他にもあります。

また、それぞの契約には一長一短があります。

家族信託契約は、信託契約の目的を定める必要がありますが、目的として、例えば「親の快適な暮らしを行うこと」を挙げれば、その目的に沿った管理・処分行為を行うことができます。将来の状況の変化に応じて臨機応変に対応することが可能となります。

これに対して、任意後見契約は、代理できる項目について契約書に具体的に明示する必要があるため、当初想定していない事柄については、対応できない場合があり得ます。

また、家族信託契約は信託設定後、毎年、確定申告が必要となるなど運用面で負荷がかかる場合があります。一方、任意後見契約は、実際に親が認知症にならない限り契約の効力は発生しないため、契約締結後も親が認知症になるまでは特段の負荷はありません。

親の保有資産の状況によっては、2つの契約を同時に締結する場合もあります。「親の不動産や預貯金の管理などは家族信託契約によって行い、身の回りの事務的な世話は任意後見契約で行う」などが具体例となります。

一人暮らしの高齢者は、できるだけ元気なうちに信頼のおける親族と今後の介護などのことについてお話をしておくことが大切になります。一人暮らしの高齢の親を持つ子供達も自宅の処分方法について事前に親と話し合いをしておくことが必要だと思います。いざという時に慌てないように事前の準備をお考え頂きたいと思います。

 

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